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がんの「バリア機能」に着目した新しい免疫力向上の手 シイタケ菌糸体
いくら免疫細胞を活性化しても、免疫細胞の効果が発揮できない謎を解く

監修:柴田昌彦 福島県立医科大学腫瘍生体治療学講座教授
取材・文:林義人
(2010年6月)

柴田昌彦さん
福島県立医科大学
腫瘍生体治療学講座教授の
柴田昌彦さん

これまでのがんの免疫療法は、免疫細胞を活性化することに力を注いできた。しかし、これには欠陥があるという。いくら免疫細胞を活性化しても、がんには「バリア機能」があり、それを受け付けないことがわかってきた。そのバリア機能に着目したがん免疫の最新成果について報告しよう。

免疫細胞の働きを抑える「がんのバリア機能」

がんに対する免疫療法は古くは免疫賦活剤、最近では免疫細胞療法と多々あり、40年からの歴史がある。理論的にも免疫療法でがん細胞が抑えられることは明らかになっている。ところが、実際には免疫療法はこれまで期待されたほどの効果が出ていない。なぜだろうか。福島県立医科大学腫瘍生体治療学講座教授の柴田昌彦さんはこういう。

「従来の免疫療法は、免疫細胞を活性化し、がん細胞への攻撃力を高めるという治療法でした。免疫細胞を活性化することに力を注いできたのです。ところが、最近のがん免疫の世界では、がんには、その免疫細胞の働きを抑えるバリア機能があり、がん細胞への攻撃をブロックしていることが明らかになったのです。制御性T細胞(Treg)と呼ばれる細胞がそのひとつです。だから、いくら免疫細胞を活性化しても、この細胞を中心とするバリア機能によってがん細胞を攻撃できない状態になっているのです」(図1)

[図1 がん細胞に対する免疫力を無力化してしまう「がんのバリア機能」]
図1 がん細胞に対する免疫力を無力化してしまう「がんのバリア機能」

そのため、最近は、どうやってこのバリア機能を壊すか、排除するかが注目されている。その方面の研究も盛んで、バリア機能の排除が今後の免疫療法の命運を占っていることが示された例も多々ある。京都大学再生医科学研究所によるマウスを用いた実験では、制御性T細胞をマウスからなくすと、移植したがん細胞が完全に消失することが報告された例などだ。

「このように、免疫細胞の活性化だけががんの免疫ではないのです。がんのバリア機能の排除も重要で、この両者が加わって初めて真のがん免疫力になるというのが、最近の学会のコンセンサスです」

大阪癌研究会らが免疫力に関する新しい評価法を見出す

となると、影響があるのは免疫療法ばかりではない。免疫力の向上を目指して開発される食品も免れない。ところが、その食品摂取による免疫力向上を評価できる確かな指標が見あたらず、有用な食品開発のネックとなっていた。

そこに目をつけたのが大阪癌研究会と小林製薬である。両者は、注目されるがんのバリア機能に着目して、免疫力に関する新しい評価方法を長年探索してきた。血液中のさまざまな免疫物質を臨床試験で測定していく中で、有用な新しい方法として見出したのが、「インターフェロンγとインターロイキン10の産生比」だ。がん患者でこの指標の20週間前後の変化を見て、その後6カ月以内の患者の生存の有無との関係を調べた。その結果、6カ月以上生存していた方では、新指標が改善していたのに対して、6カ月以内に亡くなった方では、新指標が低下し、悪化していることがわかった。

インターフェロンγは、がん細胞を攻撃する免疫細胞を生み出す免疫活性化物質のひとつ。インターロイキン10は、免疫細胞を抑える制御性T細胞などが生み出す免疫抑制物質のひとつ。つまり、この比は、免疫ががん細胞に届いて、正常に働いていることを表すというわけだ。

さらに、両者はこの新しい指標を用いて、食品のシイタケ菌糸体に免疫力を高める効果があるかどうかを臨床試験で確かめた。シイタケ菌糸体は、シイタケのいわゆる根の部分(菌糸体)にあたる。そして昨年、米国デンバーで開催された米国がん学会でその結果が発表された。

臨床試験で確認された。免疫力が正常へ

臨床試験は03年から5年間かけてさまざまながん種の患者を対象に行われた。治療が終了して臨床所見上はがんが残っていない患者にシイタケ菌糸体を含む顆粒(シイタケ菌糸体として1日1500ミリグラム)を20週間摂取してもらい、摂取前後の新しい免疫指標である「インターフェロンγとインターロイキン10の産生比」を測定。そのうち、解析できた13人について発表された。健常者の免疫力(指標)の平均値を100とした場合、シイタケ菌糸体摂取前のがん患者は84パーセント程度まで低下していたが、20週間の摂取後は、健常者とほぼ同じ105パーセントにまで回復していることが判明した。(図2)

[図2 シイタケ菌糸体摂取による免疫力の正常化]
図2 シイタケ菌糸体摂取による免疫力の正常化

「臨床試験はいずれもがんの治療をした患者さんが対象ですから、がんが消えるというような、目に見える効果はありません。しかし、免疫機能が落ちているのを健常者レベルにまで回復させたこと、その中身については、免疫細胞の活性化だけではなく、がんのバリア機能も低下させていることが考えられます」

このバリア機能について、柴田さんはさらに踏み込んでこう指摘する。

「シイタケ菌糸体の有用成分が免疫を活性化する一方、がんのバリア機能を低下させる効果も発揮すると考えられます。動物実験ですがマウスにシイタケ菌糸体を投与すると、制御性T細胞数が下がり、がんの増殖が抑えられていることも明らかになっています」

米国がん学会で発表があった際には、欧米の医師や製薬企業から高い関心が示されたという。

がんの治療では、まず手術で腫瘍を摘出し、術後に化学療法や放射線療法を行って、目には見えない微小ながん細胞を叩いて再発転移を防ぐ術後補助療法を行うことが多い。今回の研究で、免疫力を健常者レベルまで回復するという有用性が示されたことでこの術後補助療法的な利用の可能性も見えてきている。

「今回の試験結果はがんの再発を予防する可能性を示唆しています。術後の治療では、免疫力を回復させることが大切です。たとえば手術後、再発の危険性の高い2年くらいの期間、シイタケ菌糸体を摂取し、免疫力を健常者レベルまで回復させ、それをキープすることで、がんの再発を予防するという利用も今後は考えられるでしょう」



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