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効果が期待できるが、副作用にも要注意

新薬ラッシュ!去勢抵抗性前立腺がんはどう治療していくべきか

監修●赤倉功一郎 JCHO 東京新宿メディカルセンター院長補佐・統括診療部長・泌尿器科部長
取材・文●柄川昭彦
発行:2015年3月
更新:2015年5月

  

「新薬の効果は高いですが、いずれも高額なので、使用にあたってはコストについても考慮が必要です」と語る赤倉功一郎さん

前立腺がんはホルモン療法が有効だが、それが効かなくなると、病状が再び悪化してしまう。この状態を「去勢抵抗性前立腺がん」と呼ぶが、これまで去勢抵抗性前立腺がんになると、治療選択肢は限られていた。こうした中、昨年(2014年)には新薬3剤が相次ぎ登場。去勢抵抗性前立腺がんの治療が大きく変わろうとしている。

ホルモン療法による去勢効果がなくなった場合

前立腺がんの多くはアンドロゲン(男性ホルモン)によって増殖するため、アンドロゲンの産生を抑制したり、アンドロゲンが前立腺がんに作用するのを防ぐホルモン療法が効果的である。かつてはホルモン療法を行い、それが効かなくなった前立腺がんを「ホルモン抵抗性前立腺がん」と呼んでいたが、最近は「去勢抵抗性」という言葉が使われている。どう違うのか、JCHO 東京新宿メディカルセンター泌尿器科部長の赤倉功一郎さんに説明してもらった。

「従来はホルモン療法を行い、それが効かなくなった場合に化学療法が行われていたので、ホルモン抵抗性前立腺がんと呼ばれていました。ところが、新しいホルモン療法薬が開発され、従来のホルモン療法や化学療法が効かなくなっても、有効なホルモン療法が存在する時代になってきました。まだホルモン療法が効くのに、ホルモン抵抗性と呼ぶのはおかしいので、去勢抵抗性という言葉が使われるようになったのです」

図1 去勢抵抗性前立腺がんの定義

日本泌尿器科学会・日本病理学会・日本医学放射線学会編『前立腺癌取扱い規約』第4版、金原出版、2010より一部抜粋

去勢抵抗性前立腺がんとは、「去勢状態にも関わらず、病状が進行している前立腺がん」のことである(図1)。去勢の方法は、外科的去勢でも、LH-RHアナログ製剤などによる薬物去勢でもよく、血清テストステロン(アンドロゲンの一種)値が50ng/dL未満に抑えられている場合とされている。病状の進行に関しては、PSA(前立腺特異抗原)の上昇でも、画像による進行の確認でもよい。また、抗アンドロゲン薬など、他のホルモン療法を行っているかどうかは問わない。

去勢抵抗性前立腺がんの治療は、かつては選択肢がそれほど多くなかった。「とくに日本では、LH-RHアナログ製剤と抗アンドロゲン薬を併用しているケースが多いため、去勢抵抗性になってから抗アンドロゲン薬を加えるという選択肢もなく、抗がん薬による化学療法を開始するのが一般的でした。その中心となっていたのがタキソテールです」

タキソテールが去勢抵抗性前立腺がんに有用であることは、大規模臨床試験で証明されている。また、エストロゲン薬、ステロイドホルモン薬などは、大規模臨床試験データはないが、古くから治療に使われてきた薬だという。これらが、新しい治療薬が登場する以前の去勢抵抗性前立腺がんに対する治療の選択肢だった。

その後2014年に、去勢抵抗性前立腺がんに有効な「ザイティガ」「イクスタンジ」「ジェブタナ」という3種類の薬が登場し、治療戦略は大きく変わることになった。

タキソテール=一般名ドセタキセル ザイティガ=一般名アビラテロン イクスタンジ=一般名エンザルタミド ジェブタナ=一般名カバジタキセル

アンドロゲンの合成を阻害する「ザイティガ」

ザイティガはアンドロゲン合成酵素の阻害薬である。

「LH-RHアナログ製剤で血液中のテストステロン濃度は低下しますが、前立腺の組織中のアンドロゲン濃度は、あまり下がっていないことが明らかになってきました。副腎から分泌されるアンドロゲンがあるのに加え、前立腺の組織でもコレステロールからアンドロゲンが作られているためです。こうしたアンドロゲンの産生には、アンドロゲン合成酵素が関わっていますが、ザイティガはその合成酵素の働きを阻害する作用を持っています。つまり、アンドロゲンの産生を妨げることで、血液中だけでなく、前立腺組織中のアンドロゲン濃度も強力に下げることができるわけです」

この薬を使用するとアンドロゲンの合成が抑えられるが、その影響で副腎からアルドステロン様のホルモンが過剰に分泌され、高血圧や低カリウム血症という副作用を招いてしまう。この副作用を防ぐため、ザイティガを服用するときには、プレドニンなどのステロイドホルモン薬を併用しなければならない。

「気をつける必要があるのは、併用するステロイドホルモン薬による副作用です。長期服用する場合には、顔が丸くなってしまうムーンフェイス、易感染性(感染を起こしやすい)、骨粗鬆症などに十分注意する必要があります」

ザイティガの有効性は臨床試験で実証されている。化学療法を行ってそれが効かなくなった患者さんを対象に、「ザイティガ+プレドニゾン群」と「プラセボ(偽薬)+プレドニゾン群」の比較試験が行われた。その結果、全生存期間(OS)中央値は、ザイティガ群が15.8カ月、プラセボ群が11.2カ月だった(表2)。

「効果は強力です。去勢抵抗性となり、抗アンドロゲン薬も女性ホルモン薬も効かなくなってから使用したところ、PSA値が大幅に低下した患者さんもいました(図3)」

化学療法の後だけでなく、化学療法の前に使用した場合でも、生存期間を延長するという臨床試験結果が得られている。それにより、化学療法の前でも後でも使用できることになっている。

表2 去勢抵抗性前立腺がん(化学療法既治療例)に対する
ザイティガの効果(全生存期間)

*1 ヒト用としては国内未承認 COU-AA-301試験より
図3 ザイティガが効果を示した患者さん例

81歳の患者さんで、前立腺がんが肝臓、肺、リンパ節に転移。去勢手術を行い、抗アンドロゲン薬、女性ホルモン薬も効かなくなってからザイティガとステロイドホルモン薬を使用したところ、PSA値は大幅に低下した

プレドニン=一般名プレドニゾロン プレドニゾン=国内未承認

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