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サプリメント選びのポイントは臨床試験を行っているかどうか
サプリメントはがん治療に役立つか? 最新徹底検証

監修:大野智 早稲田大学先端科学・健康医療融合研究機構客員准教授
福田一典 銀座東京クリニック院長
取材・文:「がんサポート」編集部
(2011年2月)

大野智さん
早稲田大学先端科学・
健康医療融合研究機構
客員准教授の
大野智さん
大野智さん
銀座東京クリニック院長の
福田一典さん
 
 

最近では、サプリメントについてもエビデンスが重視され、臨床試験が進められている。
しかし、がんを改善する“ 抗がん効果” が認められたものはいまだ皆無に等しい。
ただし、副作用の軽減やQOL(生活の質)の向上など、がん医療を補完するサプリメントの効果は明らかになりつつある。

抗がん効果のあるサプリメントは皆無

『がんの補完代替医療ガイドブック第2版』

『がんの補完代替医療ガイドブック第2版』 こちらからもダウンロードできる

「末期がんが消えた!」「進行がんが治った!」といった健康食品やサプリメントの謳い文句を、皆さんも雑誌やインターネットで何度も目にしたことがあるはずだ。社会的批判や当局の規制が強まっているのを受け、そうした派手な宣伝活動は鳴りを潜めてはいるものの、巷には依然、“ がんに効く” と称される数多くのサプリメントが出回っている。

一方、最近では、有効性に対するエビデンス(科学的根拠)を前面に打ち出した「エビデンス・サプリメント」なる商品群も登場するようになった。実のところ、抗がん効果が確かめられたサプリメントは、どれくらいあるのだろうか。

「昔に比べれば、サプリメントのエビデンスは明らかになってきています。しかし、“ がんを縮小させる” という意味での抗がん効果を認められたサプリメントは、残念ながら皆無に等しいのが現状です」

こう説明するのは、早稲田大学先端科学・健康医療融合研究機構客員准教授の大野智さんだ。

もともと外科医だが、補完代替医療にもくわしく、厚生労働省の助成で製作された『がんの補完代替医療ガイドブック』の編集にも携わった。

ほとんどが推奨グレードC

[推奨グレードの決め方の例(肺癌診療ガイドライン)]

A 行うよう強く勧められる
B 行うよう勧められる
C 行うよう勧めるだけの根拠が明確でない
D 行わないよう勧められる
エビデンスのレベル、エビデンスの数の大きさと結論のバラつき、臨床的有効性の大きさ、臨床上の適用性、害やコストに関するエビデンスを勘案して総合的に判断する

胃がんや肺がんなど主ながん領域では、各学会が標準的な診療内容を示した『診療ガイドライン』をまとめている。その中では、エビデンスに基づいた診療内容の推奨度を、グレードA~Dの4段階で示している場合が多い。Aは強く推奨される、Bは推奨される、Cは推奨する根拠が明確でない、Dは害を及ぼす恐れがあり、推奨できないといった評価である。

「診療ガイドラインの尺度で評価するなら、ほとんどのサプリメントはグレードCに該当します。つまり、エビデンスがまだ不十分だということです」

実際に、サプリメントのエビデンスレベルを評価している日本緩和医療学会のガイドラインでは、グレードB以上のものは見当たらない。

大野さんによれば、グレードB以上と推奨されるには、複数の「無作為化比較試験」(比較試験)によって有効性が示されることが必要だという。

比較試験とは、被験者を薬やサプリメントを飲む人と偽薬(プラセボ)を飲む人に無作為に振り分けて、効果を比較する臨床試験のこと。臨床試験の中では、エビデンスのレベルが最も高いとされる。抗がん剤などの医薬品は、原則として比較試験を経た上で承認される。ところが、数あるサプリメントのうち、臨床試験を行っていると確認されたのは、アガリクス、AHCC(シイタケ菌糸体)など数えるほどだ。比較試験を行っているのは、さらにその一部に過ぎない。

[サプリメントのエビデンスについての評価方法]

研究方法 研究されているサプリメント 研究の実施 結果の信頼性
無作為化比較試験 アガリクス、サメ軟骨 難しい

簡単
高い

低い
非無作為化比較試験 AHCC
コホート研究(注1 AHCC
患者対照研究(注2  
症例報告 メシマコブ
実験室の研究(動物実験、試験管の実験など) プロポリス
経験談・権威者の意見  
注1:ある集団に対して数年以上の追跡調査を行い、病気の要因を調べる研究
注2:年齢や性別などが同じで、病気になった人と病気になっていない人を比較し、病気の要因を調べる研究
厚生労働省研究班『がんの補完代替医療ガイドブック』による

がんに無効とされたサメ軟骨

逆に、比較試験によって、がんに無効とされてしまったサプリメントもある。その代表例がサメ軟骨だ。

サメ軟骨は近年、抗がん効果について複数の臨床試験が行われ、注目されていた。ところが、米国立がん研究所などが行った進行非小細胞肺がん約380例に対する比較試験の結果、全生存期間では、サメ軟骨摂取群と非摂取群を比べて有意差が見られなかったのだ。

「前臨床段階で有望視されながら、臨床試験で有効性を示せなかったサプリメントがこのところ、続出しています。そうした背景から、米国はサプリメントの研究方針を転換し、直接的な抗がん効果よりも、がん医療のサポート効果(補完効果)の追求に比重を置くようになっています」

[米国のがんの統合医療ガイドライン]

補完代替医療を利用する際の注意事項
  1. 日常の食事での健康食品・サプリメントは通常必要ない
  2. 健康食品・サプリメントの利用に当たっては、副作用や他の医薬品との相互作用について事前にしっかり調べる
  3. 他の医薬品との相互作用の可能性が考えられる場合、抗がん剤、放射線治療と並行して健康食品・サプリメントは使わない
  4. 他の医薬品との相互作用の可能性が考えられる場合、手術前に健康食品・サプリメントは使わない
  5. 健康食品・サプリメントを利用したいと考えているがん患者さんにとって、訓練を受けた専門家に助言を求め、相談することは推奨される。相談の際、専門家はサポートを行い、現実的な予測について議論し、可能性のある効果とリスクについて調査しなければならない。それらの健康食品・サプリメントの利用は、臨床試験という状況においてのみ実施されることが推奨される
  6. がんサバイバーは、健康食品・サプリメントの利用実態について評価されるべきであり、適応があれば、具体的な栄養補充を行うため、または栄養不足を是正する評価を行うため、訓練された専門家に紹介されるべきである
米国統合腫瘍学会 2009 (患者さん向けに改変、一部抜粋)
J Soc Integr Oncol, 2009

有望なサプリメントを臨床試験にかける

がん医療の補完効果とは、抗がん剤や放射線による副作用の軽減、後遺症の改善などだ。

たとえば、最近の比較試験によって、プロバイオティクス(乳酸菌など腸内善玉菌を増やすこと)やアガリクス、葉酸(ビタミンB群の1種)、魚油のエイコサペンタエン酸(EPA)によって、副作用が軽減されることが明らかになりつつある。

「サプリメントは薬と違って、どんながんに向いているのか、使う量や期間はどのくらいがよいかといった基礎データとなる研究が不十分で、それが効果を発揮できていない原因になっている可能性もあります。そこで、私も参加している厚生労働省の研究班では、サプリメントの中から有望と考えられるものを選び、厳格な基準の下で新たに臨床試験にかける取り組みを始めています」