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卵巣がん(漿液性嚢胞腺がん) MRI検査
充実成分が多く、不整な形をしていれば、がんを疑う

監修:森山紀之 国立がんセンターがん予防・検診研究センター長
取材・文:黒木要
発行:2010年4月
更新:2013年4月

  
森山紀之さん

もりやま のりゆき
1947年生まれ。1973年、千葉大学医学部卒業。米国メイヨークリニック客員医師等を経て、89年、国立がん研究センター放射線診断部医長、98年、同中央病院放射線診断部部長で、現在に至る。ヘリカルスキャンX線CT装置の開発で通商産業大臣賞受賞、高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。専門は腹部画像診断

患者プロフィール
54歳のIさん。腹部の膨満感がとれず、下腹部がやや膨らんできたことに気付く。頻尿も顕著になり、近くの婦人科医院にて受診。国立がん研究センターを紹介され、MRI検査をしたところ、12cmの巨大な腫瘍が見つかった。卵巣がんの疑いが強いということで、診断を兼ねた開腹手術が行われ、組織をとって顕微鏡で調べる病理検査で、卵巣がんであることが確定。左右の卵巣や子宮などを摘出する手術を受けた

卵巣腫瘍の疑いがあるときは画像検査が行われる

卵巣がんには、乳がんや子宮頸がんのような早期発見を目的とする“がん検診”はほとんど行われていません。検診受診者の中から、がんの疑いのある人を効率よく拾い上げる有効なスクリーニング検査法が見つかっていないからです。そのうえ卵巣がんでは総じて体の異変を示す症状に乏しいこともあって、通常の受診にもつながりにくいのです。

「卵巣の大きさは普通は2~3センチですが、腫瘍の種類によっては巨大化しやすく、10センチ以上になることがあります。Iさんもそうですが、巨大化した腫瘍が腸や膀胱など周囲の臓器を圧迫するようになると、頻尿や便秘などの圧迫症状が出てきます。このタイプの腫瘍はそれが受診のきっかけとなり、見つかることが多いのです」(森山さん)

しかし中には我慢強い人がいて、腫瘍がさらに大きくなり、見た目にもすぐわかるくらい、お腹が膨らんだ状態になって見つかるケースがけっこうあるのだそうです。

早期発見もないわけではなく、たとえば他の疾患の診察の一環で腹部超音波検査を受けて、腫瘍が偶然見つかるようなケースもあります。

いずれにしろ卵巣腫瘍(良性も含む)の疑いがあるときは、画像検査を中心とする検査が行われます。

MRI検査で、良性か悪性かの目ぼしをつける

腹部超音波や経腟超音波などで腫瘍の存在を確認してから、MRIで腫瘍の形状や大きさ、局所の浸潤(広がり)具合などを見て、良性か悪性かの目ぼしをつけます。

「Iさんの場合は、腫瘍の存在が明白でしたので、すぐにMRI検査が行われました」(森山さん)

MRI検査の結果からIさんの卵巣腫瘍は、悪性、すなわちがんの可能性が強くなりました。

「卵巣が風船のように膨らんで、腫瘍ができているのは一目瞭然です。中に液状のものが充満しています。もっとも黒く写っているのが液体です。このように液体の入った袋をもつものを嚢胞性腫瘍といいますが、良性も多いのです。ただし、この黒い液状の部分を囲むようにして、グレーに写っている充実成分(固形成分)の層が重なっていますが、この成分が多く、不整な形をしているとがんの疑いが強くなります」(森山さん)

この画像には認められませんが、腹水が溜まっていれば、がんの疑いはさらに増すそうです。

次に、子宮の形状に注目しましょう。

「子宮が腫瘍に押しのけられるように圧迫されています。その部分の輪郭を見ると、腫瘍との境界が不鮮明でぼんやりとしています。これは単に癒着を表しているのかもしれませんが、がんの浸潤の疑いも否定できません」(森山さん)

同様に小腸と腫瘍との境界も不鮮明で、癒着もしくはがんの浸潤の疑いがもたれます。

MRI検査画像
MRI検査画像に写った漿液性嚢胞腺がん(縦)
MRI検査画像解説図

MRI画像は手術の規模を決めるうえでも重要

卵巣がんは、画像検査を中心とする検査でその疑いが生じた場合は、開腹手術をして調べるのが基本となっています。

「悪性(がん)であれば、周囲の臓器まで広がっているかどうか、また、どの種類の卵巣がんかを調べるには、腫瘍と周囲の組織を採って顕微鏡で見る病理検査が必須になります。その結果によって、手術後の治療方針が大きく違ってくるからです」(森山さん)

検査の結果、Iさんの卵巣がんは、漿液性嚢胞腺がんというタイプであることがわかりました。幸い、遠く離れた臓器への転移は認められず、手術で切除する方針が決まりました。

両方の卵巣と卵管、そして子宮、リンパ節などを切除するのが標準的な手術です。

「Iさんの場合、MRI画像では小腸とさらにS状結腸への浸潤の疑いもありました。そこで手術時にその部分を剥離し、組織を採って病理診断を行ったところ、癒着のみで浸潤はなかったので、小腸およびS状結腸の部分切除はしなくてすみました。
この例でもわかるようにMRIなどの画像は、手術の規模を決めるうえでも、重要な情報を与えてくれるのです」(森山さん)

手術後には、再発予防の目的で、抗がん剤治療を行う術後化学療法も行われました。治療から2年経ちますが、Iさんに再発はありません。


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