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がん治療における漢方薬 がん治療の補完療法としての役割

エビデンスの認められた漢方薬をがん患者さんへ届ける!

監修●上園保仁 国立がん研究センター研究所 がん患者病態生理研究分野長
取材・文●伊波達也
(2015年5月)

「漢方薬の有効性が証明されれば、患者さんも医師も使いやすくなります」と話す上園保仁さん

西洋医学の進歩により、がん患者さんの治療やQOL(生活の質)は大きく改善されてきた。ところが、その一方で治療中の不調や副作用などに悩む患者さんが数多くいる。そんな中、エビデンス(科学的根拠)の認められた漢方薬で症状を緩和したいという医師や患者さんが増えてきている。

緩和ケア、QOLの維持の鍵を握る漢方薬

2006年、がん対策基本法が施行されて以来、がん治療に対する施策は様々な方面でさらに進歩し始めた。

予防、診断、治療の流れはもちろんのこと、昨今では、その中で患者のQOL(生活の質)を保つということにも重点が置かれるようになってきた。

その背景には、がん治療が進歩して生命予後が延び、いわゆる〝がんサバイバー〟と言われる人々が、あらゆるがん種において増えてきたことがある。全がんの平均5年生存率は約60%程度にまで達しているという。

緩和ケアについても、いわゆる終末期のみならず、がんの告知を受けたとき、治療中、そして治療後の予後経過観察時期まで継続して実施されるべきだという考え方になってきた。

2011年には、米国の著名な医学雑誌『The New England Journal of Medicine(ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン)』に、緩和ケアは早期から実施するほうが、生命予後が延びるという論文も発表された。

そんな中で漢方薬は、緩和ケアと密接に関わり、QOLの維持に貢献できる治療であるとの認識が広まっている。

がん治療においては否定的に捉える医師が多い

表1 西洋薬と漢方薬の違い

漢方薬は、がんに対する3大治療である手術、放射線療法、化学療法に並ぶ治療としてではなく、それら主体の治療を補完する治療に向いている。具体的には、治療によって生じる痛みや吐き気、倦怠感などの副作用の軽減のため、そして終末期に現れる痛みや、がん死因の2割を占めるといわれる『悪液質』という、がんが原因で痩せ衰えていくときに起きる症状を軽減させるために、必要不可欠であると考えられるようになってきた。

「患者さんは、治療によりがんが取り除かれたとしても、心身状態がトータルで改善されなければ良くなったとは言えません。倦怠感や疲労感など、治療の副作用が軽減されなければ患者さんはつらいのです。日本の歴史を紐解くと、そうした症状の1つひとつに対処するために、漢方薬が役割を果たしてきたのです」

そう話すのは、国立がん研究センター研究所がん患者病態生理研究分野長の上園保仁さんだ。

日本では古くから、頭痛をはじめとする痛み、女性に特有の更年期障害などで現れる不定愁訴、原因がわからない疲労感など、西洋医学的にははっきりとした診断名のつかない、あらゆる症状で漢方薬が使われてきた。

ところが、がんとなると話は別になる。西洋薬と漢方薬の違い(表1)からか、がん治療に携わる医師の中には、いまだに漢方に対しては、サプリメントや民間療法などと同等に認識し、否定的に考えている人も多い。

エビデンスに基づく漢方療法の研究に着手

そこで上園さんらは、〝エビデンス(科学的根拠)に基づく漢方療法を〟と考え、様々な研究や啓発活動に着手し始めた。まず、厚生労働省が推進する第三次対がん総合戦略研究事業の一環として『がん治療の副作用軽減並びにがん患者のQOLの向上のための漢方薬の臨床応用とその作用機序の解明』というテーマで研究班を立ち上げ、2010年から2013年までの4年間、研究にあたった。

「この研究班では、『がんの痛みをとること』、『がん悪液質を抑えること』などに対して、漢方薬が活用できることを証明するために、2つのアプローチを実施しました。1つは、漢方は〝なぜ効くか〟を解明する基礎研究で、もう1つは〝本当に効くか〟を証明する臨床研究です」

現在、漢方薬は148種類で保険診療が認められている。上園さんらは、そのうち治療現場でよく使われている大建中湯だいけんちゅうとう六君子湯りっくんしとう半夏瀉心湯はんげしゃしんとうについての基礎研究を行った。

「六君子湯は、胃もたれ、食欲不振、嘔吐などの症状軽減に用いられ、その効果については患者も医師も実感し、評価されています。私たちの研究によって、六君子湯を構成する8種類の生薬のうちの3種類の成分が、食欲を促進するグレリン(胃から生産される消化管ホルモン)の分泌を増強して、食欲不振を改善するというメカニズムを解明しました」

また、手術後の腸閉塞などの腸の癒着などを改善する大建中湯についても、大建中湯を構成する生薬3種類の協調により、腸を動きやすくしていることがわかってきた。米国では、クローン病や潰瘍性大腸炎などの治療に効果的であるかどうかの研究も現在行われている。今後は、漢方薬と腸内細菌との関係を解明する方向へ向かう。

半夏瀉心湯については口内炎への効果を検証する第Ⅱ相試験で、治りが早いということを検証した。

さらに抑肝散よくかんさんは、認知症の周辺症状である徘徊やせん妄への効果があるとされているが、「手術後のせん妄などへの効果は今後検証すべき課題です」と上園さんは話す。