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症状を抑えることで生存にもよい影響が
がん患者をやせ衰えさせる「悪液質」には適切な栄養管理を!

監修:東口髙志 藤田保健衛生大学医学部外科・緩和医療学講座教授
取材・文:町口充
(2011年2月)


東口髙志さん 藤田保健衛生大学医学部
外科・緩和医療学講座教授の
東口髙志さん

がんの進行によって現れる食欲低下や体重減少によるやせ衰えた状態、あるいは倦怠感、腹水、胸水といった症状は「悪液質」と呼ばれます。これまで有効な対処法はありませんでしたが、適切な栄養管理を行うことで症状を抑え、生存期間を延長する例もみられるようになってきました。

明確でない「悪液質」の定義

「悪液質の定義は、実はいまだ明確になっていません」

と語るのは、藤田保健衛生大学医学部外科・緩和医療学講座教授の東口髙志さんです。

悪液質はがんだけでなく心不全や結核、内分泌疾患などでも起こります。がんの場合は、がんが進行して食欲不振に陥って食事もとれなくなって体が弱り、輸液などを行ってもタンパク質などの重要な成分が身体の中で作られなくなりやせ衰え、腹水や胸水、全身の浮腫をきたす状態を指し、がんの患者さんの終末期の姿とされています。

なぜそのようなことが起こるのでしょうか。

がん細胞は自分自身が生きるために、特別なエネルギー供給が必要です。そこで、宿主である患者さんが持っているタンパク質や脂肪などを崩壊させて、自分に必要なエネルギーに変えようとします。がん細胞自身が放出するサイトカイン)や生理活性物質などによって正常な代謝を狂わせ、患者さんの栄養を奪い取ってしまうのです。

がん細胞から放出されるサイトカインは炎症性サイトカインであり、過剰に放出されるとやがて患者さんのからだ全体に炎症が広がります。その結果、全身の代謝機能が衰えて栄養の利用効率はますます悪化していくことになります。

このとき放出される炎症性サイトカインはTNF(腫瘍壊死因子)αやインターロイキン1、インターロイキン6と呼ばれるものです。それならば、これらサイトカインの放出を止めれば、悪液質は解消されるかというと、そう簡単にはいかないようです。

「私はすでに20年も前にサイトカインについて研究しています。確かに悪液質になると、サイトカインの血中濃度は高くなります。それならば抗インターロイキン6、抗インターロイキン1、抗TNFαといった拮抗薬を投与してはどうかと動物で実験しましたが、その効果はわずかでした。余命との関係も調べましたが、こうした拮抗薬を投与しても余命とあまり相関しないことがわかりました」

つまり、いくら抗サイトカインの治療を行っても生存期間を延ばすことはできないということがわかったのです。

サイトカイン=細胞が産生するタンパク質で、それに対する受容体を持つ細胞に働き、細胞の増殖・分化・機能発現を行うもの

[血中TNF-αと予後との関係]
図:血中TNF-αと予後との関係
東口髙志:がん悪液質の代謝動態からみた栄養管理. 臨床栄養113(5):602~607、2008

[がん進行に伴う症状と予後との関係]
図:がん進行に伴う症状と予後との関係
東口髙志:がん悪液質の代謝動態からみた栄養管理. 臨床栄養113(5):602~607、2008

適切な栄養管理で予後の改善も

その後の東口さんの研究と治療で明らかになったのは、サイトカインの高値と余命との相関は認められないけれども、適切な代謝制御と栄養管理によって悪液質の症状を抑えることが余命と相関し、終末期がん患者の予後の改善につながるということでした。

東口さんは、悪液質の研究と治療を行う中で重要な発見をしています。それは、悪液質の患者さんの代謝動態に特徴的な1つの大きな変化を見つけたのです。

「とくにがんの悪液質ではサイトカインが放出されるので、エネルギー消費がものすごく上昇します。そのため、患者さんがやせていくのは、食べられなくなることもあるが、エネルギー消費が上がって供給が追いつかないからだろうと思われていました。しかし、実際には患者さんがお亡くなりになるとき、生物界の原則ではエネルギー消費はゼロになるはずです。それならば、終末期の患者さんはエネルギー消費がどんどん上がっていくのではなく、きっとどこかの時点から下がるはずだと思ったのです」

もしそれが正しいのなら、カロリーを与え続けるより、むしろ途中で減らしたほうが良い場合があり、それが寿命を延ばすことにもつながるのではないか。調べてみたら、東口さんの仮説を裏付ける明確なデータが出てきました。

[エネルギー消費量とがんの進展]
図:エネルギー消費量とがんの進展
東口髙志、森居純、伊藤彰博、ほか:全身症状に対する緩和ケア. 外科治療 96:934~941、2007より

悪液質の症状が出たらギアチェンジを

そこで、がんの進展に対応して悪液質の症状が出るまでは、一般の症例と同様に過不足のないエネルギーや各種栄養素の投与を行います。いったん悪液質の症状が出ると、エネルギー消費が一気に減少するので、この時点でギアチェンジして、過剰な水分やエネルギーなどの投与を抑えます。

すると、従来は悪液質が出現しても高カロリーの投与を続けて患者さんを苦しめる結果となっていたのが、ギアチェンジによって身体機能に対する余計な負荷がなくなると、患者さんは楽になり、穏やかな表情を浮かべるようになっていったのです。

その結果、生存期間および患者さんが自分の口で食べる経口摂取可能期間はともに3~4週間の延長が認められ、寝たきりによる褥瘡発生率も、ギアチェンジを始める以前は40.9パーセントだったのが開始1年後10.8パーセント、2年後1.9パーセント、3年後4.0パーセントと大きく減少しました。

[ギアチェンジの考え方を取り入れた栄養療法の効果(平均生存期間、経口摂取可能期間の推移)]
図:ギアチェンジの考え方を取り入れた栄養療法の効果(平均生存期間、経口摂取可能期間の推移)
東口髙志:がん悪液質の代謝動態からみた栄養管理. 臨床栄養113(5):602~607、2008
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