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東洋医学の視点でがんを捉える

第2回 副作用の軽減、再発予防、そして―― 漢方が、がんに対してできること

監修●平崎能郎 千葉大学大学院和漢診療学特任准教授
取材・文●菊池亜希子
(2020年11月)

「日本の漢方医は皆、西洋医学の医師でもありますから、西洋医学と東洋医学、両方の目で診て最善を尽くします」と語る平崎さん

がんは、体内の誤作動が重なって作られた〝自身の一部〟。そんな視点でがんという病を捉えると、治療を受ける心持ちはもちろん、日々の暮らし方も変化するだろう。

がんが発生する原因を知り、生活習慣の見直しや漢方がそれを防ぐ手立てになり得ることを学んだ第1回に続き、第2回では、漢方が実際にがんに対してできることについて、千葉大学大学院和漢診療学特任准教授の平崎能郎さんに話を聞いた。

検査数値には出ない症状

西洋医学は「がんを撲滅」することを目指している。対して、東洋医学の目指すところは「がんとの共存」。がんは自らが作り出した〝自身の一部〟だから、「有利な条件で共存できれば問題はない」と東洋医学は考える。このスタンスの違いが、がんに対するアプローチに現れているのかもしれない。

東洋医学のアプローチは大きく分けると、補法(ほほう)と瀉法(しゃほう)の2種類。は、体に良いエネルギーを補うこと。は、もともと「水をうつす」(『漢字源』より)という意味で、体にとって悪いものやエネルギーを取り去ることだ。ちなみに、がんを手術で摘出する、放射線や抗がん薬で死滅させるといった西洋医学が行う治療法は、東洋医学から見ると、すべて瀉法に当たる。

がん告知を受けて、ただでさえ気力が低下しているところに、手術や放射線療法による体力低下が加わり、さらに化学療法やホルモン療法といった治療が続く。自覚的な「つらさ」は検査で測れないことが多いので、考慮されずに治療が続けられ、患者はとにかく頑張り続けなくてはならない。これが現代のがん治療の現実であり、同時に盲点ではないだろうか。

他者には想像できないほどのつらさは、東洋医学では「(きょ)」の状態。そして、虚に対する補法は、漢方がもっとも得意とすることだ。体の元気(気)を補ったり、自然免疫力を補ったりできる補法こそが、西洋医学にはない、東洋医学独特の治療法と言えるだろう。

ちなみに、補法は「母性」に例えられるそうだ。温かく包み込むようなエネルギーを連想するからだろう。対して「父性」に例えられる瀉法は、さながら外敵を排除して家族を守るイメージだろうか(図1)。

西洋医学と東洋医学、タッグを組んで

西洋医学も、アルブミン数値が下がればアルブミンを点滴するし、食欲不振なら点滴でブドウ糖を補ったりするので、これらも補法では? と思うかもしれないが、これらは東洋医学で言う補法とは実は違う。

たしかにこうした点滴で回復するケースもあるものの、数値的には回復しても、疲れやつらさが残ることが多い。それは、物質は補っても、それを「巡らせる」という発想が、残念ながら西洋医学には乏しいからだろう。物質を補い、かつ巡らせる、つまり機能させることが東洋医学の補法なのだ。

逆に、瀉法は西洋医学のほうが優れている。東洋医学にも、下剤を服用したり、汗や尿を通じて毒素を排泄するなど瀉法はあるが、がんそのものを取り除く手術や放射線療法には到底敵わない。瀉法に長けた西洋医学と、補法が得意な東洋医学。西洋医学と東洋医学は相反するものではなく、互いに強みを生かし補い合って、がん治療が行われるようになるのが理想だろう。

治療以外でも、東洋医学の補法が大切な場面が多々ある。例えば「がん告知」、さらには「余命宣告」など、つらい事実に直面する場合。患者は当然、落ち込み、虚してしまう。そういうときこそ補法が必要なのだ。

補法は数限りなくあって、家族と心を通い合わせて互いの大切さを確認し、心を満たすこともその1つ。虚した臓器を漢方薬で元気にしたり、鍼灸で体内の巡りをアップさせたり、ほかにも、不安やつらい気持ちをしっかり聞いて理解する傾聴療法なども補法に含まれる。実際に、西洋医学と東洋医学の併用を念頭に、補法を活用する医師も増えているそうだ。

標準治療を完遂する手助けに

漢方という名は「の国(中国)からきた法」という意味で、日本で作られた言葉。鎖国中の江戸時代、オランダから初めて西洋医学が入ってきたことで、もともと日本に根づいてきた治療法を「漢方」、新しく入ってきた西洋医学を「蘭方(らんぽう)」と呼び、区別したのが始まりだ。鍼灸も気功(導引)も、もちろん漢方薬も「漢方」の1つである。

ここからは、漢方薬が、がんに対してできることを具体的に考えていこう。

1つ目として、手術や放射線療法、化学療法といった標準治療に伴う副作用を、漢方薬は軽減させることができる。

例えば、胃がんで胃を部分切除すると、消化器系の機能が滞り、脾(ひ)の力が弱まって、食欲不振に陥ることが多い。その場合、脾の機能を高めて胃腸の巡りをよくする六君子湯(りっくんしとう)、さらに不足した気を補う補中益気湯(ほちゅうえっきとう)といった漢方薬がよく使われる。

化学療法中に出るしびれ、食欲不振、嘔吐や倦怠感。放射線療法後に出る口内炎や肺臓炎、そして下痢。大腸がん手術後に頻発する腸閉塞など、がん治療によってもたらされる副作用はさまざまで、その症状も千差万別だ。

制吐薬などの副作用対策も進化して、以前よりずいぶん症状が緩和されたものもあるが、つらい症状は今なお多い。副作用に耐えられず標準治療を途中で断念するケースも決して少なくないという。

そういうときこそ、漢方の力を借りたい。化学療法が決まったら、考えられる副作用に備えて、開始する数日前から漢方薬を服用するとよい。漢方薬で副作用を軽減することは、必要とされる標準治療を完遂できることにも繋がるのだ。

脾:五臓の1つで、食べ物などから栄養分を取り入れて命を育む役割を担う臓。詳しくは「第1回 体の中にがんができるって、どういうこと? がん予防と再発予防の手助けを漢方が担える可能性が」を参照