健康食品「LEM」(シイタケ菌糸体培養培地抽出物) 基礎研究で、がん細胞の増殖をストップすることが明らかに

監修●久保田 真 野田食菌工業株式会社研究部
取材・文●七宮 充
発行:2018年9月
更新:2018年10月

  

「科学的なデータをつみかさねることで、LEMに対する信頼感を高めていきたい」と語る
久保田 真さん

シイタケの菌糸体を長期間培養し、有用なエキスを抽出した健康食品「LEM(Lentinula edodes mycelia solid culture extracts)」

これまでの研究で、抗腫瘍効果など免疫を介した様々な生理活性が示されてきた。そしてこのほど、がん細胞を用いた解析結果から、LEMがダイレクトにがん細胞の増殖を抑制していることが突き止められた。

LEMの製造・販売元である野田食菌工業株式会社研究部の久保田真さんは「これまで不明だったLEMの分子的なメカニズムの一端が明らかになった。こうした科学的なデータを積み重ねることで、LEMに対する信頼感・安心感を高めていきたい」と語る。

シイタケの菌糸体を培養し、エキスを抽出

シイタケは日本人にとって身近な食品の1つ。ビタミンB1、B2、ビタミンD、ナイアシン、カリウムなどビタミンやミネラルを豊富に含む。また、食物繊維の仲間(多糖類)であるβグルカンも多く含有しており、免疫力を高め、ウイルスや細菌の感染を防いだり、がんや生活習慣病の予防に役立つとされている。

普段、私たちが調理して食べるのは、大きく広がったかさや軸の部分で、ここを「子実体(しじつたい)」という。一方、シイタケの根に当たるところは「菌糸体(きんしたい)」と呼ばれる(写真)。菌糸体が栄養を蓄え、成長がピークに達すると、子実体が作り出される。いわばシイタケの母体で、βグルカンやビタミン、ミネラルのほか子実体にはない多くの有用な成分が含まれている。この菌糸体を培地でじっくり培養し、エキスを抽出し、粉末化やドリンク剤化した健康食品が「LEM」だ。

写真 シイタケ菌の菌糸体

提供:野田食菌工業株式会社

「シイタケの子実体ではなく菌糸体に着目したのは、創業者である飯塚千代吉氏の慧眼です。もっとも苦労したのは培地作りで、試行錯誤の末、サトウキビの搾りかすの繊維質(バガス)と米糖による混合培地にたどり着いたようです」(久保田さん)

この固体培地にシイタケ菌を接種する。すると、シイタケ菌の独自の酵素で発酵していく。そこで得られる代謝産物と他のすべての有益な成分を自然の力で抽出する。LEMはこうした方法で製品化されるという。

抗ウイルス効果などが実証される

LEMが市販されたのは1972年(昭和47年)。シイタケ菌糸体由来の発酵食品として、人々の健康維持に貢献する一方、大学や研究機関との共同研究にも力を入れ、LEMの持つ生理活性の解明や、有効性の検証にも取り組んだ。

その結果、基礎、臨床研究で、抗ウイルス効果(ウイルス性肝炎、HIV感染症)、免疫機構を調節する作用(マクロファージ、T細胞、B細胞の活性化、抗ヒスタミン作用)、抗腫瘍効果(腫瘍体積減少、がん転移抑制など)が次々と明らかになった。

がん細胞の増殖を抑制

前述した一連の研究を通して、LEMは免疫を介して、抗腫瘍効果をもたらすことが示唆されたが、一方で、がん細胞に対するLEMの直接的な増殖抑制作用も浮き彫りになってきた。

そこで久保田さんたちのチームは、LEMが本当にがん細胞の増殖を抑えているのか、もしそうならどのようなメカニズムが働いているのかを解明しようと考えた。

実験には、慢性骨髄性白血病由来のK562というがん細胞を用いた。がん研究によく使われるもので、がん抑制遺伝子産物p53が発現していないのが特徴だ。久保田さんによると、この細胞なら、p53に依存しないがん細胞の増殖抑制を理解できるため、もしがんの増殖抑制効果が得られた場合、その機序がシンプルに説明できるだけでなく、様々ながんにも適用可能という。

まず、このK562細胞に、LEMおよびLEM抽出成分であるmL361610(LEMに含まれる生理活性物質が含有する画分)を加え、培養した上で、K562細胞の細胞数をカウントした。その結果、LEM、mL361610添加後48時間で、K562細胞はほとんど増加せず、増殖が抑制されていた(図1)。

LEM、mL36160および各薬剤による細胞への作用 提供:野田食菌工業株式会社

しかし、これだけでは、K562細胞がアポトーシス(細胞死)を引き起こされて増えないのか、増殖が止まっているのかはわからない。そこで、細胞の生死判定を含めて検討した結果、K562細胞は細胞死ではなく、細胞周期進行の停止による増殖の抑制が判明した。

「これによって、LEMはがん細胞の増殖を抑えるかどうかという1つの疑問がクリアになったわけです」(久保田さん)

LEMが細胞周期のブレーキ役“p27”の分解を防ぐ

次の課題は、LEMによるがん細胞の増殖抑制が、どのようなメカニズムによるのかを明らかにすることだ。

その手立てとして、まずK562細胞で恒常的に分解されているp27というタンパク質の量を調べた。p27は、細胞増殖(細胞周期)のブレーキ役で、このタンパク質は増えると増殖は抑制され、減ると増殖が進む。検討の結果、LEMを添加したK562細胞のp27は、比較した対照群の約2倍、LEM抽出成分であるmL361610では約3.6倍多くなっていた。そして、p27存在量の増加と反比例するように、p27のT198(アミノ酸198番目のトレオニン)のリン酸化が約40%まで減少していた(図2)。

K562細胞のp27存在量およびphospho-p27(T198)量の測定 提供:野田食菌工業株式会社

p27を制御するリン酸化部位は複数あるが、T198は、p27の分解やがん細胞の遊走に関わることが知られている。

久保田さんによると、これらのデータから、LEMがK562細胞の増殖を抑えたのは、T198のリン酸化が減少することで、p27の分解が抑制され、p27が蓄積したためと考えている。

イマチニブとの併用で細胞増殖抑制効果は増強

ところで、今回の実験では、LEMの比較対象としてイマチニブについても検討している。イマチニブは分子標的薬の1つで、慢性骨髄性白血病の第一選択薬となっている。

このイマチニブにLEMを併用すると、K562細胞の増殖を抑制する効果は、相乗的に高まった(図3)。また、LEMはたとえイマチニブに耐性となったがん細胞でも、細胞増殖を抑制する効果が認められたという。

LEMとイマチニブ併用による相乗的細胞増殖抑制効果 提供:野田食菌工業株式会社

K562細胞を用いた以上の検討から、①LEMはがん細胞の増殖をダイレクトに抑制する、②そのメカニズムとして、細胞周期(細胞増殖)のブレーキ役であるp27の蓄積を促す、③分子標的薬の薬効を阻害せず、併用が可能――などの点が明らかになった。

久保田さんは、研究の次のステップとして、より詳細な分子メカニズムの解明、K562細胞以外のがん細胞を使った解析などを挙げ、「可能であれば、大学や研究機関と共同で、分子標的薬との併用についての臨床試験を行いたい」と話している。

イマチニブ=商品名グリベック

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