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経腸栄養剤による栄養管理で副作用は軽減!?
強力な化学療法をサポートする経腸栄養剤の力

監修:宮田博志 大阪大学大学院医学系研究科外科学講座消化器外科学助教
取材・文:増山育子
発行:2012年6月
更新:2019年7月

  

宮田博志さん 「患者さん栄養状態をサポート
することで、副作用を軽減
できるかもしれません」と話す
宮田博志さん

食道がんの化学療法はより強力な薬剤が使われるようになった。その結果、副作用をいかに抑えるかが課題となっている。
そんななか、副作用を抑える方法として今期待を集めているのが、"栄養管理"。
患者さんの栄養状態を改善することで、副作用が軽減されたという報告も出てきている。

食道がんの化学療法は強化されていく

かつて食道がんの治療は手術先行で、術後に化学療法が行われていた。それが手術前に化学療法を行うほうが術後に行うよりも生存率が高いことが明らかになり、現在、進行した食道がんでは術前化学療法が標準治療である。

「食道がんの治療では化学療法を強化していくのが最近の流れです」と大阪大学大学院医学系研究科外科学講座消化器外科学助教・宮田博志さんはいう。

「シスプラチン()と5-FU()の併用(FP療法)が基本ですが、これでは不十分だとしてFP療法にアドリアシン()を加えたり(FAP療法)、タキソテール()を加えたり(DCF療法)と、より強力な抗がん剤を組み合わせるようになっています」

すると白血球減少などの血液毒性()や悪心・嘔吐、下痢、口内炎などの粘膜障害といった副作用も重くなる。宮田さんによるとシスプラチンと5-FUの併用療法ではそれほど出ない深刻な血液毒性が、その2剤にタキソテールを加えた治療法になると頻発してくるという。

[図1 術前化学療法の奏効率と副作用]
図1 術前化学療法の奏効率と副作用

「大阪大学のデータをみると、奏効率は、シスプラチンと5-FUの2剤にアドリアシンを加えた治療法で53%、2剤にタキソテールを加えた治療法では77%にアップしますが、グレード3以上の重篤な副作用の出現率も上がってきます。とくに血液毒性のなかでも好中球減少は、アドリアシンを加えた治療法で52%、タキソテールを加えた治療法になると88%と、きわめて高い確率で起こってきます」(図1)

実は抗がん剤の効果と副作用には相関関係があり、抗がん剤の効果が高い人ほど血液毒性が強く出ることがいろいろながんの患者さんで報告されている。シスプラチンと5-FUの2剤にタキソテールを加えたDCF療法のような強い化学療法では、致命的な副作用が出ることもあり、効果が現れているにもかかわらず治療を中断するという事態になりかねない。

宮田さんは「食道がんの抗がん剤治療でキードラッグになるシスプラチンには、問題となる副作用として血液毒性があります。食道がんには栄養状態があまりよくない患者さんが多いので、きちんと栄養をサポートすることで副作用も軽減できる可能性があるのではないかと考えられました」と話す。

シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ
5-FU=一般名フルオロウラシル
アドリアシン=一般名ドキソルビシン
タキソテール=一般名ドセタキセル
血液毒性=赤血球や白血球、血小板などを減少させる、薬剤による副作用

化学療法中の栄養サポート

栄養状態の良し悪しは、体重、BMI()、リンパ球数、アルブミン値などの指標でみるが、はっきりわかるのは体重減少。消化器のがんはそれ以外のがんに比べて体重減少が著しく、食道がんや膵がん、胃がんでは5キロから10キロ体重が減る人も珍しくない。

そのような患者さんへの栄養サポートとして宮田さんは経腸栄養剤を処方している。経腸栄養剤は、たんぱく質・脂肪・糖質・電解質・微量元素類・ビタミン類といった栄養成分がバランスよく配合されており、長期間にわたって食事が十分に摂れないときの栄養補給に使用されるものだ。

「栄養サポートの必要性について、欧米のガイドラインでは手術前の患者さんに対して栄養状態が悪い場合に改善しておくことが推奨されているものの、化学療法をするときには勧められていません」と宮田さんは指摘する。

栄養療法を手術前後に実施することで合併症が減らせるというデータがある一方、化学療法において栄養療法を行うと副作用が軽くなるというデータはないからだ。

BMI=体格指数。体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で算出する

栄養サポートは副作用を軽減するか?

[図2 副作用軽減への取り組み]
図2 副作用軽減への取り組み

経腸栄養剤で栄養サポートすることで副作用が軽減されるのではないかと考えられた

 
[図3 経腸栄養剤への期待]
図3 経腸栄養剤への期待

癌と化学療法 2008より

そこで宮田さんらは、抗がん剤治療中に栄養サポートを行うことで、副作用を軽減できないかと考えて、臨床試験を実施(図2)。食道がんに対する化学放射線療法を施行する患者さんを対象として、2005年から06年にかけて大阪大学病院で臨床試験を行った。

化学放射線療法を行う患者さん10名に化学放射線療法の7日前から治療終了後7日目まで経腸栄養剤のラコールを1日600ml飲んでもらい(投与群)、化学放射線療法による血液毒性や粘膜障害の出現率を、それ以前の経腸栄養剤を投与しなかった10名(非投与群)と比較した。

その結果、非投与群全員にややきつい白血球減少が見られたのに対し、投与群で同レベルの白血球減少が見られたのは4名。リンパ球減少は20名全員に起こり両者で差はなかったが、好中球減少は投与群で少なかった。

また投与群でゼロだった重い下痢が非投与群では5名で起こり、口内炎・咽頭炎に関しては投与群3名に、非投与群7名にみられた(図3)。

レジメン=薬の種類や量、使用方法などを示す治療実施計画


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