がん患者での新型コロナウイルス感染後の抗体検出率は低い

[2020.05.22] 文・編集●「がんサポート」編集部

RT-PCR検査陽性により新型コロナウイルス感染(COVID-19)が確認されたがん患者の生存については、感染後30日の時点での死亡率が最大30%とされ、非常に不良であることが報告されている。

また、SARS-CoV2(サーズコロナウイルス2)に感染した患者の大部分は、SARS-CoV2タンパクに対する抗体を獲得することが知られているが、がん患者での抗体検出率についてはまだ正確なデータがない。

こうした中で、「がん患者では、医療従事者に比べて、COVID-19症状発現およびRT-PCR-検査陽性後15日以降でのSARS-CoV2に対する抗体の検出率が有意に低い」ことがフランスの研究で明らかになり、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)誌「Annals of Oncology」に掲載された。

がん患者・医療従事者を対象に抗体検出率を比較

がん患者および医療従事者を対象に、COVID-19後に獲得される、SARS-CoV2抗体の検出率を分析したこのレトロスペクティブ(後ろ向き)研究では、仏リオンのレオン・ベラードセンター(Centre Leon Berard)で、2020年3月1日~4月16日間にCOVID-19が疑われたがん患者85例と、同センターに所属する医療従事者244例を対象とした。

その結果、がん患者85例中10例(12%)において、RT-PCR検査でSARS-CoV2陽性、さらに10分間で結果が判明する迅速ラテラルフローイムノアッセイ(lateral flow immunoassay:LFIA)検査(抗体検査)により5例(6%)で陽性が確認された。

またRT-PCR検査で感染が確認された10例中3例(30%)でSARS-CoV2の抗体が検出された。さらにRT-PCR検査で陰性だった残り75例中2例(2.3%)でSARS-CoV2のIgG(免疫グロブリンG)が検出された。

一方、医療従事者では、RT-PCR検査でSARS-CoV2感染が確認された14例を含む244例が、LFIA検査を受けた。RT-PCR検査で陽性が確認された14例中10例(71%)で抗体を検出。さらに残り230例中3例(1.3%)で抗体が検出されたが、同時に行ったRT-PCR検査では陰性であった。このうち2例は前週にCOVID-19の症状が報告されていた。

がん治療が免疫反応に影響を及ぼすかどうかはさらに研究が必要

集積データから、RT-PCR検査よるSARS-CoV2感染確認後15日の時点でのセロコンバージョン(抗体陽転)率は、医療従事者に比べてがん患者で有意に低い(30% vs. 71%, p=0.04)ことが明らかになった。

研究者によると、重要な点は、血清学的診断で陰性だったがん患者7例中6例が、検査4週前に細胞毒性治療(化学療法)もしくは大きな外科手術を受けていたこと。死亡者はいなかった。

このように、がん患者でのSARS-CoV2抗体の検出率は有意に低く、さらに検査前1カ月内にがん治療を受けた患者では、抗体検出の難しいケースがより多いことが明らかになった。

研究者らは「直近のがん治療が、ウイルスに対する免疫反応に影響を及ぼすかどうかを確認するためには、さらに研究が必要である」としている。

出典情報:
「Annals of Oncology」2020年4月30日号
「Annals of Oncology」2020年4月30日号/PDF

用語解説:
迅速ラテラルフローイムノアッセイ(a rapid lateral flow immunoassay:LFIA):単一のウイルス病原体(抗原)に対するIgGおよびIgM抗体を同時に検出できる迅速診断テスト

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