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とくに小児や高齢者に適した粒子線治療 保険適用の拡大が期待される陽子線治療と重粒子線治療

監修●石川 仁 量子科学技術研究開発機構QST病院副病院長
取材・文●柄川昭彦
(2020年11月)

「体に優しい粒子線治療を、保険で行うことができればすばらしいことです」と語る石川 仁さん

粒子線治療(陽子線治療・重粒子線治療)の研究で日本は世界をリードしてきた。そのデータを元に、この10年ほどで、アメリカを始め世界中で粒子線治療が行われるようになっている。

日本の粒子線治療は、2016年以降少しずつ保険診療が認められるようになってきたが、保険適応となっているのはごく一部のがんに過ぎない。手術ができない高齢者の治療に最適という粒子線治療。がんの患者さんの高齢化が進む現在、保険適応が多くのがんに広がることが期待されている。

粒子線治療は副作用が少ない放射線療法

放射線療法の中に、「粒子線治療」と呼ばれる特殊な治療法がある。放射線治療にはいろいろな方法があるが、最も広く行われているのは、体外から体内のがんに向けてX線を照射する方法だ。粒子線治療も同じように体の外側から照射するのだが、X線ではなく粒子線を使う。

X線と粒子線はどのように違うのだろうか。量子科学技術研究開発機構QST病院副病院長の石川仁さんは次のように説明する。

「一般的な放射線療法で使われているX線は、光の放射線です。これに対し、粒子線は粒子の放射線なので、いろいろ異なる性質を持っています。X線を照射した場合、放射線の細胞を殺す効果は、体に入る皮膚の部分で最も強く、奥に行くほどだんだん弱まっていきます。そして、X線は最終的には体を突き抜けて行きます。

一方、粒子線は粒子の放射線なので、投げたボールがいずれ止まるように、どこかで止まります。治療で照射した粒子線は、体の中のどこででも止めることができます。そのため、放射線を当てたくない部位を守ることができるのです。それに加え、粒子が止まったところで、最も強い効果を発揮するという特徴があります」(石川さん)

体を透過していくX線と、体の中の任意の場所で止まり、そこで強い効果を発揮する粒子線とを比べると、粒子線のほうが、より高い線量をがんに集中させることができる。これを専門的には「線量集中性が高い」という。それによって高い治療効果を得ることができるし、正常組織に当たる線量が少なくなるので副作用が軽くてすむ。これが粒子線治療の大きな特徴である(図1)。

陽子線治療と重粒子線治療は得意分野が違う

粒子線治療には、陽子線治療と重粒子線治療という2つの方法がある。陽子線と重粒子線はどう違うのだろうか。

「粒子の重さが違います。重粒子のほうが重く、それだけ治療効果も高いのです。例えば、陽子線をがんに当てたときの効果は、同じ線量のX線をがんに当てたときとほぼ同じです。したがって、陽子線治療はX線治療の代わりに行うのに適しています。

一方、重粒子線の治療効果は、X線の約3倍と高いのが特徴です。そのため、X線治療では治らないようながんでも、重粒子線治療なら治ることがあります。例えば、骨肉腫などの骨軟部腫瘍がその典型例です」(石川さん)

陽子線と重粒子線は粒子の重さが違うことで、作用の強さに違いがあり、得意とする治療対象も異なっているわけだ(図2)。

「ただ、がんが存在している部分に放射線を集中させ、ピンポイントで照射すれば治るがんに対しては、陽子線でも重粒子線でも治療することができます。どちらで治療しても、きちんと照射することができれば、多くのがんは治すことができるわけです」(石川さん)