格安の方法で「X線を重粒子線に変える!?」というが…
放射線の最強パワーを生み出す「増感放射線療法」の実力
強力な放射線療法を受けたくても、高額な費用の前に尻込みする人が多い。それがなんと、格安の方法で重粒子線並みの効果が期待できる治療法が開発された。その治療法とは?
放射線治療で使われるX線の力は弱い
放射線治療の分野で、「増感放射線療法KORTUC」という治療法が注目されている。簡単に説明すると、オキシドール(過酸化水素水)とヒアルロン酸をがんに注入し、その後放射線照射を行う。オキシドールの働きで、がんの放射線に対する感受性が上がり、治療効果が高まる。
実際、乳がんに対する手術を行わない乳房温存治療も行われており、手術に劣らない効果をあげている(図1)。
この治療法を開発したのは、高知大学医学部放射線医学講座教授の小川恭弘さん。治療法が生まれた背景から解説してもらった。
「一般的な放射線治療で使われているのは、リニアック*と呼ばれる治療機器ですが、そこから照射されるX線や電子線は、比較的大きな腫瘍に対する効果が弱いという難点があります。そこで、放射線を病巣に集めて治療する定位放射線治療や、コンピュータを使ってがんの形に合わせて、正常組織への照射量を少なくする強度変調放射線治療*といった方法が開発され、普及してきました」
もう1つ、治療効果を高めるために進められたのが、重粒子線治療。重粒子線は体の表面から一定の深さの病巣に放射線があたり、かつ、DNAに対する2重鎖切断で効くという特徴があり、がんが大きくても治療効果を発揮するとされている。
「最近の放射線治療は、主に物理学によって進歩を遂げたといえます」と小川さん。
しかし、物理学によって進歩してきた治療法も、大きな問題を抱えていた。
例えば、重粒子線治療は、治療効果は優れているが、お金がかかり過ぎる問題がある。治療施設の建設に100億円以上が必要で、健康保険のきかない分の治療費が約300万円余分にかかる。
その点、リニアックは治療システムをそろえても1台4~5億円で、日本全体で1000台近くが稼働している。ところが、この治療効果には限界がある。
「X線や電子線をリニアックで照射し、1回2グレイで30回照射する60グレイの治療で、普通に治癒するのは1cm未満のがんです。3cmくらいになると、定位照射では12グレイを連日4回で48グレイという線量が必要になります。この方法は、1回に12グレイという高線量を4日間という短期間に照射してしまうため、1回2グレイでの60回照射の120グレイに相当する効果をもたらすとされています。がんが5cmくらいになると、1回2グレイでの90回の180グレイ相当が必要になり、リニアックで治癒を目指すのはまず無理です」
こうした限界を乗り越えるためには、新しい発想の治療法が必要だったのだ。
*リニアック=電子線直線型加速器 *強度変調放射線治療=IMRT
原因は酸素の欠乏とがんが出す抗酸化酵素
がんが大きくなると、X線や電子線はどうして効果が低下するのだろうか?
「重粒子線治療の効果は、がんに主にDNAの2重鎖切断という強い障害を起こさせることで発揮されます。X線や電子線には、そういった強い作用は少ないのです。人間の体の約3分の2は水なので、X線や電子線も、3分の2は水に当たります。リニアックの放射線効果のうち、3分の1はDNA障害によるものですが、残りの3分の2は、水の放射線分解で生じる化学反応によって起こります。これによるラジカル作用ががん細胞にダメージを与えるのです。この化学反応をがん治療に生かすには、ラジカル作用を固定させる酸化のための酸素が欠かせません。ところが、がんが大きくなると、内部は酸欠状態になり、ラジカル作用でできた過酸化水素を分解する抗酸化酵素のペルオキシダーゼが多くなっています。だから、効果が発揮できなくなってしまうのです」
この問題を解決しようと、これまでは力でねじ伏せる方法がとられてきたのだ。
「しかし、力づくではうまくいきません。がんは自分を守るための抗酸化酵素という鎧を着ているのです。これを脱がさなければ、放射線量を増やしても駄目なのです」
そうした背景のなかうまれたのが、増感放射線療法KO RTUCなのである。
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