自分の痛みを理解し、前向きに治療にかかわるために
自宅で痛みと付き合う患者さんをフォローする看護師の役割

監修●山本香奈恵 神奈川県立がんセンター看護局主任看護師・緩和ケア認定看護師
取材・文●町口 充
(2012年9月)

山本香奈恵さん
神奈川県立がんセンター
看護局主任看護師の
山本香奈恵さん

ひと昔前には、終末期の患者さんに対するケアというイメージがあった緩和ケア。現在ではがんと診断されたときから積極的に取り入れる施設が増えている。痛みをしっかりコントロールしながら自宅でがんに立ち向かう人が増えてきた昨今、大きくなっているのが看護師の役割だ。

主治医の診察日に合わせ30~40分かけて外来診療

[図1 緩和ケアチームへの依頼内容]
図1 緩和ケアチームへの依頼内容

せん妄(環境の変化などで脳がうまく働かなくなり、興奮して、話す言葉やふるまいに一時的に混乱が見られる状態)

神奈川県立がんセンターでは、がんと診断された初期から、外来で痛みなどの症状に対応する「緩和ケア内科外来」が平成22年4月開設され、今年で3年目を迎える。同外来では主治医や患者さんから、痛みなどの症状について相談やサポートを実施している(図1)。

「外来診察日の設定はありますが、それ以外の時間でも診察をしています。というのも患者さんには主治医がいて、定期的に主治医の診察がありますが、痛みなどの症状は診察日に合わせてくれる訳ではありません。緩和ケアの診察日を別の日にすると何回も来院しなくてはいけなくなるので、主治医の診察日に合わすことにしています。主治医の診察が終わったあとに緩和ケア内科外来の医師の診察になるので、いつ呼ばれるかわからない。それでも医師は丁寧に時間をとって診察するようにしていて、診察時間は1人だいたい30~40分ほどかけています」

こう語るのは緩和ケア認定看護師で、緩和ケアチームの一員として同外来を担当する山本香奈恵さん。山本さんによると、入院中の患者さんへの緩和ケアと、外来患者さんへの緩和ケアとでは、かなり違った対応が求められるという。

「入院中なら、いつどんなときでも緩和ケアチームがかかわっているので、『痛い』といえばすぐに対応できますが、外来の患者さんは普段は自宅で、医療者がいないところで生活しています。医師から処方された薬で痛みを自分でコントロールできそうか、苦痛を抱えながらどのように生活していくか、そこのところをどうフォローするかが看護師の仕事として重要になります」

心配な患者さんには「困ったときは電話してくださいね」と伝え、実際に電話で相談が寄せられることもあるという。

患者さんの「思い」を聞いてオピオイドの誤解を解く

また、痛みの治療についての誤解を解く上でも、看護師の役割は大きいようだ。

痛み治療ではモルヒネなどオピオイド鎮痛薬(医療用麻薬)が使われることが多い。すると、「モルヒネを使うようになったら終わりだ」「麻薬中毒になる」など誤解を持つ人が少なくない。

そんなとき山本さんは、オピオイドの効果を伝えるだけでなく「どんな思いがありますか?」と聞くようにしている。

「説明すれば多くの人は納得しますが、中にはそれでもいやだという方がいらっしゃいます。たとえば戦時中、特攻隊で出撃するとき仲間がモルヒネを打って行った。そのときの悲惨な思い出があるから絶対いやだという人がいました。痛くても我慢している人の背景というのはよっぽどいろんなことがあると思うので、できるだけお話を聞くようにしています。すると安心して治療を受ける方もいます」

「あなたの痛みの日誌」に自分で記入して自己管理

今年の6月に厚労省の「がん対策推進基本計画」の一部が改訂された。

その取り組むべき施策の1つに「患者とその家族が抱える苦痛を適切に汲み上げ、がん性疼とう痛つうをはじめとする様々な苦痛のスクリーニング(状態を把握して取り上げること)を診断時から行う」と明記されている。

国としてもがんの痛みへの取り組みが、より具体的に始まることとなったが、痛みは患者さん本人にしかわからないものだけに、どう的確に表現し医療者に伝えてもらうかも重要だ。

同センターでは2年前、緩和ケアチームの看護師と薬剤師が協力し合って『痛みについて』と題するがんの痛み治療についてのパンフレットを作成、患者さんに渡している。

痛いときは我慢しないで「痛い」と伝えることの大切さ、痛みに効く安全で効果的な薬があることなどが書かれていて、さらに治療する上で役立っているのが「あなたの痛みの日誌」という見開きのページ。自分の痛みを記入できるようになっている。

[図2 がんの痛み伝達シート]
図2 がんの痛み伝達シート

このシートは「ホームページ;がんの痛みはがまんしない」
http://www.shionogi.co.jp/itami/index.html でダウンロードできます

痛みの程度が11段階でチェックでき、頓服薬は効いたか効かなかったか、その他、食欲は? 吐き気は? 眠気は? 便の硬さは? といった項目もあり、患者さんが自分で記入し、次の外来のときに持ってくる。

最初は、医師や看護師など医療者が患者さんの痛みの経過を知りたくてつけてもらっていたが、実は患者さんにとっても自分の痛みを知る役割を果たしていて、自己管理に役立っている、と山本さんは語る。

「患者さんが痛みの日誌をつけているのを見ていると、だんだん表現が上手というか、的確になっていくのがわかります。痛みが8だったのが6になったよとか、痛み止めはだいたい何時間ごとに飲むとどのぐらいで効いてくるようになったよとか、患者さんが自己管理していくうえでもすごく役立っています。毎日記録することで、日常生活の中で痛みに対してどう対処したらいいかを、患者さんご自身が学習しているのですね」

自分の痛みを医療者に伝えるための「痛みの日誌」は、患者さん自身が自分の痛みを理解し、前向きに治療にかかわるためのツールともなっているようだ。