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希少がんだが病型が多い皮膚リンパ腫 なかでも圧倒的に多い「皮膚T細胞リンパ腫」の最新治療

監修●大塚幹夫 福島県立医科大学医学部皮膚科学講座准教授
取材・文●半沢裕子
発行:2021年8月
更新:2021年8月

  

「皮膚リンパ腫の多くは、病気の進み方はゆっくりですが、症状を抑えるのは難しく、進行する患者さんに対して効く治療法がほとんどなかったのが現状でした。最近になり、いろいろ新しい薬がでてきて、治療の選択肢が増えてきています」と語る大塚幹夫さん

皮膚リンパ腫は、白血球の1つであるリンパ球が腫瘍化して皮膚に浸潤し、さまざまな皮膚症状を生じる病気である。リンパ球にはT細胞、B細胞、NK細胞などがあるが、そのうちT細胞が増殖したものが全体の約80%を占め、皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)と呼ばれる。その皮膚T細胞リンパ腫に今年(2021年)5月、抗がん薬レミトロが登場し、難治性の皮膚T細胞リンパ腫については、新たな薬剤が加わった。

そこで、希少がんである皮膚T細胞リンパ腫について、福島県立医科大学皮膚科学講座准教授の大塚幹夫さんに話を聞いた。

患者数が少ないうえに病型が多い希少がん

皮膚リンパ腫とは悪性リンパ腫の1種で、通常の皮膚がんとは区別されている。皮膚組織中のリンパ球が腫瘍化したもので、「皮膚T細胞・NK細胞リンパ腫」「皮膚B細胞リンパ腫」に大別されている。さらに「皮膚T細胞・NK細胞リンパ腫」は、大きく13の病型に、また「皮膚B細胞リンパ腫」は5つの病型に分類されている。

そもそも日本では罹患率が10万人に0.4人ほどという希少がんである上、病型が多岐にわたるため、それぞれの病型の患者数は非常に限られたものになっている。

「皮膚リンパ腫を専門としている私でも、論文などでしか見たことのないものがたくさんあります」と、福島県立医科大学皮膚科学講座准教授の大塚幹夫さん。

大塚さんは、2020年6月改定版の『皮膚リンパ腫診療ガイドライン2020』代表委員でもあるが、そのガイドラインによると、日本では菌状息肉症(きんじょうそくにくしょう)・セザリー症候群が45.2%と最も多く、次いで成人T細胞白血病・リンパ腫16.7%、原発性皮膚未分化大細胞型リンパ腫7.8%、原発性皮膚びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、下肢型 5.5%であり、そのほかの病型の頻度は極めて低い。診断時年齢は、中央値で65歳と高齢者が多い疾患群である。

そこで、ここでは菌状息肉症・セザリー症候群について取り上げる(図1)。

出典;『皮膚リンパ腫診療ガイドライン2020』より一部変更

皮膚T細胞リンパ腫の大半を占める菌状息肉症・セザリー症候群

では、菌状息肉症・セザリー症候群とはどんな病気なのだろうか。

「この2つは厳密には違う病型ですが、一般的には同じグループに分類されています」と大塚さんは説明する。

菌状息肉症の症状は、一見何でもないような、少しかさかさした赤い斑点(紅斑)から始まる。少し進むと紅斑に厚みが出てきて少し硬い感じになる。これを「局面」と呼ぶ。さらに病状が進むと明らかに盛り上がった病変となる。これを「腫瘤」と呼ぶ。自覚症状はないことが多いが、かゆみを生じることもあり、ときにかゆみが著しい。腫瘤が大きくなると、浸出液が出てくることがある(画像1)。

■画像1 菌状息肉症の3つの病態

菌状息肉症。左から紅斑、局面、腫瘤の症例

一方のセザリー症候群は、全身に赤みが広がるのが特徴。赤みが体表の80%以上に広がった状態を「紅皮症(こうひしょう)」というが、紅皮症があり、リンパ節が腫れていて、血液中に異型リンパ球がたくさん流れているのがセザリー症候群の定義という(画像2)。

