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「初発の脳腫瘍」で筑波大・東京女子医大病院と臨床研究へ
「自家がんワクチン」、抗がん剤や放射線を併用し、効果を上げる

取材・文:「がんサポート」編集部
発行:2009年10月
更新:2013年4月

  
大野忠夫さん
セルメディシン(株)代表
早稲田大学客員教授の
大野忠夫さん

「自家がんワクチン療法」が新展開を見せている。従来、ワクチンとは相性が悪いとされてきた抗がん剤や放射線を、組み合わせ方を工夫することによって、良い治療結果をもたらすことがわかった。この新しい症例について報告する。

全国50カ所の医療機関で受診が可能

「自家がんワクチン」とは、手術で取り出した患者さん自身のがん組織(約2グラム)をホルマリン処理後、無毒化し、セルメディシンが独自に開発した免疫刺激剤(アジュバント)を混ぜて作ったパーソナルワクチンである。これを2週間間隔で3回、皮内注射する。前後の免疫反応テストも加え、全部で5回の注射ですむので入院の必要はない。現在、セルメディシンと技術提携している全国の医療機関50カ所で受診することが可能だ。

現在まで1000例の投与実績があるが「副作用として報告されているのは注射部位の発赤、一過性発熱等で重篤な副作用の報告はありません。化学療法と異なり強い副作用がないため高いQOL(生活の質)を維持できます」(大野さん)

ただ、自由診療となるので150万前後の費用がかかるのが患者さんにとって負担となる。

だが、大野さんは「『自家がんワクチン』は原則、1クールで終了します。例外的に2~3クールを行うこともありますが、それでも他の免疫細胞療法や抗がん剤療法のように1年以上もかけて延々と繰り返し投与する必要はなく相対的には低価格の治療法です」という。

抗がん剤との併用も組み合わせによって効果が

「自家がんワクチン療法」の仕組みを簡単に説明すると、がん細胞だけを殺す働きのある免疫細胞をワクチンにより体内で活性化させると、がん細胞中に多くできる特殊なたんぱく質(がん抗原)を免疫細胞が見つけ出しがん細胞をたたくようになる。手術で取り残した、目には見えない小さながん細胞や運悪く残った小さながん組織を壊して再発・転移を予防できるという治療法である。

これまで、自家がんワクチン療法と抗がん剤との併用は好ましくないと考えられてきたが、組み合わせによっては効果が出てきているケース(JA尾道総合病院)もある。

Aさん(59歳)の場合 2004年2月に左乳房潰瘍・呼吸困難で来院、胸水貯留・多発性骨転移・肝転移があった乳がんの手術を4月施行、術後CEF治療(ファルモルビシン+エンドキサン+5-FU)6クール終了後、同年10月自家がんワクチン投与開始(この患者さんの場合、例外的に3クールを希望)翌年3月まで肝転移巣長期不変(SD)。しかし腫瘍マーカーが上昇。その後、通常よりも低い用量の化学療法(タキソテール40ミリグラム/日)を再開、2006年5月、腫瘍マーカーがほぼ正常化。大型骨転移巣が激減、一部消失(写真1)した。

[乳がん患者 抗がん剤との併用例(写真1)]
乳がん患者 抗がん剤との併用例(写真1)

術後、肝転移のある患者の多発性骨転移画像(写真左)
CEF(6クール)終了後、自家がんワクチン投与、低用量タキソテール再開 骨転移巣激減、一部消失(写真右)

放射線とも相性がいい

また、自家がんワクチンと放射線との相性がいいことも報告されている。

JA石橋総合病院の症例から見てみよう。

Bさん(43歳)の場合 2003年12月に大腸がんの術前にリンパ節転移が発見され、術後、UFT(一般名テガフール・ウラシル+ロイコボリン(一般名レボホリナート)、TS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)投与後もリンパ節転移部位が4センチにも増大したが、局所放射線照射(60グレイ)と自家がんワクチンの投与で大型のリンパ節転移巣が消失した(写真2)。

「従来の経験から放射線照射だけで巨大化した大腸がんリンパ節転移巣が画像から消失することはほとんどない。この症例は放射線と自家がんワクチンの併用効果と推定されます」(JA石橋総合病院)

「自家がんワクチンはさまざまな治療法と併用することで良い結果が得られることもあります。ただし自家がんワクチン併用時、血液中のリンパ球数が1000個/マイクロリットル以上に保たれていることが望ましい条件となります」(大野さん)

[大腸がん患者 放射線との併用例(写真2)]

抗がん剤投与後、放射線治療前
2004.4.9 抗がん剤投与後、放射線治療前
放射線+自家がんワクチン治療後
2004.10.9 放射線+自家がんワクチン治療後


術後、UFT+ロイコボリン TS-1投与後もリンパ節転移巣増大(写真左)
局所放射線照射(60グレイ)+自家がんワクチンでリンパ節転移巣が消失(写真右)

各大学との臨床試験も活発に展開

現在、セルメディシンでは「初発の脳腫瘍」について筑波大学付属病院・脳神経外科、および東京女子医科大学病院・脳神経外科との連携を取り臨床研究を行っている。

筑波大学との共同研究では、脳腫瘍のうちでも難治性のGBM(多型膠芽腫)で、12例のうちCR(完全寛解)1例、PR(部分寛解)1例となった。奏効率17パーセント、一過性の効果や長期不変が見られた症例も加えた疾患制御率は45パーセントと報告されている。

中国の中山医科大学との共同研究では術後再発率が非常に高い肝がんで、自家がんワクチンを投与した患者さん群とそうでない患者さん群とを比較した場合、無再発の割合は投与した患者群が格段に高く明瞭な延命効果の確認もされたとの報告がある。

セルメディシン株式会社
〒305-0047 茨城県つくば市千現2-1-6-C-B-1(つくば研究支援センター内)
TEL:029-828-5591 FAX:029-828-5592
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