がん免疫療法の最新成果 「樹状細胞療法」
がん細胞を狙い撃ちする「樹状細胞療法」
「樹状細胞」とは、免疫の司令塔のような役割をしている重要な細胞です。この樹状細胞を用いた免疫療法が「樹状細胞療法」です。樹状細胞はがん細胞を食べて、その断片を表面に提示し、リンパ球にがん細胞の特徴を教えます。その結果、リンパ球はがん細胞を識別できるようになり、がん細胞だけを攻撃します。本法は、これまでの免疫療法のBCG療法や活性化リンパ球療法とは異なり、がん細胞を特異的に攻撃するため、効率よく、しかも安全にがんを治療することができると考えられています。
治療に用いるのは、患者さんの血液中の樹状細胞
樹状細胞療法では、まず成分採血により、患者さんの血液から樹状細胞の元になる細胞(単球)を取り出します。この単球を培養し樹状細胞に誘導した後、患者さんのがんの特徴を覚えさせると、そのがんの特徴を覚えた樹状細胞となります。 こうして、大量に培養した樹状細胞を皮内注射で患者さんの体内に戻すわけです。
皮内注射は2週間ごとに5回ほど行いますが、この治療は抗がん剤や放射線治療でみられるような重い副作用はなく、一部の患者さんで一過性の軽い発熱がみられる程度なので、体への負担が少なく、QOL(生活の質)を保ちながら治療を続けることができます。
進行したメラノーマ患者さんでのがんに対する反応率は30%
樹状細胞療法は1998年にはじめて実施され、以来、世界中で2000人以上の患者さんの治療成績が報告されています。それによると、何らかの臨床的メリットが得られた患者さんの*割合は、前立腺がんで18~51%、甲状腺がんで14~71%、婦人科がんでは10~38%、非小細胞肺がんでは38~56%、消化器がんでは9~64%などで、平均すると21.5%(173/804例)の反応率でした。これらの多くは標準的な治療で効果がみられなかったステージIII~IVの進行がん患者さんでの成績です。
また、東大医科研付属病院先端診療部でも、遠隔転移のあるステージIVの悪性黒色腫(メラノーマ)の患者さん10人に樹状細胞療法を行ったところ、多数の転移巣が縮小もしくは消失(ただし一部に新たに発生)した患者さんが2人、がんの進行が長期間停止した患者さんが1人でした。一方、甲状腺がんについては、患者さん6人中2人で進行停止となりました。
*割合=腫瘍が縮小、消失、あるいは増殖停止した患者さんの割合
「樹状細胞療法」を受けられるセレンクリニック
樹状細胞療法は、東大医科研付属病院先端診療部にて治療技術の研究開発が進められており、現在では、東京都港区のセレンクリニックで受けられます。
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