■画像2 セザリー症候群の紅斑症

皮膚リンパ腫は診断時、皮膚以外に病変がないことが1つの基準となっている。つまり、セザリー症候群は皮膚リンパ腫の中で特殊な病型だが、菌状息肉症でも体表の80%以上に赤みが広がることがあり、少数のリンパ腫細胞は、比較的早期の段階からリンパ節や血液中に見つかることがあるため、セザリー症候群との厳密な区別が難しい。

それにしても、血液がんの悪性リンパ腫の1種でありながら、セザリー症候群以外は皮膚にしか病変がないのはなぜだろうか。

「リンパ球にはさまざまな臓器との親和性により、腸に行きやすい、肝臓に行きやすいなど異なる性質があり、ホーミングと呼ばれています。その中で皮膚に行きやすい、あるいは皮膚に定着しているリンパ球が腫瘍化したものが、皮膚リンパ腫なんです。

セザリー症候群は血管に入り体内を回っているT細胞が腫瘍化したものと考えられています。全身に行くので、全身が赤くなる紅皮症になるし、リンパ節にも入る。一方、菌状息肉症は皮膚にいるT細胞が腫瘍化するので、どこかにポツンと出たら、同じ場所にずっと症状があるわけです」

菌状息肉症・セザリー症候群は成人、とくに高齢者に多く、小児や若年の発症は稀という。男女比1.3で男性に多い。最大の特徴は悪性度が低く、生命にかかわりないものが多いこと。数年から数10年かけて進行するため、発症した年齢が高い場合、持病として抱えたまま長期間過ごすことになることも少なくないのだそうだ。

早期のⅠA期なら予後が35.5年の低悪性度がん

病期は皮膚病変の広がりと性状(T)、リンパ節の病変(N)、内臓病変の有無(M)、血液中のリンパ腫細胞の割合(B)の4つから、ⅠA期~ⅣB期の9段階に分類されている(TNMB分類)。症状による分類もあり、「紅斑期」は、かゆみや痛みがほとんどない紅斑が腹部、腰、背中などに見られる。

「局面期」に進行すると、紅斑が厚みのあるふくらんだ状態になるが、ここまでは非常にゆっくり進行するという。英国の病期別予後(生存期間中央値)(AgarNSら)を見ると、ⅠA期は35.5年、ⅠB期は21.5年、ⅡA期は15.5年と、がんとしては驚異的な長期となっている。

「腫瘤期」は、ⅡB期以降に当たるが、1cm以上の腫瘤またはリンパ腫細胞が深くまで浸潤した潰瘍のような皮膚病変が増殖し、病変の性状にかかわらず病変が体表の80%を占めるとⅢ期となる。そして、Ⅳ期にはリンパ節や肝臓、脾臓、肺、血液など、全身のさまざまな臓器に病変が現れる。病期が進むにつれ、予後は急速に短くなる。

では、菌状息肉症・セザリー症候群の治療は、どのように行われるのだろうか。

ごく早期の菌状息肉症で紅斑がぱらぱらとある程度だと、皮膚の生検を行っても菌状息肉症と診断できないこともあるというが、そのような早期の段階では、菌状息肉症の診断がついても、菌状息肉症として特別な治療が必要なわけではない。早期(Ⅰ期、ⅡA期)の治療は、アトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患と基本的には同じという。

まず、ステロイドなどの塗り薬を塗る外用療法が基本であり、ステロイド外用で効果が得られない場合や、皮膚病変が広い範囲にある場合には、紫外線療法(光線療法)を行う。局面にはステロイド外用や紫外線療法が効きにくいことがあり、その場合にはその局所だけ放射線治療を行うこともある。初期はこれらの治療を組み合わせて行い、長期的な病状緩和をめざす。

「ⅠA期では治療せずに様子を見る(無治療経過観察)のも選択肢の1つですが、多くの方は赤みが気になるので治療を受けたいと言いますね。ただ、外用療法や紫外線治療には症状の緩和という意義はありますが、治療が進行を食い止め、今後の予後を改善するかというと、データがないため明確ではありません」

皮膚リンパ腫は患者数が少ないうえ経過が長いので、臨床試験を組むことは難しい。

「80%程度の患者さんは10年20年経っても進行せず、局面期、腫瘤期に進行する患者さんは20~30%。多くの患者さんは病気があっても健康状態にあまり影響がありません。そうした患者さんに対し、副作用の可能性のある投薬を伴う臨床試験を行うことは難しいといえます」

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