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第2世代の薬剤も登場。分子標的薬の長所と短所をきっちり把握しよう
分子標的薬――より効果的な使い方を求めて

監修:佐々木康綱 埼玉医科大学国際医療センター腫瘍内科教授
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2009年11月
更新:2019年7月

  
佐々木康綱さん
埼玉医科大学国際医療センター
腫瘍内科教授の
佐々木康綱さん

これまでの抗がん剤とは、全く異なるメカニズムで働く「分子標的薬」が本格的に使われ出して8年。
当初は、夢のがん治療薬といわれたこの薬も長所短所が明らかにされつつあり、より効果的な使い方を求めて新たな時代に入ろうとしています。

がんを狙い打ちする分子標的薬

日本で本格的に分子標的薬が使われ始めたのは、転移性乳がんの治療薬ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)が登場した2001年からです。以来8年、現在では数多くの分子標的薬が登場し、確実にがん治療の重要な一角を占めるようになっています。

埼玉医科大学腫瘍内科教授の佐々木康綱さんによると、「ここでは、薬物療法の約4分の1に分子標的薬が使われています。アービタックス(一般名セツキシマブ)のように使える医療機関が限定されている薬もあるので、全国的にみるともう少し低くなるでしょう」といいます。それだけ、分子標的薬は一般的に使われる薬になったのです。

分子標的薬は、当初「夢の薬」のような扱いをされました。従来からの抗がん剤は、核のDNAレベルで細胞の分裂・増殖過程を阻害することで、増殖の早いがん細胞を殺します。この意味で、とくにがん細胞に的をしぼって攻撃するわけではないので、他の正常細胞も無傷ではすみませんでした。

これに対して、分子標的薬は、最初から分子レベルでがん細胞に的をしぼって攻撃する薬として開発されたものです。「がん細胞の増殖や浸潤、転移に関係する分子を標的に、その働きを阻害することによって、がんの増殖や進展を抑えるのが特徴です」と佐々木さんは説明しています。そのため、がん細胞だけを確実に狙い撃ちし、かつ正常細胞への影響が少ないので、それだけ薬による副作用も少ないと期待されたのです。

しかし、多くの分子標的薬が登場し、多数の患者さんに使われた今、その評価はよい点、悪い点を含めてそう単純ではないことがわかってきました。

[分子標的薬とは?]
図:分子標的薬とは?

効果のある人を選別

佐々木さんは、分子標的薬が、がん治療の現場で使われるようになって変わったこととしていくつかの点をあげています。その1つが、「バイオマーカーという概念が鮮明になったこと」です。

バイオマーカーは、簡単にいえばがんの治療効果を予測する生物学的な指標です。これまでの抗がん剤は、使ってみなければ効くか効かないか、わからないというものでした。一部の患者さんには効果があっても、他の人のがんでは全く反応がないということもありました。

ところが、分子標的薬は、あらかじめバイオマーカーを調べることによって効きそうな人と効かなそうな人を選別することができます。たとえば、ハーセプチンの場合は、がん細胞の表面に現れるHER2というタンパクを標的とした分子標的薬です。ハーセプチンを使用する前に、検査でHER2が過剰出現している人を選び、ハーセプチンを投与すればハーセプチンが効く可能性が非常に高いのです。逆に、HER2が少なければ効果もないことがわかるので、無駄な薬の投与で余分な副作用が出る危険も避けることができるのです。

分子標的薬は、これまでの化学療法の大きな課題であった、効く人を対象に薬を投与するという問題を、「一部の薬で現実にした」(佐々木さん)のです。これは、患者さんにとって大きな朗報です。

効果を評価する基準が変わった

もう1つは、薬の効果を評価する基準が変わったことだと佐々木さんは指摘します。

従来の抗がん剤治療では、「がんが消えるか縮小することが効果と考えられ、不変で大きくも小さくもならない場合は、否定的に捉えられていました。しかし、分子標的薬の場合はたいしてがんが縮小しなくても延命効果がある薬が多いのです。そのため、がんが増悪するまでの期間など、簡単にいえばがんとの共存をより強く意識して効果を判定するようになったのです」と佐々木さん。もちろん、共存といっても無作為化比較試験などで無増悪生存期間などをきちんと科学的に評価しての話です。

分子標的薬の場合、がんが小さくならなくても、大きくならずに共存して延命することができれば、これも効果として評価されるようになったのです。


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