[2023.07.01] 取材・文●「がんサポート」編集部

5月29日、株式会社MICIN大手町オフィスで「デジタルセラピューティクス」（DTx）に関する勉強会が開催された。初めに、デジタルセラピューティクスとヘルスケアアプリの違いについての説明があった。

次に臨床の現場で治療補助アプリ「MedBridge」を活用している近畿大学医学部外科学教室呼吸器外科部門 宗 淳一さんが、「肺がん外科診療における患者支援アプリMedBridge lung careの可能性―訪問看護ステーションとの連携－」と題しての報告があった。

デジタルセラピューティクス（DTx）とは？

DTx（Digital Therapeutics：デジタル治療）は、医学的エビデンス（科学的根拠）に基づいた治療法を、アプリを活用して治療する治療用アプリ・治療補助アプリであり、健康の維持や予防を管理するヘルスケアアプリとは区別している。その中でもPDT（Prescription Digital Therapeutics：処方デジタル治療）は、保険償還されたもののこと。

また、DTxの保険償還に関して、ドイツでは、うつ病、パニック障害、耳鳴り、不眠症、アルコール依存症などについては償還されている。

国内の＊DTx開発状況は、2022年4月診療報酬改定で、医療機器プログラムを評価する診療報酬項目が新設された。現在、学会としては高血圧治療ガイドライン上での治療用アプリの取扱いを検討しているとのこと。また、製薬企業は、製薬・医療機器企業とベンチャー企業との協業進展などの動きがある。

MICIN DTxプロダクトの取り組みは、治療補助アプリ「MedBridgeシリーズ」、呼吸音・心音などの生体音速測定アプリがある。また、開発中の治療用アプリとしては、認知行動療法アプリ、セルフケア能力向上アプリなどがある。これらのアプリの主な疾患領域は、中枢神経系、糖尿病、がん、循環器などである。

現在、リリースされているのは、治療生活を支援する治療補助アプリ「MedBridge」で、これまでの周術期管理におけるさまざまな課題を解決するアプリケーションだ。

＊「ニコチン依存症治療アプリ」が日本では初のDTxとして2020年承認されている

患者支援アプリを利用している肺がん患者の実際と課題

臨床の現場で肺がん術後患者支援アプリ「MedBridge lung care」を活用している宗さんが、肺がん外科診療におけるアプリの実際について語った。

宗さんは、「近年、肺がん手術件数は増加している。術前から術後の補助化学療法を行っているときに不安感をいだかせるものとして、術後の生活や再発の可能性、術後補助化学療法の副作用などがある」と指摘した。

さらに、入院・術前、さらに退院後の患者さん支援の問題点として、入院・術前の支援は未対応で、入院・術前の身体状況がわからない。退院後の問題点としては、日々の活動量・疼痛・バイタルサインなどの身体・生活状況の情報収集が難しく、それを医師と共有することも難しい。そのため、緊急な病変に対応する医師、とくに他施設への情報共有が難しいという。

しかし、「MedBridge lung care」が導入されていれば、患者と医療従事者間で、自宅での生活・心身の状況の共有が可能であるとした。

近畿大学病院で肺切除術を受け、退院後に訪問看護が介入した患者さん24名の実例が紹介された。24名の内訳は、「MedBridge lung care」への登録者は16名（登録率：66.7%）。アプリを登録するまでに要した時間は平均25分。

登録しなかった8名のその理由は、スマートフォンを持っていない（3名）、登録が面倒くさい・入力が煩わしい（2名）、メール受信制限設定で、解除方法が不明（3名）であった。

「MedBridge lung care」に登録・活用した患者さんにその印象を尋ねると、「自宅でも先生とつながっている感じがして心強かった」、「先生が経過を把握してくれていてうれしかった」などのメリットがあった。医師側のメリットとしては、「自宅の経過把握が容易になり、患者さんとの話がスムーズに行え、診察前に対策が講じやすい」などが挙がった。

反対にデメリットとして、患者さんからは、「先生、ちゃんとデータ入れましたが、見てくれましたか？」など。医師からは、「外来でクラウドにアクセスするのが面倒」、「電子カルテとの連携は？」などであった。

宗さんは、「MedBridge lung care」は、運用方法の工夫が必要であるとしたものの、患者さんを軸とした「近畿大学病院」、「かかりつけ医」、「訪問看護ステーション」の密な連携が期待できると結んだ。