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〝切らない乳がん治療〟がついに現実! 早期乳がんのラジオ波焼灼療法が来春、保険適用へ

監修●木下貴之 国立病院機構東京医療センター副院長/乳腺外科
取材・文●菊池亜希子
発行:2023年9月
更新:2023年9月

  

「第Ⅲ相試験の中間解析で、手術に劣らない治療成績と十分な安全性が確認され、使用する機器は今年7月に薬事承認されました。今は来春の保険適用を目指して準備を進めております」と話す
木下貴之さん

2006年に始まった第Ⅰ相試験から17年、早期乳がんに対する経皮的ラジオ波焼灼療法(RFA)が来春にも保険適用されます。適応は「腫瘍径1.5㎝以下、腋窩リンパ節転移および遠隔転移を認めない限局性早期乳がん」。早期乳がんの治癒を治療目的としています。

第Ⅰ相試験からリーダーを務めてきた国立病院機構東京医療センター副院長/乳腺外科の木下貴之さんに、早期乳がんのRFAについて話を聞きました。

乳がんは早期発見が増えているのですか?

全がん種の中で、女性の罹患者数が最も多いのが、乳がん。現在、日本人女性の9人に1人が乳がんと診断されると推定されます。日本の乳がん検診率は47.4%(2022年)。米国の80.8%(2021年)に比べて高くはないものの、少しずつ着実に伸びていることが早期発見増加の背景にあると考えられます。

実際、乳がん発見時のステージは、0期~Ⅰ期が54%に及び、8割近くの人がⅡA期までで発見できています(図1)。

現在、乳がん全体の5年生存率は92.2%。ステージ別では、0期100%、Ⅰ期99.8%、Ⅱ期95.5%、Ⅲ期80.7%。さらに10年生存率を見ると、乳がん全体で87.8%。ステージ別では0期100%、Ⅰ期99.0%、Ⅱ期90.7%、Ⅲ期68.6%となっています。しかし、他臓器に遠隔転移しているⅣ期となると、5年生存率38.7%、10年生存率は19.4%にとどまります。検診による早期発見が非常に重要なことがわかります。

ラジオ波焼灼療法はどういう治療法ですか?

早期に発見できた乳がんでも、手術による切除が標準治療です。そこに近々登場するのが〝切らない乳がん治療〟の経皮的ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法(radiofrequency ablation therapy:RFA)です。

ラジオ波焼灼療法は、電磁波でがん細胞を焼灼、壊死させる治療法です。全身麻酔下で超音波画像を見ながら腫瘍に電極針を刺して針の先端から電磁波を流し、周囲の温度を上げて腫瘍組織を焼灼します。電磁波を利用して温度を上げるという点では電子レンジと同じ原理ですが、電子レンジに比べて周波数が格段に低く、375~500キロヘルツ程度。AMラジオの周波数に近いので、この名がついています。肝がんでは既に実績のある治療法です。

乳がんへのRFAのメリットは、「切らない」ので侵襲が少なく、整容性に優れている点です。そして抗腫瘍効果が高く、焼灼されたがん細胞は必ず死滅すること。

「電磁波で温度を上げるといっても70℃~80℃程度。50℃を超えると腫瘍組織のタンパク質の変性が起き、基本的には50℃台後半で組織は死滅します。ただ、腫瘍の辺縁部までしっかり焼灼することを考えると、中心部は少なくとも70℃までは上げます」と国立病院機構東京医療センター副院長の木下貴之さんは説明します(図2)。

20年前、クリニックを中心にラジオ波焼灼療法が広がった?

ラジオ波焼灼療法は、2004年に初めて肝がんに保険適用になりましたが、2000年に入って間もないころ、〝切らない乳がん治療〟として、乳がんに対するラジオ波焼灼療法がもてはやされた時期がありました。

当時は乳がんでの臨床試験は行われておらず、適応範囲の議論すら十分になされていない状況。そんな中、RFAには高価な設備が必要なかったこともあって、一部の総合病院やクリニックなどで盛んに行われるようになりました。

「進行がんでも切らない治療」を望む患者さんの希望を叶える形で、適応や治療方法などのルールがないまま自費診療によって行われた結果、多くの再発症例を出してしまったといいます。

「当時は、いろんな状況で行われていたのでしょう。進行がんで化学療法をして腫瘍が小さくなったからラジオ波で治療したり、中には、乳房はラジオ波焼灼を行い、転移した肝臓には手術で切除するなど、涙が出るほどひどい治療例もあったと聞きます」と木下さんは語ります。

当時、国立がん研究センター中央病院の乳腺外科で臨床に携わっていた木下さんはこの状況を目の当たりにし、「何とかせねば」との思いから、2006年、臨床試験を立ち上げました。同じころ、日本乳癌学会も「RFAは臨床試験として行うべき」との見解を出し、木下さん率いる研究グループ「木下班」が中心となって、早期乳がんに対するRFA臨床試験が本格的に始動したのです。それ以降、自費診療によるRFAは減っていきました。

今年7月、RFA機器が早期乳がんに薬事承認!

第Ⅰ相から臨床試験を指揮してきた木下さんは、2013年、第Ⅲ相RAFAELO(ラファエロ)試験をスタートさせました。現在は東京医療センターへ籍を移していますが、移籍後も「木下班」の臨床試験を牽引し続けています。

「2006年の第Ⅰ相試験開始から中核メンバーはほぼ変わりません。2013年8月に開始したRAFAELO試験は、2017年11月末に登録終了。11施設で372名、登録されました。最終登録者も昨年末には5年の観察期間を終了し、現在、最終解析が行われているところです」

ところが、来年の最終解析結果を待たずに今年(2023年)7月7日、早期乳がんに対して、RFA機器「Cool-tip RFA システムEシリーズ」の適応拡大が薬事承認されたのです(写真3)。

■写真3 RFA機器「Cool-tip RFA システムEシリーズ」

登録者372人中、およそ半数が5年の観察期間を終了した昨年(2022年)2月に早期解析に入り、承認に至ったといいます。

「早期解析結果で機器の適応拡大が承認されたのは、途中経過が手術に劣らない好成績で、安全性も十分に確認されたからです。RFAが途中経過においてもそれに匹敵する結果を出していたということです」

今回、機器に対する薬事承認がされたので、次は、来年の春を目途に、早期乳がん治療に対するRFAの保険適用を目指しています。

乳がんに対するRFAは、治癒を目指す

ラジオ波焼灼療法は、2004年に肝がん治療に初めて保険適用されて以降、他がん種への適応拡大がありませんでした。しかし昨年(2022年)、肺がん、腎がん、骨軟部肉腫、骨盤内腫瘍、類骨骨腫(良性)に対して適応拡大されました。さらに現在、早期乳がんに対して保険適用直前ですが、乳がんに対するRFAは、他がん種とは異なる意味合いがあるようです。

「肝がんを始め、他がん種におけるRFAは、切除不能の場合や腫瘍の一部に対してなど緩和的な要素が少なからずありますが、乳がんでは始めから治癒を目的としています」と木下さんは断言します。

だからこそ、適応対象を「腫瘍径1.5㎝以下、腋窩リンパ節転移および遠隔転移を認めない限局性早期乳がん」と定め、手術と同等、もしくはそれを上回る治療成績を目指して、時間をかけて臨床試験が進められてきたのです。

「早期乳がんはもともと手術による治癒率が非常に高いので、それを下げるわけにはいきません。私たち乳腺外科医も、このクオリティを絶対に落とせない。だからこそ、決して再発を起こさせない適応条件から慎重に始めていく必要があるのです。大切なのは再発させないことです」

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