大規模臨床試験SOFT から明らかになったこととは?
閉経前乳がん患者さんには、リスクに応じたホルモン療法が重要

手術後、再発を予防するための治療として、ホルモン療法は重要な役割を果たす。とはいえ、ホルモン療法にも副作用はあり、闇雲に行えばいいというものではない。再発リスクに応じた薬剤投与が重要になってくる。
手術後の再発予防にホルモン療法が行われる
乳がんが早期に発見されて手術を受けても、そのままでは再発してくることがある。それを予防する目的で、多くの場合、手術後に薬物療法が行われる。国立がん研究センター中央病院乳腺外科科長の木下貴之さんによれば、ホルモン受容体陽性(ER+)乳がんの場合、術後の薬物療法として基本的にホルモン療法が選択されるという。
「手術直後は、もしがんが全身のどこかに残っていたとしても、非常に小さい状態です。この時期に治療を加えることが、再発の予防に役立ちます。乳がんの7割ほどはホルモン受容体陽性で、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの影響を受けて増殖します。そこで、エストロゲンを抑えるホルモン療法が、再発予防に役立つのです」
ホルモン療法で使用される薬は、大きく3つに分類でき、閉経前と後では、使う治療薬も変わってくる(表1、図2)。

図2 ホルモン療法薬が作用する仕組み
閉経前の場合、エストロゲンの大部分は卵巣から分泌されている。この卵巣機能を抑制し、エストロゲンが分泌されないようにするのが、「LH-RHアゴニスト製剤」である。脳下垂体の視床下部というところに作用し、そこから卵巣への指令がいかないようにすることで、卵巣からのエストロゲン分泌を完全に抑え込む働きをする。
もう1つは、エストロゲンが乳がん細胞に作用するのをブロックする「抗エストロゲン薬」である。*タモキシフェンという薬剤が使われている。
一方、エストロゲンは卵巣から分泌されるだけでなく、もう1つの経路から作られることもある。副腎が分泌したアンドロゲン(男性ホルモンの一種)が、脂肪組織のアロマターゼという酵素によって、エストロゲンに作り替えられるのだ。閉経して卵巣からエストロゲンが分泌されなくなっても、この経路で少量のエストロゲンが作られている。それを抑えるのが、「アロマターゼ阻害薬」である。アロマターゼの働きを阻害することで、エストロゲンが作られるのを防ぐ働きをする。
*タモキシフェン=商品名ノルバデックスなど
タモキシフェン5年服用で再発率を低下

術後の再発予防の目的で使われてきたのは、主に抗エストロゲン薬のタモキシフェンとアロマターゼ阻害薬である。
「まず使われるようになったのはタモキシフェンです。乳がんは、腫瘍の大きさ、悪性度を示すグレード、リンパ管侵襲の有無、リンパ節転移の状況などから、低リスク、中間リスク、高リスクに分類できます。そして、中間リスクや高リスクの場合、タモキシフェンによる術後ホルモン療法を5年間行うことで、再発のリスクが4割ほど下がることがわかっています(図3)」
再発を予防する効果は、がんがどれだけ再発しやすいかによって変わってくる。
「低リスクの場合、再発するのは10年後でも10%程度です。術後にタモキシフェンを5年使用した場合、それを7%に下げる程度の効果が期待できます」
ホルモン療法には抗がん薬のような強い副作用はないが、全く副作用がないわけではない。従って、低リスクの乳がんの場合には、再発が少し防げることと、少ないながらある副作用を天秤にかけ、術後ホルモン療法を行うかどうかを決定する。
一方、閉経後の乳がんに対しては、術後ホルモン療法として、タモキシフェンよりアロマターゼ阻害薬のほうが有効であることがわかり、これが標準治療となっている。