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前立腺がんホルモン療法後の副作用
ほてりに対するSSRIの効果

監修:直江道夫 昭和大学泌尿器科助手
取材・文:池内加寿子
(2007年6月)

直江道夫さんん
昭和大学泌尿器科学教室の
直江道夫さん

前立腺がんのホルモン療法により誘発されるホットフラッシュ(ほてり)に詳しい昭和大学泌尿器科助手の直江道夫さんに、その対策をうかがいました。

ホルモン療法の副作用対策は?
ホットフラッシュには、SSRIが有効

ホルモン療法は前立腺がんのどのステージでも使える全身的な治療法といえますが、副作用も気になります。前立腺がんのホルモン療法を多く行っている昭和大学泌尿器科の直江道夫さんは、こう説明します。

「LH-RHアゴニスト、抗アンドロゲン剤、これらを併用したMAB療法、精巣摘出術等、どの治療法でも男性ホルモンを去勢レベルまで低下させるため、ホットフラッシュ、女性化乳房、中性脂肪の上昇や肥満などの副作用が起こることがあります」

対策1 ホットフラッシュはパキシルで改善

顔のほてりや上半身の熱感、発汗などを主とするホットフラッシュは、女性の更年期症状の1つとして知られていますが、前立腺がんのホルモン療法によっても、治療開始後数週間ごろからよく起こる症状です。

「欧米人と違い、日本人の中高年男性は我慢強い方が多く、自ら症状を訴える方は少ないのですが、よく伺うと『急な温度変化や、季節の変わり目にカッとのぼせる』『多いときで1日10回以上の突発的な症状』『真冬でも汗をかいて困る』『突然のほてりで目が覚め、睡眠障害になった』といった声が6~7割の方から聞かれました」(直江さん・以下同)

ホルモン療法によってホットフラッシュがなぜ起こるのか、メカニズムはまだ十分には解明されていません。諸説あるなか、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの減少が、ホットフラッシュを誘発するとした「セロトニン説」が有力視されています。セロトニンは、神経細胞内で作られ、神経伝達物質として放出されると同時に、同じ神経細胞に再度取り込まれるという性質があります。正常であればこのバランスが保たれているのですが、セロトニンが減少してくるとバランスが崩れ、思考面や感情面をはじめとするさまざまな症状を引き起こすとされています。神経終末のセロトニンを正常に近い状態に調整し、症状を改善するといわれているのがSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)です。SSRIは、うつ病やパニック障害などの治療薬として使用されています。

直江さんは、2005年の8月から11月まで、ホルモン療法によるホットフラッシュの患者さん10人(注1)に、SSRIのパキシル(一般名パロキセチン)を1日10ミリグラムずつ服用してもらい、大半で良好な治療効果が得られたと報告しています。

「多くの患者さんはパキシルを服用後2週間から1カ月で改善効果が見られました(図1参照)。従来は、桂枝茯苓丸などの漢方薬を処方していましたが、効果が現れるまでに数カ月かかることが多く、SSRIのほうが切れ味がよいという印象があります。副作用としては、口渇(5名)、眠気(4名)のほか、便秘、下痢などの軽い消化器症状が2名ずつ認められました」(図2参照)。

今回の短期の臨床研究では確認されませんでしたが、SSRIには重篤な副作用もあります。また、薬の血中濃度が適量になって初めて安定した効果が得られるSSRIは、突然飲むのを止めてしまうと急激に薬の血中濃度が下がり、反動として離脱症状(めまい、ふらつき、吐き気、嘔吐、頭痛、不眠、疲労感)が出ると言われています。ですから、服用を中止する場合には、徐々に減量することが大切です。

ホットフラッシュでお困りの方は、効果と副作用について担当医と十分に相談し、そのうえで治療を受けるようにしましょう。

注1=年齢は60~83歳、ステージは2~4期。ホルモン療法の種類は、MBA、抗アンドロドン、LH-RHアゴニスト、精巣摘出術など。前立腺摘出術との併用も含む

[図1 パキシル4週間投与後の症状の比較]

テスト 治療前 治療後  
平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 p値
発現頻度 3500 2503 2000 2708 0.009
苦痛度 4600 3098 2000 2749 0.0332
QOLスコア 3800 2300 6900 2685 0.0218

[図2 パキシル4週投与後の副作用発現率(n=10)]

副作用 患者数(%)
口渇 5(50%)
眠気 4(40%)
下痢 2(20%)
便秘 2(20%)
嘔気 1(10%)

対策2 女性化乳房のピリピリ感には鎮痛薬

ホルモン療法によって、胸がふっくらとして乳首(乳頭)の先がすれて痛いという方もいます。「このような場合は、ロキソニンなどの鎮痛薬を処方することもありますが、根本的な解決とはならない場合が多いようです。」

軽度な場合は、乳頭に絆創膏などを貼って衣類との摩擦を避けるという手もあります。

対策3 食事、運動で肥満予防

「ホルモン療法中は肥満傾向になりやすいので、脂肪分の多い食事を控え、適度な運動を続けることをお勧めします。コレステロールの上昇には、コレステロール低下薬のリポバス(一般名シンバスタチン)などを使うこともあります」

対策4 骨粗鬆症にはビスフォスフォネート製剤

骨量が低下し、骨折のリスクが高い場合には、骨転移や高カルシウム血症に使われるビスフォスフォネート製剤が骨折の発症を減少させ、生活の質を向上させます。アレディア(一般名パミドロネート)、ゾメタ(一般名ゾレドロネート)、ベネットもしくはアクトネル(一般名リセドロネート)など複数の種類があり、健康保険の適用範囲が違うので、担当医に相談してください。