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放射線治療の心得
体の負担が少ない、機能を残せるのが利点。治療中は十分な休養、栄養の補給を
放射線治療を安全に受けるために

監修:五味弘道 聖マリアンナ医科大学放射線科講師
取材・文:柄川昭彦
発行:2011年9月
更新:2013年4月

  
五味弘道さん
放射線治療では患者さんの
体力が重要と話す
五味弘道さん

放射線は体にとって有害だが、その特徴をうまく利用すれば、がんを効率よく叩くこともできる「両刃の剣」だ。
がんの放射線治療はどのように選べばいいのか、放射線治療のさいに何を注意すればいいのか、専門医に解説してもらった。

正常細胞とがん細胞の回復力の差を利用

放射線治療はがんの重要な治療法で、外科治療(手術)、抗がん剤治療(化学療法)と並ぶ3大治療の1つとされている。日本では放射線治療を受ける患者さんは急増しているが、欧米の放射線治療先進国と比較すると、がん治療に占める割合が低いと、聖マリアンナ医科大学放射線科講師の五味弘道さんはいう。

「09年のデータですが、1年間に放射線治療を受けた新患数は約20万人、がん患者さん全体の25パーセントです。これに対し、米国では放射線治療を受けるがん患者さんの割合が約60パーセントを占めます。理由はいろいろありますが、放射線専門医が足りないこともその1つでしょう。09年時点で日本放射線腫瘍学会の認定医は529人。増えてはいますが、足りないことは間違いありません」

放射線治療の普及には、患者さんが放射線治療について正しい知識を持つことも必要だろう。

まず、体に有害な放射線でなぜがんが治るのだろうか。

「正常細胞もがん細胞も、ある量の放射線を照射されると、遺伝子が破壊され、増殖できなくなって死んでしまいます。このダメージの大きさは放射線の量(線量)によりますが、同じ線量でも長期間かけて照射した場合や何回も分割して照射した場合は小さくなります。これはその間にダメージからの回復が起こるからですが、回復は一般的に正常細胞のほうががん細胞より大きく、分割回数が多くなるとこの回復の差が大きくなります。この効果を考慮し、放射線治療は一般的に分割照射で行います。現在最も標準的なのは1日1回2グレイ前後の照射で週5回(月~金曜。土日曜休み)を繰り返し、がんを制御できる総線量を目指すことです」

制御線量と耐容線量の関係で決まる

[腫瘍によって異なる制御線量]
腫瘍によって異なる制御線量

[組織によって異なる放射線への感受性]
組織によって異なる放射線への感受性

では、放射線治療とほかの治療をどうやって使い分けるのだろうか。放射線治療でがんを治せるかどうかは、制御線量と耐容線量の関係で決まる。

「制御線量はがんを治すのに必要な放射線量。耐容線量は患者さんの体が照射に耐えられる線量です。耐容線量を制御線量で割った比を治療可能比といい、1より大きいときに根治治療が可能になります。小さい場合でも線量を下げて緩和治療(症状改善が目的)が可能となります」

制御線量は扁平上皮がん、腺がん、小細胞がんといったがんの組織型によるが、大きさや進展範囲を加味した進行期も影響する。耐容線量は照射される正常組織部位によって異なるが、全身状態なども影響する。

「放射線治療の適応となるのは多くは制御線量が60~70グレイのがんです。これは多くの正常組織が照射法の工夫で耐容範囲に収まるからです。これ以上の線量が必要ながんは難治性で、放射線での治療が難しく、これ以下の線量で制御できるがんは高感受性のがんといわれます」

がんの中には、早期であれば手術でも放射線治療でも治る、というケースもある。選択する場合、まず考慮するのはどちらが治る可能性が高いのかということだろう。ただし、それだけで決まるわけではない。

放射線治療なら機能が失われない

「たとえば、喉頭声門がんの病期1期は、手術でも放射線治療でも90パーセント以上治ります。しかし現在、ほぼ全員が放射線治療を受けます。手術すると声を失ってしまう場合が多いからです」

また、放射線治療には体への負担が少ないという利点もある。1回当たりの治療時間は実質数分で、手術時のような痛みもない。通院で治療することもできる。手術を受ける体力がないから、放射線治療を選択するというケースも多い。

反面、放射線治療には短所もある。その代表が副作用だ。副作用は、放射線に対する正常組織の反応で、現れる時期によって早期反応と遅発反応の2つに分けられる。

「早期反応は治療開始後1週~数週で発症し、治療を受ける多くの人に起こる反応です。照射部位によって異なりますが、粘膜炎、皮膚炎、白血球減少、腹部に照射した場合の下痢などです。多くは可逆性で治療が終了すると治るものです。だから、患者さんには早期反応が出ても頑張ってもらいます。これに対し、遅発反応は照射終了後数カ月以降、照射線量がしきい値(ある状態を一変させる境界の値)を超えた場合(前述の耐容線量)に起こります。症状は可逆性でなく重大で、照射部位の壊死、潰瘍、硬化などです」

がんが治るというベネフィット(利益)と遅発反応が起こるリスクを天秤にかけ、治療が進められるわけだ。

こうした長所と短所を踏まえ、主治医に人生の目的や希望なども伝えながらよく相談し、放射線治療を選ぶといいだろう。

「放射線治療中は、体がダメージを受けるので、十分な休養と栄養をとってください。耐容線量は患者さんの全身状態に左右されます。体力を維持することは、放射線治療を成功させるためにも重要なのです」

五味さんは、こうアドバイスしてくれた。


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