長谷川記子の心と体の特効薬

心の扉を開いてくれた忘れられないMさん


(2004年12月)

はせがわ のりこ
星薬科大学薬学部卒業。
香りや予防医学への興味から、ヨーガ・薬膳・ハーブのアロマテラピーを研究。
薬剤師、アロマテラピスト。著書『ガンを癒すアロマテラピー』(リヨン社)

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日本人はさまざまな行事や草花の中で、四季の移り変わりを感じてきました。たとえば5月の菖蒲湯の爽やかさには、男の子が丈夫に成長することを祈る気持ちが含まれ、情緒的であり優雅でもあります。また秋に咲く菊の花は、奈良時代末から平安時代に、中国から不老長寿の薬として伝えられています。菊の花をひたした「菊酒」の風習は、菊の芳香成分が邪気を払い、寿命を延ばすという、古い中国の言い伝えによるものです。私たちが仏前でたく線香も、邪気を払い浄める香りだそうです。仏前にいくと心が静まるのは、こうした芳香成分によるアロマテラピーのおかげなのでしょう。

仏教と深くかかわった形で伝来した香料は、奈良時代後半から平安時代になると、香り自体を楽しむ貴族のたしなみの一つとして、使われるようになったようです。『源氏物語』には光源氏が恋人との逢瀬の際に、着物の袖から、かぐわしい香りを漂わせていたという記述が載っています。私たちの先祖が、いかに香りに対して敏感であり、生活の中で香りを大切にしてきたかが感じられます。アロマテラピーは、実際にはいたるところで、日本人の身近な生活の中に溶け込んでいたのです。

近代に入ると、植物の薬効成分を抽出し、合成する技術が発達しました。多くの科学者たちが研究を重ねた結果、植物から抽出された抗がん剤もつくられました。しかし、その一方で合成医薬品は副作用や薬害などを生むことがあることから、自然の薬効成分を含むアロマの療法が再び注目されています。

アロマは肉体的な苦痛を軽くしてくれるだけではありません。不安や死の恐怖、ショックなどをやわらげ、心を癒してくれる効果もあります。まるで季節の花の香りに心が動かされるように、自然に心が開かれ、揺れる気持ちを落ち着かせてくれるのです。

私がホスピスでアロマトリートメントをして差し上げたMさんは、会社を経営する傍ら、海外へのボランティア活動もされてきた方でした。死の恐怖を乗り越えて、「がんは進行しているけれど、元気になったら講演をしたい」と最後まで生きる意欲を持っていらっしゃいました。

またMさんは、アロマの仕事を続けるかどうかで悩んでいたボランティアの1人に「自分がやりたいと思うなら、1人でもいいから始めてごらん。組織に入っていなくても、アロマボランティアはきっとできると思うよ」と励ましてくれたこともありました。命の瀬戸際にたつMさんの強さ、やさしさに触れるたびに、私は魂が震えるような思いをしました。

亡くなる1週間前「まるで春風になったようだ」と言う言葉を残されたMさん。私の忘れ得ぬ人となりました。