再発予防こそ体にやさしい治療を
肝がんの再発予防に期待される免疫細胞治療
ラジオ波焼灼療法と免疫細胞治療で再発肝がんに挑む
森安史典さん
肝がんは再発しやすいがんです。そのため、治療と同時にいかに再発予防を行うかが重要です。これまでは再発予防の手段として手術などの治療後に抗がん剤の投与が行われてきましたが、副作用が問題でした。副作用の少ない再発予防の手として期待されているのが免疫細胞治療です。
ウイルス感染が原因
日本において、肝がんは年間約3万5000人が発症している。
その種類は、肝臓それ自体からがんが発生する「原発性肝細胞がん」と、乳がんや肺がんなどから転移して起こる「転移性肝がん」に分けられる。
原発性肝細胞がんは、肝硬変から移行して発症することがほとんどである。そして、肝がんの90パーセントは、C型、B型の肝炎ウイルスの感染が原因であり、残り10パーセントは多量の飲酒が引き金となって発症するアルコール性肝硬変や、肝臓に脂肪が溜まることによって起こる非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が原因となる。
現在、C型、B型肝炎ウイルスの感染は減少しているが、食生活の欧米化などによりアルコール性肝硬変やNASHは増加傾向にある。今後、ウイルス性肝がんは減っていくものの、アルコール性肝硬変やNASHからの移行による肝がんが増えると予想されている。
一方、肝臓はほかの臓器で発症したがんが転移しやすい臓器でもある。とくに乳がんや大腸がん、肺がんなどから転移しやすいといわれている。
再発しやすいがん
(経年ごとの肝がん再発の推移/推測)
肝がんの治療は、手術でがんを切除する「手術療法」のほか、がんに酸素や栄養を送っている血管を塞いでがんを死滅させる「肝動脈塞栓療法」や、体の外側から肝臓に針を刺し、その針に電気を流してがんを焼く「ラジオ波焼灼療法」などが行われる。
肝動脈塞栓療法やラジオ波焼灼療法は開腹する必要がなく、目標のがんだけを死滅させることができるので身体への負担も少なく、また何度も行える治療法として最近施行例が増えている。さらに、針を刺さずにがんを焼く、強力集束超音波治療(HIFU)も注目を集めている。
だが、「肝がんは非常に再発しやすいがんです」と、東京医科大学消化器内科主任教授の森安史典さんは指摘する。
原発性の肝細胞がんは肝硬変から移行して起きる。つまり、肝臓にがんが発生した時点で、肝臓自体が発がんしやすい状態にあるということである。
「肝臓に初めてがんが見つかった患者さんが100人いたら、7年目にはほぼ全員の方が再発を経験します」(図1)。転移性がんも、転移してきたがんが見つかったときには、目に見えないほどの小さながん細胞がたくさん肝臓に入り込んでいる状態になっているという。そのため、最初に見つかったがんを切除しても、その後再びがんが発生してくる確率が高いという。
再発予防こそやさしい方法を
そのため、肝がんは治療とともに再発予防の対策をいかに行うかが重要になる。
これまでは、手術後に抗がん剤を使った再発予防が行われてきた。だが、抗がん剤はがん細胞を攻撃すると同時にがん細胞と似た性質を持つ正常な細胞も攻撃してしまうため、重篤な副作用発現が多い。
また、最近では再発予防のために分子標的薬を使用することも増えている。分子標的薬はがん細胞を攻撃するのではなく、がん細胞が育つための血管を作らせないなど、がん細胞が成長する環境を阻害していく働きがある。そのため、従来の抗がん剤ほど副作用は多くないといわれるが、「それでも、皮疹や手足症候群など、多少の副作用はあります」。
「再発するかしないかわからない再発予防こそ、体にやさしい治療を行う必要があります」と話す森安さんが手がけているのが、免疫細胞治療である。東京医科大学病院消化器内科では、肝がんの患者さんのうち年間20例ほどに免疫細胞治療を実施している。
免疫細胞治療は「副作用もほとんどなく、写真2に示した患者さんのように、数年再発をしないという手ごたえも得ています」と話す森安さん(写真2)。
東京医大病院では、再発予防のための免疫細胞治療は2週に1回の注射を6回行う。
森安さんは、「手術で取り残した可能性のある微小がんを全身的に攻撃できるので、免疫細胞治療は再発予防効果を引き出すためには良い方法だと思います」と話す。そのためには、患者さんと主治医、そして免疫細胞治療実施医療機関の協力が不可欠である。
免疫細胞治療を受けるにあたっては、「主治医によく相談し、免疫細胞治療を実施している医療機関を紹介してもらうのが、1番いいと思います」とアドバイスした。
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