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「免疫栄養法」で、手術後の感染症発生率が減少
話題のイムノ・ニュートリションとは?」

監修:福島亮治 帝京大学病院外科教授
取材・文:池内加寿子
発行:2007年8月
更新:2019年7月

  
福島亮治さん
帝京大学医学部外科学講座教授の
福島亮治さん

「免疫栄養法」が外科などの分野で注目を集めている。欧米では「手術前に一定期間免疫増強栄養剤を摂取すると、手術後の感染症が有意に減少する」とのエビデンス(根拠)がほぼ確立し、日本でも術後の感染症予防への期待が高まっている。そのアウトラインをご紹介しよう。

免疫増強栄養剤による「免疫栄養法」とは

イムノ・ニュートリションという言葉をご存知でしょうか。「イムノ」は免疫、「ニュートリション」は栄養という意味で、「免疫栄養法」と和訳されています。“免疫力を高めて、がんをやっつける栄養法”をイメージする方もあるかもしれませんが、主に外科や救命救急の分野で注目されている栄養法です。

「外科手術後は、体力や免疫力が落ちて、細菌やウイルスに対する生体防御機能が弱くなり、傷口が化膿したり、肺炎や尿路感染症などの感染症が起きやすくなったりします。永遠の課題ともいえる術後の合併症や感染症を特殊な栄養法によって防ぐ試みが、イムノ・ニュートリション(免疫栄養法)です。欧米の多くの論文(注1)を集計・解析したメタアナリシス(図1)で、手術前後にこの栄養法を行うと、術後の感染症が有意に減少することが示され、エビデンスはほぼ確立したといえるでしょう。日本でも最近は学会での発表が多くなり、質のよいデータが出てきています」と、帝京大学医学部外科学講座教授の福島亮治さんは説明します。

この栄養法の主役は、免疫に関係する複数の栄養素を配合・強化した「免疫増強栄養剤」です。免疫機能を高めるとされる「オメガ3系多価不飽和脂肪酸」「アルギニン」「核酸」などを配合した経腸栄養剤の「IMPACT」が1989年にアメリカで発売されたのを皮切りに、各種の免疫増強栄養剤が開発されています。

日本では、「IMPACT」を日本人の好むヨーグルト味にした「インパクト」(味の素ファルマ)が2002年に発売され、「イムン」(テルモ)、「サンエットGP」(三和化学)、「アノム」(大塚製薬)が続いています。これらは医薬品ではなく食品の扱いで、各社とも口からの摂取を前提に、味や容器などに工夫をこらしています。それぞれの製品ごとに特色があり、アルギニンとグルタミンを配合したもの(イムン)、ポリフェノールとビタミンCやEなどの抗酸化成分を配合したもの(アノム)など、配合成分や配合比率、コンセプトなどが多少異なります。

「栄養組成が微妙に違い、何をもって免疫増強栄養剤とするかは難しいところですが、日本では一応この4種類と考えていいのではないでしょうか」

注1 欧米では、IMPACTを用いた臨床試験が多い

[図1 イムノ・ニュートリションの感染性合併症への効果]
図1 イムノ・ニュートリションの感染性合併症への効果

Heyland DK, et al. JAMA 2001 ; 286 : 944より改変

栄養と免疫は密接に関係している

ここで、栄養と免疫の関係について少し説明していただきましょう。

「現代の医学では、“薬”が重要視され、どちらかというと栄養は軽視されがちですが、栄養と免疫は密接な関係があります」と福島さんは強調します。

その昔は結核などになると、栄養をとって体力をつけ、免疫機能を高めて自己治癒力で病原菌に対抗し、病気を治すしかありませんでした。その後、抗生剤で感染症を治す時代になり、栄養の効用が脇に押しやられていました。近年、抗生剤を投与しても防げない感染症もあるとわかり、栄養管理の重要性が再認識されてきています。

「栄養不良が続くと、全身のリンパ組織の萎縮が生じます。そのため、生体防御を受け持つ白血球、すなわち好中球やマクロファージ、リンパ球などの機能が障害され、細胞性免疫や、抗体を産生する液性免疫など、免疫系全体に異常が生じます」

たとえば細胞性免疫ではリンパ球数が減少し、抗原に対する皮膚の免疫反応が悪くなり、手術後の傷の治りが遅くなったり、感染しやすくなったりします。

「栄養が感染症の予防や治療に重要であることは以前からよく認識されていましたが、単に栄養不良を補うだけでなく、もう一歩進めて、特別な栄養管理によって積極的に免疫を増強し、感染症にかかりにくくしたり、入院日数を短縮したり生存期間を延長したりする方法として、免疫増強栄養剤を用いた栄養法が開発されたのです」

免疫機能を調整する栄養成分

免疫増強栄養剤に配合されているオメガ3系不飽和脂肪酸、アミノ酸の1つであるアルギニン、核酸などは、どんな働きをしているのでしょうか。

●オメガ3系脂肪酸 シソ油に含まれるα-リノレン酸、魚油に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)などがあります。

「これらは、代謝の過程でオメガ6系脂肪酸(リノール酸やアラキドン酸など)と競合して、プロスタグランディンやロイコトリエンなどの産生に影響を与え、免疫系を調整するものと考えられます。オメガ3系対オメガ6系の比率を変化させると、T細胞の増殖やサイトカイン産生が変化するため、これらの比率が重要だといわれています。また、最近では、アルギニンとの相乗効果で生体防御に有意に働くとの研究結果も見られます」

●アルギニン 成長下やストレス下では補給が必要なアミノ酸です。

「アルギニンは、T細胞の分化や成熟を亢進し、傷の治りを早めることが知られています。
外科の手術後には、通常の食事に含まれるアルギニンの3~4倍量を投与すると、T細胞機能の改善が得られると報告されています」

●核酸 DNAの構成成分で、免疫機能全般にかかわる白血球の働きを増強するといわれています。

それぞれの栄養成分の作用は、動物実験やヒトで確認されています。


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