初期のがんなら1回照射で終わることも!
強い効果で難治がんにも有効。重粒子線治療の実力とは!?
X線や電子線などの従来からある放射線治療より、強い抗腫瘍効果が期待できる重粒子線治療。それに加え、副作用も少なく、初期のがんにはわずか1回の照射で治療が終了する場合もあり、患者さんの負担も軽減できそうです。
X線の2~3倍の殺傷能力
放射線とは波の形や小さな粒となって空間を伝わるエネルギーの流れのことで、波の形で進んでいくのを電磁波、小さな粒となって飛んでいくのを粒子線と呼びます。電磁波の代表がX線、ガンマ線であり、粒子線には陽子線、重粒子線、中性子線などがあります。
がんの治療に用いられる放射線の作用は、がん細胞のDNAに分子レベルで傷をつけ、細胞分裂ができないようにして、がんを死滅へと導きます。その作用が強く働くのが重粒子線です。
放射線医学総合研究所(以下放医研)重粒子医科学センター長の鎌田正さんは次のように語ります。
「波である電磁波と違って粒子には重さがあり、電子線と比べても数万倍の重さがあります。とくに重い粒子を高速で加速したのが重粒子線なので、がん細胞にぶつかれば強い生物効果(がんを殺す力)を示します。また、X線は体を突き抜けてしまう上、体の1番浅いところで高い線量となり、体の深いところ、つまりがんがある場所まで到達するまでに線量が低くなってしまいますが、重粒子線は体の浅いところでは線量が低く、一定の深さに達すると急に線量が高くなるピークがあり、それをすぎると線量がゼロになってしまう特徴があります。このピークの位置をうまく調節し、腫瘍の形に合わせた照射を行うことにより、より多くの線量をがん病巣に集中して当てることができるのです」(図1、2)
粒子線には陽子線などもありますが、軽い粒子であるため「がんをやっつける力はX線とあまり変わらない」との指摘もあります。また、ネオンやシリコンなどの粒子は効果が強すぎて、治療に用いるのが難しいそうです。そのため放医研では粒子線のなかでも中性子やヘリウムよりも重く、ネオンやシリコンよりも軽くて治療に適した炭素線を使っています。炭素の重量は陽子を1とすると12倍の重さ。がんに対する殺傷能力はX線やガンマ線、陽子線の2~3倍となり、がんの種類によっては8倍にもなるといわれています。
骨肉腫などの難治がんにも有効な重粒子線
重粒子線によるがん治療は2003年に「先進医療」として承認され、その対象は固形がん全般におよびます。つまり、固形がんであればどんながんでも治療が可能なのです。それでも重粒子線治療が行える施設が限られている上、費用も高額になるため、“得意”な部位に限って治療を実施しているのが現状です。
現在、先進医療の適用となっているがん種、あるいは先進医療の適用となってはいないが臨床研究を継続中のものは図3の通り。
重粒子線が“得意”とするのは「今までの治療では難しい、また普通の放射線では効かないようながん」(鎌田さん)だと言います。
たとえば、局所で進行した頭頸部のがん(鼻・副鼻腔・口・喉など)。このうち扁平上皮にできるがんは普通の放射線でも有効なので、扁平上皮がん以外の腺がんや、悪性黒色腫などが対象となります。
また、手術が難しい骨・軟部肉腫や頭蓋底腫瘍も重粒子線治療が得意とするがんですし、直腸がんのうち手術後に再発し、再手術が難しい患者さんにも有効です(画像4)。
治療期間を短縮した治療法も
さらに、手術や普通の放射線でも治療が可能だが、重粒子線で治療すると、もっと治療成績が良いというがんも先進医療の適用となっています。
たとえば、非小細胞肺がんの1期で肺の入り口である肺門部から離れた場所にできるがんがあります。これについては1回照射、つまり1日1回の重粒子線のみの照射で治療は終わります。これも先進医療として行われています。
この場合、ほかの治療法なら何週間も何日もかかる場合がありますが、重粒子線ではわずか1日、時間にして1時間から1時間半で終わるというわけです。
しかも、手術可能な患者さんで、大きさが5㎝以下の肺がんを現在実施中の1回照射で治療した人では、生存率でみると手術に匹敵するか、それより良好というデータも出ているということです(画像5)。
肝細胞がんも、原則として1日1回、合計2回の照射により2日間の治療で終了します。
「それ以外のがんでも、先進医療で行っている重粒子線治療は2~3週間以内で終わります。膵がんや食道がんも3週間で終わります。前立腺がんも最初5週間かけていたのを4週間に短縮して、現在、3週間で終わる臨床試験も行っており、有効性と安全性が確かめられれば来年ぐらいから3週間で治療が終えられるようになります」
と鎌田さん。一般の放射線や陽子線だと治療期間はその倍ぐらいになりますから、患者さんにとって負担はかなり減ることになります。
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