『がんの補完代替医療ガイドブック』(第3版)の読み方

補完代替医療を使用する前には よく考えることが重要

監修●住吉義光 玄々堂木更津クリニック副院長
取材・文●伊波達也
発行:2014年5月
更新:2014年8月

  

「補完医療についてじっくり考えてもらうことが目的です」と語る住吉さん

通常のがん治療への不満、再発への恐怖感など、がん患者さんの心境は極めて複雑だ。こうした状況下で陥りやすいのが、健康食品やサプリメントなどに依存するようになること。周囲の人から勧められて手にするケースが多いが、効果がなく逆に有害となることもあり、使用に当たっては十分な注意が必要となる。

2012年に発行された『がんの補完代替医療ガイドブック』第3版では、補完代替医療を選択する際に、事前に注意事項を確認することを勧めている。ガイドブック作成者の1人、玄々堂木更津クリニック副院長の住吉義光さんに、作成に至る経緯、使い方などを聞いた。

日本ではまだ専門的な研究施設なし

補完代替医療とは、医療現場での通常の治療である西洋医学とは異なる、健康食品やサプリメント、鍼灸、整体、アロマテラピー、気功ほか民間療法ともいわれる治療法のことをいう(表1)。

表1 補完代替医療(CAM)の分類(米国NCCAMによる:2012.2.1時点)

米国には、国立補完代替医療センター(NCCAM)という国の研究施設があるが、日本にはしかるべき施設がない。大学の医学部においても、補完代替医療についての講座はほとんどなく、学生に対する講義も行われていない。医療現場では、むしろ補完代替医療についての認識は薄く、中には単に怪しいエビデンス(科学的根拠)のない治療とみなしている場合も多い。

補完代替医療受療者は全患者の45%

しかし、がん患者の中には、がんの3大治療(手術、化学療法、放射線療法)以外に、これら補完代替医療(多くの場合は健康食品・サプリメント)を受けている人が約45%いると言われ、その中には主治医に内緒で実施している人も約6割いるのが実情だ。

さらに、がんの終末期において、西洋医学のエビデンスに基づく治療を諦めざるを得なくなったときに、わらをもつかむ気持ちで患者が求めるのが補完代替医療だ。そしてそのような窮地につけ込んで、高額な医療や健康食品を勧める医療関係者や業者がいる点も問題視されてきた。

このような現状を正しく把握し、対策を考えていくきっかけとなったのが、2001年、厚生労働省がん研究助成金による研究班(「我が国におけるがんの代替療法に関する研究」班:主任代表者・兵藤一之介)による、全国のがんの医療現場における補完代替医療の実態調査だ。

ひと月あたりの平均出費は 5万7千円

表2 補完代替医療を利用しているがん患者さんの背景(1)

表3 補完代替医療を利用しているがん患者さんの背景(2)

図1 補完代替医療利用段階(ステージ)の分布

CAM:補完代替医療

前述した利用状況以外にも、補完代替医療への患者1人あたりの平均出費は月5万7千円。利用目的は、がんの進行抑制が67%、治療が45%(表2)。利用者の5%は副作用を経験。57%は十分な情報を得ていない。利用について医師から質問された人は16%しかいない(表3)。利用者以外に利用を考えたり、興味を持っている人を含めると80%以上になるといった実態が明らかになった(図1)。

さらに、その結果を踏まえつつ、がん患者に補完代替医療の正しい知識を身につけてもらうために、2006年『がんの補完代替医療ガイドブック』(編集・制作:「がんの代替療法の科学的検証と臨床応用に関する研究」班(厚生労働省がん研究助成金)が発刊された。

じっくり考えてもらうことがねらい

前出の研究班の2代目の代表者で、同ガイドブックの作成にあたった玄々堂木更津クリニック副院長の住吉善光さんは、発刊の経緯をこう話す。

「ガイドブックの表紙にも記していますが、このガイドブックは補完代替医療を否定するものでも推奨するものでもありません。これを読んでもらうことによって、補完代替医療についてじっくり考えてもらうことが目的です。がんの治療を受けながら、もし補完代替医療を利用するのであれば、正しい情報を知り、第三者の意見やホームページ、コマーシャルなどの宣伝の情報を鵜呑みにしてはいけないということを理解するための一助になればいいと考えたのです」

活用編と資料編の2部立て

表4 利用している補完代替医療の種類

表5 利用している健康食品・サプリメントの種類

ガイドブックは、現在、2012年2月に改訂された第3版が発刊されている。補完代替医療の新たな臨床試験結果・安全性、そして注意点などが、最新情報に更新されており、活用編と資料編に分かれている。

活用編では補完代替医療とは何か、種類、方法、受ける場合の心構え、確認すべきこと、情報収集法などが解説されている。

資料編では、利用実態と問題点について、2005年に発表された補完代替医療利用の実態調査の結果(表4、5)を分析しながら解説している。さらに補完代替医療の科学的検証と有効性についての考察。アガリクス、プロポリス、AHCC、サメ軟骨、メシマコブ、プロバイオティクス、アロマテラピー、漢方薬、鍼灸といった利用度の高いものについての検証も行っている。

わずか44ページながら必要な情報が簡潔に整理されており、この1冊で、補完代替療法に対するリテラシーはかなり高まるはずだ。

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