肝がんに対する新しい治療戦略
肝動脈塞栓術+樹状細胞ワクチン療法で再発リスクを減らす
樹状細胞ワクチン療法と肝動脈
塞栓療法で効果をあげている
中本安成さん
今年のノーベル医学・生理学賞受賞者の1人は、樹状細胞を見出したラルフ・スタインマン氏です。亡くなる前、自ら発見した樹状細胞を使った免疫療法を受けていたことでも注目されました。実はこの治療、日本でも研究が大きく進んでいるのです。
肝がんは再発しやすい
肝がんの特徴の1つは再発率が高いことです。たとえ早期発見し、治療ができたとしても、3年たつと7割以上の患者さんが再発するといわれます。
なぜ再発しやすいのか。福井大学大学院医学系研究科第2内科教授の中本安成さんは、「患者さんの肝臓全体ががんを起こしやすい状態になっているため」と説明します。
「胃や大腸と違って、肝がんは健康な肝臓にいきなり発生するということはありません。背景には必ず肝炎や肝硬変といった肝障害があります。がんはこうした”高がん状態”の土壌から発生してきます。ですから、手術などで完全に取り除いたと思っても、この土壌がある限りまた再発してくるのです」
樹状細胞に着目
肝がんの治療は、手術に加えて、ラジオ波焼灼術、肝動脈塞栓療法などが次々に開発され、めざましい進歩を遂げ ています。にもかかわらず、こうした局所療法では肝がんの再発リスクを減らせない。これは、肝がんに携わる医師にとって大きなジレンマだったといいます。では、どうすればいいのか。そこで、中本さんが考えたのは、局所療法に免疫細胞治療を組み合わせるという方法で、とくに白血球の1つである”樹状細胞”に着目しました。
「免疫システムの中で強い殺傷力を持つのはT細胞です。しかし、T細胞もターゲット(がん)を識別できなければ活躍できません。このターゲットを探し出し、その情報を伝えるのが司令塔に当たる樹状細胞です。したがって、樹状細胞を活性化すれば、T細胞の反応が高まり、がんを強力に叩けるはず。この仕組みを利用しようと思いました」
塞栓療法と樹状細胞の併用で顕著な効果
中本さんたちのグループが考案した理論は、次のようなものです。まず、局所療法である肝動脈塞栓療法でがんを叩く。すると、がん細胞は死にますが、がん抗原(がんの目印)は変化せずに残ります。そこに樹状細胞を投与すると、この目印を認識しT細胞に出動を命じます。そして動員されたT細胞が、生き残ったがん細胞を集中攻撃し、再発の芽を摘むのです(図1)。
実際の治療に当たっては、まず患者さんから200ccの血液を採取して、専用の施設で樹状細胞を増やします。樹状細胞は白血球の中に1パーセントしか含まれていませんから、増やす作業が欠かせないのです。さらに、この樹状細胞を免疫賦活薬であるピシバニール(OK-432)で刺激します。こうすることによって、樹状細胞の活性が高まります。その上で肝動脈塞栓療法を実施。同時にカテーテルを通して樹状細胞を投与し、さらにダメ押しにラジオ波焼灼術を追加します。
同グループでは、臨床研究として、この方法をC型肝硬変が原因で肝がんを発症した13例の患者さんに行い、他の治療法と比較しました。その結果、肝動脈塞栓療法にピシバニールで刺激した樹状細胞を投与した群では、再発率が明らかに低下していました(図2)。さらに、効果の合った患者さんを調べると、がんを攻撃するT細胞の力が強まる一方で、免疫を抑制する物質には変化がないことがわかったといいます。
こうした成績を踏まえて中本さんは、「肝動脈塞栓療法と樹状細胞ワクチン療法の併用は、肝がんの再発予防の新しい治療戦略になる」とし、さらに研究を深めていきたいと話しています。
北陸地方でこうした免疫細胞治療を積極的に推進しているのが金沢大学付属病院の敷地内にある「金沢先進医学センター」です。産・官・学の連携によって昨年7月に開設されたもので、国立大学の敷地内で民間の医療機関が外来診療を行うという日本初の試みです。民間治療施設として免疫細胞治療を実施しながら、金沢大学と密接に連携し治療結果の解析研究等も行います。福井大学もそのメンバーとして、最先端の研究に取り組んでおり、今後の成果が期待されます。
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