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がん細胞を殺す能力はNK細胞の3倍以上
進行・再発肺がんで効果を上げつつあるNKT細胞療法

監修:中山俊憲 千葉大学大学院医学研究院免疫発生学教授
取材・文:菊池憲一
発行:2006年1月
更新:2019年7月

  
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 千葉大学大学院医学研究院
免疫発生学教授の中山俊憲さん

免疫機構のキーマン


NKT細胞に似ているNK細胞が 標的の細胞に結合している

千葉大学大学院医学研究院免疫発生学教授の中山俊憲さんらは、NKT細胞という新しい免疫細胞に着目した「NKT細胞療法」の臨床試験に取り組んでいる。免疫療法の切り札として期待されるNKT細胞療法は、臨床試験でその安全性と有効性が確認されつつあり、普及までもう1歩という段階にまで至っている。

NKT細胞は、日本で発見された免疫細胞だ。1986年、当時、千葉大学医学部教授であった谷口克(現理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センター長)さんらが発見したものだ。がん免疫の主役であるリンパ球には、胸腺でつくられるT細胞、骨髄で生まれるB細胞、そしてNK(ナチュラルキラー)細胞があるが、このNKT細胞は、それに続く第4のリンパ球と呼ばれる。NK細胞は、がん免疫の最前線で生まれたてのがん細胞などを手当たり次第攻撃する働きがある。T細胞は、さまざまな免疫反応に直接参加したり、調節したりする作用がある。このNK細胞とT細胞の2つのリンパ球に共通する目印の物質を持ち、両方の細胞の機能を備えていることからNKT細胞と名付けられた。

「健康な人でも1日数千個のがん細胞ができていることが、動物実験などの研究でわかっています。しかし、健康な人の場合、身体に備わっている免疫細胞ががん細胞を殺しているために、がんが発症しないのです。その免疫細胞の主役がNKT細胞とNK細胞です。この2つががんの免疫機構のキーマンです」と中山さん。

NK細胞の3倍以上の力

リンパ球の大半はNK細胞、T細胞、B細胞で占められる。NK細胞は末梢血のリンパ球の10パーセントほどだが、NKT細胞は0.1パーセントと極端に少ない。しかし、NKT細胞は、強力な2つの作用を持つ。

1つは、周囲のがんを直接殺す作用がある。大きさが1ミリのがんなら殺す力がある。そのパワーはT細胞の中の1つのCTL(細胞傷害性T細胞。キラーT細胞とも呼ばれる)と同程度で、NK細胞の3倍以上の力を持つ。

2つ目は、細胞で分泌されるサイトカインの1つのインターフェロンγという物質を大量に出して、NK細胞やCTLを活性化して、間接的にがんの免疫機能向上にかかわる作用である。

NKT細胞の数の正常範囲はまだ明らかにされていないが、年齢とは関係がある。若い人では平均0.1パーセントと多いが、加齢とともに減少し、60歳では平均0.01パーセントとなる。身体の中では肺、肝臓、胎盤、腸管に多く存在する。また、肺がん患者ではNKT細胞が数少ないこともわかっている。もともと数少ないから肺がんになったのか、がんになったから少なくなったのかは明らかにはされていない。

「NKT細胞は、数は少ないですが、すごい力を持った有用な細胞です。NKT細胞をどのような方法で活性化させるかが、治療として応用する場合の大きなポイントです」と中山さんは語る。

肺への効き目が予想される

実は、95年、NKT細胞を発見した谷口さんは、NKT細胞だけを活性化できる物質をキリンビールの研究所と共同で見つけた。アルファ・ガラクトシル・セラミド(KRN7000。キリンビールが化学合成)と呼ばれる糖脂質だ。そこで、この糖脂質を用いてNKT細胞を活性化するNKT細胞療法への取り組みも始まった。中山さんらは、01年春頃から千葉大学医学部呼吸器外科教授の藤澤武彦さんらと共同で、NKT細胞療法の臨床試験を推進中だ。進行して手術ができないか、術後に再発した肺がんで、ステージ2B、3Aがその対象である。

[肺がんに対するNKT細胞と樹状細胞を
活性化する免疫療法の治療手順]


クリーンルーム内の培養器でNKT細胞を培養しているところ

この臨床試験で行われる治療は、血液透析のような方法で行われる。患者の腕の静脈から採血してリンパ球と単球を分離して取り出しながら、そのほかの血液成分を体内に戻す。取り出したリンパ球と単球を1~2週間培養し、抗原提示細胞(敵の目印を教える)と呼ばれる樹状細胞をつくり、最後に糖脂質をまぶしてから、再び、静脈から点滴で体内に戻す――という治療である。

採血の時間は約1時間半、培養した樹状細胞を点滴で体内に戻す時間は約30分ほどだ。点滴は合計4回行う。第1回目から1週間後に2回目の点滴を行う。2回目の点滴から4週間後、再び、患者からリンパ球と単球を取り出して培養し、同様の間隔で、3回目、4回目の点滴を行う。

「点滴した場合、一晩、肺の中に留まってから肝臓や腎臓、脾臓へと移動することがわかっています。肺への効き目が予想できることから、肺がんを治療対象に選びました」と中山さん。

NKTに代わってNK細胞が増える

[NKT細胞による抗腫瘍効果のメカニズム]

[体内におけるNKT細胞活性化の推移]

臨床試験には、安全な投与量などを確認する第1相(フェーズ1)、小規模で抗腫瘍効果や免疫反応をみる第2相(フェーズ2)、大規模・多施設で有効性を確認する第3相(フェーズ3)の3つの段階がある。第1相は01年春から合計9人に行われた。安全性を確認しながら培養した細胞数を5000万個、2億5000万個、10億個と増やした。各グループ3人ずつ実施して、その経過をみた。その結果、10億個に増やしても安全性に問題はなく、細胞数が多いほど高い治療効果が得られたという。

また、次のような興味深い現象も明らかとなった。

「2回目の点滴でNKT細胞はグーンと増加しています。少なくとも5~6倍、多い場合は20~30倍にもなります。その後、3~4回目の点滴ではNKT細胞は徐々に下がりますが、今度は、NK細胞が徐々に増え始めます。増加したNKT細胞がインターフェロンγを大量に出して、NK細胞を増やすのだと思います。臨床試験では期待した通りの抗腫瘍免疫細胞の増殖効果が得られています」(中山さん)


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