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化学療法と免疫療法の上手い組み合わせが相乗効果をもたらす
休眠療法と樹状細胞療法の出会いから生まれた化学免疫療法

監修:高橋豊 金沢大学がん研究所腫瘍外科教授、千葉大学医学部分子免疫治療学教授
取材・文:柄川昭彦
発行:2007年8月
更新:2013年4月

  
高橋豊さん
新しい治療法に取り組む
「がん休眠療法」提唱者の
高橋豊さん

金沢大学がん研究所の高橋豊さんが「がん休眠療法」を提唱してから12年。
高橋さんは今、このがん休眠療法に樹状細胞療法という免疫療法を取り込み、新しい地平を切り拓こうとしている。免疫を下げない休眠療法。
一定の免疫環境によってさらなる効力を出す樹状細胞療法。この絶妙な組み合わせが相乗効果を上げだした。

樹状細胞療法と併用するがん休眠療法

免疫療法と化学療法を組み合わせた治療法が行われている。化学療法というと、免疫を低下させる代表のように思われているが、実は使い方によっては免疫を低下させないし、それどころか免疫を上げる働きすらするという。そのような働きを期待して、免疫療法と組み合わせているのだ。

東京港区白金台にあるセレンクリニックでは、標的を定めた免疫療法である樹状細胞療法に、低用量の化学療法を加えた治療が行われてきた。2006年の9月からは、低用量化学療法でがんとの共存を目指す「がん休眠療法」の提唱者である金沢大学がん研究所腫瘍外科教授の高橋豊さんを迎え、樹状細胞療法と併用する低用量化学療法の研究を進めているという。

「樹状細胞療法と組み合わせるためには、免疫を低下させない化学療法でなければいけません。だからといって、抗がん剤の量をただ減らせばいいというものでもない。どのくらいがちょうどいいのか、試行錯誤しながら、それを探っている段階です。私がやってきたがん休眠療法は、副作用の程度を指標にして、免疫を低下させないことを目指していたわけですから、樹状細胞療法と組み合わせても、相性がいいことはわかっていました。体にやさしい治療法は、そのまま足し算することができます。併用することで、いい結果が出てくると思います」

高橋さんによれば、2008年の5月ころには、化学免疫療法に関してかなりデータがそろうという。樹状細胞療法にどのような化学療法を組み合わせるのが最もよいのかも、研究によって明らかになるはずだ。

自分のがんを標的にする樹状細胞療法

高橋さんが行っている化学免疫療法について解説するためには、まず樹状細胞療法がどのような治療法なのかを、簡単に説明しておく必要があるだろう。

樹状細胞療法は、がん標的免疫療法と呼ばれることもある。攻撃すべきがん細胞をはっきりさせ、それを標的として、リンパ球などの免疫細胞ががんを狙い撃ちするからだ。標的を明確にする段階で、樹状細胞が活躍している。

樹状細胞は、がん細胞が持っているがん抗原を読み取り、それを自らの細胞の表面に提示する働きを持っている。がん抗原とは、その細胞が持っている特徴と考えればわかりやすいだろう。つまり、標的とするがん細胞の特徴を樹状細胞が提示し、これによって、攻撃役をつとめる細胞障害性T細胞(CTL)が標的を記憶する。そして、患者の体内を巡りながら、標的のがん細胞を攻撃していくのだ。

免疫療法は、特異的免疫療法と非特異的免疫療法に分類されることがある。樹状細胞療法は、ある特徴を持ったがん細胞だけを特異的に攻撃するため、特異的免疫療法に分類されている。

一方、免疫療法には、たとえば活性化リンパ球療法のように、攻撃役のリンパ球を活性化して増やし、体内に戻す治療法もある。このようにして免疫を向上させた場合、標的が定まっていないので、治療対象のがんだけを攻撃するわけではない。こちらは非特異的免疫療法に分類されている。

「活性化リンパ球療法は、手術や化学療法などで免疫が下がったときに、リンパ球を補うことで免疫を上げるのに有効な治療です。ところが、樹状細胞療法は、患者さんの体に備わった免疫の働きを利用する治療法なので、免疫力が大幅に低下した状態では、効果は期待できません。樹状細胞療法で治療効果を得るためには、ある程度以上に免疫が保たれている必要があるのです」

[樹状細胞療法と低用量化学療法を組み合わせた新しい治療法]
図:樹状細胞療法と低用量化学療法を組み合わせた新しい治療法

免疫を低下させないために、組み合わせる化学療法は低用量化学療法となるわけだ。

樹状細胞療法によって標的となるがん細胞の情報を免疫細胞が記憶すると、その記憶は長期間持続する。まるでワクチンを打った場合のような効果が期待できることになる。

たとえば、何年か後にがん細胞が増殖を始めても、標的を記憶している免疫細胞はただちに攻撃を開始するのである。これも樹状細胞療法の大きな特徴といえそうだ。

免疫を下げないための低用量化学療法のコツ

[がん休眠療法の概念]
図:がん休眠療法の概念

抗がん剤を投与するとまず、ある程度腫瘍は小さくなり(A)、その大きさがしばらく持続し(B)、その後再び増大する(C)。化学療法による延命はA+B+Cのトータルで示される。この延命期間を延ばすのががん休眠療法

がんの化学療法は、1回に大量の抗がん剤を投与し、がんを縮小させることをコンセプトとしている。その結果、強い副作用が現れ、免疫も低下するのが一般的だ。

これに対し、高橋さんが行っている「がん休眠療法」は、低用量の抗がん剤を継続して用いることで、がんの増殖を抑制し、がんを持ちながら長期生存を目指すところに特徴がある。「縮小なくして延命なし」という従来の化学療法の常識にとらわれず、「縮小なき延命」を実現してきた。

使用する抗がん剤の量は、継続して使用できることが基準となる。そのため、現れる副作用が、グレード1~グレード2になるような量の抗がん剤を使用している。副作用の程度は、グレード0が「副作用なし」を意味し、グレード5が「死亡」を意味している。その間をグレード1~4の4段階に分けて評価しているのだ。

「副作用がグレード1かグレード2に保たれるように、抗がん剤治療を行うのですが、投与間隔によっても、耐えられるグレードが違います。2週間や3週間に1回の投与なら、グレード2でもなんとか大丈夫ですが、ウィークリー投与や毎日服用するような抗がん剤の場合には、グレード1に抑えないと続けられません」


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