メディカル・レポート2 川崎市立井田病院開発のIDASシステム

患者さんの毎日のQOLを多方面から評価 インターネット上で公開

監修●宮森 正 川崎市立井田病院かわさき総合ケアセンター所長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2014年6月
更新:2014年9月

  

「QOLの評価にはバランス感覚が大事」と語る宮森 正さん

本号の施設訪問で紹介した川崎市立井田病院で、入院患者さんに対する緩和ケアで力を発揮しているのが、同院独自開発のIDAS評価システム。同院かわさき総合ケアセンター所長の宮森正さんらが考案したシステムで、患者さんの毎日のQOL(生活の質)が多方面から評価され、緩和ケアチームに属するスタッフだけではなく、各階に設けられたスタッフステーションに詰める看護師さんらにも患者さんの状態が把握できるようになっている。

患者さんの生活スコア+症状スコアを統合

IDAS(Integrated Distress Activity Score)は、がん患者さんの身体的症状および精神神経症状と日常生活の状況を統合したスコア(点数)を意味する。

患者さんのQOL(生活の質)を「Positive QOL(生きる希望の評価)+ Negative QOL(苦痛の評価)」と定義。Positive QOLは食事、飲水、娯楽、会話、行動範囲を生活スコアとして評価。一方、Negative QOLは疼痛、倦怠感、呼吸器症状、消化器症状、精神神経症状を症状スコアとして評価する。つまり、IDASは「生活スコア+症状スコア」ということになる。

IDAS のアイデアは、1994年に宮森さんと石黒浩史さんが考案したもので、1997年に論文化されている。QOLを苦痛などのネガティブな面からだけでなく、飲んだり食べたりなどポジティブな面を押えつつ、痛みを和らげていくバランス感覚が非常に大事との考えから生まれたものだ。緩和ケア病棟が開設される(1998年)以前の3年間、一般病棟で試験的に用いられていた。

10項目の簡易な客観的評価で構成

表1 IDASシステム記入例

IDASシステムの評価項目は、表1のような10項目の簡易な客観的評価で構成されている。

IDASを用いて、井田病院緩和ケア病棟を2012年(2012/1~12)に退院した患者さん232例を対象に病型分類を行った結果、図1のような4つの病型に分類された。

宮森さんによると、同院では1998年の緩和病棟設立以来、全例毎日IDASを施行しているという。「これまでに3,000件近い評価実績があり、QOL評価を全例毎日行っている施設は他にあまりないのでは」と述べている。

井田病院では、緩和ケア病棟、緩和ケアチームともに、毎日、日勤の看護師が日勤最後にIDASを用いてその日の患者さんのQOL評価を行っているが、簡単にチェックできることが継続可能な要因となっているようだ。

図1 IDASの経過による病型分類(井田病院緩和ケア病棟退院患者 2012/1~2012/12の232例の病型分類)

QOLの経過が明確に評価可能

IDASのメリットは、QOLの経過が明確に評価でき、疼痛緩和によりQOLの回復していく様子も目に見えて理解できること。またQOLの良い時期に、退院や外出などの良い時間を使う目安となり、予後も予測にも役立つ。IDASが低下してくると、予後が悪いことが予測できる。IDASとNRS(痛みの評価スケール)を指標に、患者のQOL経過を評価でき、緩和ケアチームの回診、地域連携、患者の自己記録用に活用できることから、同院では在宅ケア、地域連携、患者自身の記録などに利用できるように、IDASをインターネット上(川崎市立井田病院:IDASによる緩和ケア・地域連携パス)で公開している。

検査データ、コメント記入欄もあるため、簡易カルテとしても利用できる。また患者さんのパソコン、主治医のパソコン、往診医のパソコンに導入して、地域連携ツールとして活用でき、さらにクラウド上において、関係者が共有するなどの利用方法も可能となっている。

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