長谷川記子の心と体の特効薬

言葉のない愛の伝道師、アロマ


発行:2004年1月
更新:2013年8月

  

はせがわ のりこ
星薬科大学薬学部卒業。
香りや予防医学への興味から、ヨーガ・薬膳・ハーブのアロマテラピーを研究。
薬剤師、アロマテラピスト。著書『ガンを癒すアロマテラピー』(リヨン社)

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イラスト:フランキンセンス
フランキンセンス

がんで精神的な衝撃を深く受けると、絶望感に陥り、肉体的にも精神的にも、他人との接触を断ち、自分の中に引きこもってしまう人がいること、そしてそういう方にはローズとラベンダーが孤独を癒してくれることを「花に囲まれたような幸福感を生み出すローズ」に記しましたが、今回紹介するのもこれと似たような方ですが、もう一つ別のエッセンシャル・オイル(精油)の効用について述べたいと思います。

60代の男性が大腸がんになり、家に引きこもってばかりで困る、なんとかしてほしいと、その奥さんが私のところへ相談に来られたのです。

ご主人はがんになるまでは病気一つしたことがなく、仕事一筋で頑健な、いわゆる強い男でした。少なくとも奥さんにはそう見えたようです。

ところが、がんとわかるや、食事が摂れないために次第にやせ衰えたせいもあるのですが、その強い男像がもろくも崩れ去り、「俺はもうダメだ」「もう死ぬ。死ぬのは怖い」と奈落の底に落ち込んでしまったのです。

しかし、問題はそれだけではありませんでした。それまでその強い男に依存しきってきた奥さんまでがパニックに陥り、心身が動揺しだしたのです。一家の支柱が倒れたことから、強い男という夫に対するそれまでの固定観念が崩れ、いわば共倒れになった形です。夫を愛すれば愛するほど、哀しみが何倍にも増えた模様です。その精神的痛手は大きく、電話をしながらメモをとるのも手が震えて書けないという状態でした。

ところが、そんな状態にもかかわらず奥さんは、自分の気持ちを無理矢理奮い立たせてご主人を何とか明るく励まそうとするのです。しかし、それは返って逆効果なのです。このような絶望感を抱いているときに励ますというのは、患者さんを余計に心理的に追い込んでしまい、結局、互いが傷ついてしまうという結果になってしまったのです。

このようなときに効果を発揮するもう一つのアロマが、フランキンセンスとゼラニウムの組み合わせです。フランキンセンスは、乳香と呼ばれるように、樹皮の甘い香りですが、古代エジプトで心の安定を図る霊的儀式や瞑想などに使用されてきた香りです。ただ、これは人によって好き嫌いのある香りなので、この患者さんには私はもう少し日本的な香りのするローズウッド系のホウショウを用いることを提案し、これとローズマリーとの組み合わせによるトリートメントの指導を奥さんにして差し上げました。

するとどうでしょう。2週間ぐらいしたら、ご主人は大きく変わったそうです。夫婦のコミュニケーションがよくなり、ご主人の気持ちも随分楽になり、栄養補給の点滴をしながらですが、外に歩けるようにもなったとのことです。

アロマは、夫婦間に言葉のない愛を伝える伝道師役を果たしたということでしょうか。

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