期待の新薬を安全に導入するために

チーム医療による抗がん薬の副作用管理~がん研有明病院「チーム・スチバーガ」による報告~

取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2013年12月
更新:2014年3月

  

がん研究会有明病院消化器内科化学療法担当部長の水沼信之さん

進行・再発大腸がんの3次治療以降に用いることができ、さらにGIST(消化管間質腫瘍)の3次治療以降に対しても投薬が承認された分子標的薬スチバーガ(一般名レゴラフェニブ)。先ごろ都内で開かれたバイエル薬品株式会社主催のセミナーで、大きな期待の寄せられているスチバーガをより安全に、継続的に服用するための取り組みについて、がん研究会有明病院「チーム・スチバーガ」から事例報告が行われた。

副作用対策をめぐって白熱した討議が交わされた

大腸がんの治療はステージごとに異なり、早期で発見された場合は、根治を目指して手術が行われる。一方、それが難しい進行・再発がんの場合、化学療法によってがんを縮小させる。

昨今では、抗がん薬多剤併用療法に、アービタックスなどの分子標的薬を組み合わせることで化学療法の成績が飛躍的に向上し、奏効率や生存期間が改善されてきた。その中で課題とされていたのが、ほぼ標準治療が確立されている1次・2次治療に対して、3次・4次治療の段階に入ると薬の選択肢がなくなってしまうことだった。

そこで、登場したのがスチバーガである。

進行・再発大腸がんの3次治療以降で有効性確認

表1 がん研究会有明病院における大腸がん治療(2013年)

がん研究会有明病院消化器内科化学療法担当部長の水沼信之さんによると、スチバーガは、3次治療以降の進行・再発大腸がんを対象とした「国際共同第Ⅲ相臨床試験CORRECT」(スチバーガ群とプラセボ群の比較による)において、その有用性が確認され、3次治療以降の選択肢として、いま大きな期待が持たれている。同院ではスチバーガを表1のように、4次治療として位置付けている。

もう1つは、同薬のGIST(消化管間質腫瘍)に対する効果も証明されたことを受け、わが国では5年ぶりにGISTに対する3次治療以降の治療薬として承認されたことも、注目される。

副作用対策を重視したチームを結成

一方、スチバーガの薬剤特性として、日常生活に支障をきたす有害事象(イベント)の発現が指摘されている。水沼さんによると、「スチバーガは、経口剤という利便性のある一面、先の試験では、日常生活に支障が出るグレード3以上の有害事象の発生はスチバーガ群で54%に上り、手足症候群の発生や肝機能障害、下痢、高血圧、食欲不振などの発生する傾向が見られています。そのため、副作用が重篤化する前に察知して早期対応を図れるよう、当院では“チーム・スチバーガ”を形成し、新規薬剤の円滑な導入と、適切で安全な使用法について、院内で共通のコンセンサスを得られるようにしました」という。

従来の標準的治療後の「新たな標準治療薬」と位置付けられたスチバーガをより安全に治療に導入できるよう、水沼さんの指揮の下、医師、看護師、薬剤師からなるチームが結成され、スチバーガ導入までに複数回のミーティングが重ねられてきた。

とりわけ、外来の看護師には「有害事象観察・患者副作用のセルフケア指導・外来電話対応・アドバイザー」として、大きな役割が求められる。

がん研究会有明病院看護部副看護師長の鈴木めぐみさんは、

「スチバーガ外来通院治療では、患者さんは3週間の内服のみとなり、自宅で副作用を経験します。外来では、1週間ごとの来院時に患者さんのアドヒアランス(積極的な服薬遵守)の状況を確認、日常生活指導をしっかり行う必要があります」

と述べ、患者さんと外来看護師の連携の重要性を強調した。

自宅でのケアについても丁寧に指導する

スチバーガの副作用で、日本人にもっとも多く見られたのが、手足症候群だった。

手足症候群の第1段階では、限局性の紅斑が出現するが日常生活に支障をきたすことはない。第2段階に入ると、皮膚の角化が始まり、亀裂や疼痛を伴うことで、日常生活に影響が出てくる。第3段階に入ると、角化が高度になり、水泡や膿のうほう疱の形成、さらに激しい疼痛や不快感を伴って、日常生活が不可能となる。

高頻度で出現する手足症候群を予防するために、患者さんとはその傾向と対策を共有、不安を軽減して内服継続できるようサポートしていくという。

「スニーカーや中敷、インソールを活用することで、足底にかかる圧力を低減する方法を提案したり、足裏の好発部位に貼るハイドロサイドADジェントルというシートや保湿剤などを紹介しています」(鈴木さん)

さらに、痛みが出現した時点で、保湿剤をステロイド剤に変更するセルフケア指導を行っている。

「手足症候群のグレーディングは患者さんの主観によるため、判別が難しいのですが、大切なのは、患者さんに苦痛を我慢させないことだと考えています」と、鈴木さんは語る。

スチバーガ導入での注意点は、手足症候群に加え、日本人に高頻度に見られる高血圧や肝機能障害を見逃さないこと。

速やかな対応が安全な投薬に欠かせない

「体調がいつもと違う、倦怠感や血圧の上昇、気分の悪さなど、気になる症状が出た場合、自分で判断せずに、遠慮せず、速やかに病院に連絡する指導を徹底しています。昼間は外来看護師が電話対応し、その内容を医師に報告、必要時休薬や来院の指示を患者さんに伝えます」(鈴木さん)

こうした電話の内容を記録に残し、患者さんの訴えから副作用の症状を把握するという一連の流れについて、外来の看護師が誰でも同じようにできるようなマニュアルを作成、さらに薬剤師外来を設置して、内服コンプライアンス(遵守)や副作用チェック体制も強化しているのが、がん研有明病院「チーム・スチバーガ」の特徴である。

医師・看護師・薬剤師三位一体となったチームの力を結集させ、新たな標準治療薬導入をバックアップしている。

スチバーガ=一般名レゴラフェニブ アービタックス=一般名セツキシマブ アバスチン=一般名ベバシズマブ XELOX=一般名カペシタビン+オキサリプラチン FOLFOX=一般名フルオロウラシル+フォリン酸+オキサリプラチン CPT-11=一般名イリノテカン

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