私が目指すがん医療 6
~専門職としての取り組み、患者さんへの思い~

医師はがんを治療するのではなく、その「お手伝い」をするのです

杉本直俊 大阪府立成人病センター臨床腫瘍科副部長
取材・文●植田博美
(2014年10月)

  
すぎもと なおとし 1995年三重大学卒、大阪大学医学部第二内科入局。2003年同大大学院医学系研究科腫瘍発生学講座修了、大阪府立成人病センター消化器内科主任。広島大学大学院を経て、2008年大阪府立成人病センター臨床腫瘍科医長兼消化管内科、2010年同副部長。日本臨床腫瘍学会指導医・評議員、同会がん薬物療法専門医等

高齢社会のいま、胃や大腸などの消化管がんにおいても、後期高齢者の進行・再発がんが増えているという。こういった患者さんへの化学療法の選択については、医師の間でも考え方が分かれている。高齢者に対する胃がん・大腸がんの化学療法について解析研究を行う大阪府立成人病センターの杉本直俊さんに考えを聞いた。

高齢というだけで標準治療の機会は奪えない

診察では、モニターと自身を患者さんのほうに向ける。患者さんの顔から目をそらすことなく診療ができるからだ

高齢者の胃がん・大腸がんに対しては、患者さんの全身状態(PS)や臓器機能の低下などの面から、若年者同様の抗がん薬治療はメリットにならないという考え方がある。その配慮から弱い治療を選択する医師や患者さんがいる一方、最も効果の見込まれる標準治療を受ける機会を奪ってはいけないという考えもある。

「考え方が分かれるのは、75歳以上の後期高齢者に対する標準治療が定まっていないからです。日本の臨床試験には、大体75歳くらいまでの全身状態のいい人が被験者に選ばれるため、後期高齢者のデータがないのです。

このような状況の中で、年齢によって治療強度を変えている施設もありますし、元気で、なおかつ合併症の少ない高齢者に対しては、若い人と同一量で標準治療を行うところもあります。私の考えは後者にあり、診た印象や肝臓、腎臓、心臓などの機能が問題なければ標準治療の機会を奪うのはどうかというスタンスです。高齢というだけで最初から抗がん薬の量や種類を減らしてはいけないと考えています。

どちらが正しいかという答えは今のところありません。医師の考えと患者さんの思いや希望、そこで分かれるだけで、きっとどちらも正しいのだと思います」

杉本さんの解析研究では導き出された結果はというと――。

「あくまで1施設での後解析ということをお断りしておきますが、若い人と同じ治療ができると判断した後期高齢者の患者さんに標準治療を行っても、胃がん大腸がんとも、結果は75歳未満の患者さんたちと遜色ありませんでした。副作用が一般より強いとか、無増悪生存期間PFS)や全生存期間(OS)が短くなってしまうということもなく、安全に問題なく実施できています。

全国規模の臨床試験も始まっていて、大腸がんの標準治療と弱い治療の比較が行われていますし、胃がんでも企画が進んでいます。当院ももちろん協力していきます」

人生のあり方、価値観によって患者さんが期待することは異なる

「抗がん薬治療はがん治療の中でも、患者さんの近くに医師がいられる1番の治療だと思います。治療に対する捉え方は、患者さんによって違います。消化管がんは抗がん薬で完治させることが難しい中で、患者さんは治療に何を期待するのか。それは、価値観や人生、生活、仕事などによって全く変わってくるのです」

このことを杉本さんは、ある1人の患者さんから学んだという。

「その人は胃がんの40代の女性で、標準1次治療が効かなくなり、治療薬の変更を検討しました。私の判断では抗がん薬治療の継続ができる状況でした。しかし彼女は、これ以上治療はしたくないと自分で決めたホスピスに転院し、結果2カ月後に亡くなりました。治療を続けていればもう少し長く存命できたと今も思っています。

しかし、彼女には全く迷いがなかった。私も提供できる情報はすべて提示して話し合いましたが、それでも彼女は抗がん薬治療を選びませんでした。私はそこに信念を感じ、医療者としてその気持ちを尊重しなければならないと思ったのです。

手塚治虫の漫画『ブラック・ジャック』に、〝医者は人を治すのではない、人を治す『手伝い』をするだけだ〟というセリフがあります。がんの場合、残念ながら『治す』という言葉は使えませんが、病気に対して患者さんが向き合う際のお手伝いをするのが医師であり、そこを超えてはいけないということを、私はその患者さんに教えてもらった気がします。

患者さんにとってはつらいときもあるでしょう。ですから私はでき得る限りのお手伝いをしていくつもりです。患者さんに後悔だけはして欲しくありませんから」


Let’s Team Oncology ― 患者さん・医療従事者のみなさんへ

議論のために考えの〝芯〟をもちたい


医師、看護師、薬剤師それぞれの立場から患者さんの評価を行うことが大切だと考えます。医療職の中でも患者さんに1番近いところにいるのは看護師であり、我々にはない力をたくさんもっています。個々の立場から患者さんに対するアセスメントをしっかり行った上でディスカッションすれば、よりきめ細かい対処ができると期待しています。

議論のためには考えの〝芯〟を持つこと。それは患者さんに置き換えても同じです。病気に対してどう向かっていきたいのか、仕事は? 家庭は? 人生は? しっかり考えて悔いのない治療をしていきましょう。

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