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AI支援のコルポスコピ―検査が登場! 子宮頸がん2次検診の精度向上を目指す

監修●植田彰彦 京都大学大学院医学研究科 婦人科学産科学
取材・文●菊池亜希子
発行:2023年11月
更新:2023年11月

  

「コルポスコピー検査は前がん病変を評価し確定診断につなげる検査。誤診があってはならない最後の砦です。このAI支援ツールがコルポ診のクオリティ担保を実現し、将来的には医療機器プログラムとして保険適用されることを目指します」と話す植田さん

今年8月に横浜で開催された「ASCO Breakthrough 2023」で、「AI(人工知能)搭載コルポスコピー検査システム」が開発されたことが発表されました。検査する医師の習熟度などによって精度にばらつきが出るといわれるコルポスコピー検査ですが、AIが診断サポートすることで検査精度の向上を目指します。このコルポ診断AIを開発した京都大学大学院医学研究科婦人科学産科学の植田彰彦さんに話を聞きました。

子宮頸がんの検診はどのようなものですか?

子宮頸がんの予防には、HPVワクチン接種とともに、検診率を上げることが必要です。子宮頸がんは細胞診の感度がよいこと、また、進行速度が年単位と比較的ゆっくりであることから、1~2年に1度の定期検診が非常に有効であることがわかっています。

ここ10数年で検診率は徐々に上がり、30代、40代ではようやく50%を超えてきました。しかし20代は25.7%と依然として低く、子宮頸がん罹患者が20代後半から急増していることを考えると、検診率の低さは大きな課題です(図1)。

1次検診の細胞診は、旧来、「クラス分類」による5段階評価で、クラス1と2は正常、3以上が要精密検査でしたが、現在は国際指標である「ベセスダシステム」に統一され、検査結果がNILM(ニムル)、ASC-US(アスカス)、ASC-H(アスクエイチ)、LSIL(ローシル)、HSIL(ハイシル)など11段階で表示されるようになりました。

細胞診の結果はNILMならば正常。それ以外は精密検査(2次検診)が必要です。その2次検診で見落としなく診断し、必要ならば速やかに適切な治療へ導くことが何より重要と言えるでしょう。

「子宮頸部をブラシで擦って細胞を採取する細胞診は、病変がある可能性を見つけ出すことには長けていますが、それ以上はわかりません。そこで細胞診で異常が認められたときには、その組織の状態を正確に診断するために2次検診としてコルポスコピー検査が行われます」と京都大学大学院医学研究科婦人科学産科学の植田彰彦さんは語ります。

コルポ診断AI開発に乗り出したのは?

コルポスコピー検査では、まずコルポスコープという腟拡大鏡で子宮頸部を細部まで観察します(コルポ診)。このとき観察上皮に異変が認められたら、その部分の組織を採取して組織診断に出し、その結果が確定診断になるのです(図2)。

また、コルポスコピー検査は2次検診としてだけでなく、子宮頸がん治療後のフォローアップでの実施や、さらに、2次検診で軽度異形成や中等度異形成と認められた場合、必ずしもすぐに子宮頸部を切除するのではなく経過観察を続けることも多く、その際も欠かすことのできない検査です。

異形成でも経過観察を続ける理由について、「軽度異形成と中等度異形成は自然治癒することが多いので、すぐには手術せず経過観察となります。ただし、軽度異形成の10%程度、中等度異形成の20%程度は高度異形成や子宮頸がんに進行することがあるため、コルポスコピー検査による経過観察を続けるのです」と植田さんは指摘します。

しかし、コルポスコピー検査の手技は決して容易ではないようです。

「コルポ診は、子宮頸部の上皮表面に酢酸を塗布し、それによる色の変化や模様で異常の程度を評価します。酢酸を塗布した直後は全体が白みを帯び、そこから徐々に変化していきますが、異常度が高いほど白みが残りやすいのです。わずか1分ほどで起こる色味の変化や模様などを評価し、病変の種類や組織採取を行う部位を判断します」と植田さん。目視で診断し、組織採取を行うため、臨床医の習熟度などによって検査の質にばらつきが出ることは否めそうにありません。

「コルポ診における異常の状態は実にさまざまで、所見の幅も広く、経験不足から正確な判断に行き着かないケースもありますし、中には子宮頸部の粘液をしっかり拭えていない状態で観察したために正確に評価できなかったり、視野は確保できて正しい評価もできたのに採取すべき部位がほんの少しずれてしまったり、といったこともあり、コルポスコピー検査の質の担保が重要課題だと感じてきました」と植田さんは述べ、さらに続けました。

「欧米では〝コルポ診専門医〟の認定制度が確立されていて、専門医になるには一定数の検査症例を経験し、症例記録を残し、患者さんにしっかり説明してきたなど、いくつもの必須事項があります。一方、日本にはこれまでコルポスコピー検査の質を担保するための制度は何もありませんでした。見落とし率のデータもありませんし、どの段階でコルポスコピー検査を行うかも施設によって異なるのが現状です。ガイドラインには『中等度異形成には細胞診またはコルポスコピー検査を行う』と記されていますが、施設によっては細胞診のみで経過観察を続けている施設も少なからずあることがわかってきました。これは何とかしなくてはと思いました」

そうした思いが今回のコルポ診断AI開発の原動力となったそうです。

コルポスコピー検査をサポートするAIとは?

開発にあたり、植田さんがコンセプトとしたのは、「採取すべき部位(高度異形成の病変)を可視化すること」だったといいます。

コルポスコピー検査は、「正しく観察し、観察結果を正しく評価し、評価結果に基づいて正しい部位の組織を採取する」、この3拍子揃って初めて、正しい検査結果が導き出されます。中でも、質のばらつきが出やすいのが「観察結果を評価し、採取すべき部位を同定する」というところ。その評価判断を支援するツールが、今回、植田さんが開発したコルポ診断AIなのです。

では、採取すべき部位を可視化するとはどういうことなのでしょうか?

「コルポ診は、子宮頸部の上皮に酢酸を塗布し、色味の変化を観察することで病変の程度を評価するのですが、今回は、中でも最も重要な『コルポ診で見落としてはいけない異常度の強い所見の部位を明確に同定すること』を目指し、異常度の強い所見領域が画面上で色付けされて予測されるように設計しました」(図3)

具体的にどのように設計されたのでしょうか?

「2013年から2019年にかけて8,341症例を集め、その中から早期子宮頸がん7症例、高度異形成203症例、中等度異形成276症例、軽度異形成456症例の動画を活用して、AIを用いたコルポスコピー検査の所見判定技術を構築しました」

コンセプトはあくまでも「コルポ診による異常度の強い所見の抽出」。よって、異常度の強い所見を示す高度異形成203症例と早期子宮頸がん7症例の合わせて210症例分の動画をAIへの学習と評価に用いたとのこと。1つの動画から20枚以上の静止画を取り出したので、合計2,724枚分の静止画を学習・評価したことになります。

その結果、高度異形成における異常所見を検出する感度84.95%、特異度72.78%、AUC 0.85でした。「AUCとは精度を表す評価指数で、1に近づくほど精度が高いことを示します。0.8~0.9あれば高精度と評価されます」と植田さんは補足しました。ちなみに、感度とは異常があることを検出する力(見落としの指標)、特異度は異常がないことを検出する力(過検出の指標)を意味します(図4)。

全体を通して特異度が低めなのはなぜでしょうか?

「コルポスコピー検査では、酢酸によって白みを帯びた上皮の変化を観察し、白みが濃く残るほど異常度が高いとされています。ところが、色味の変化や白みの領域が広くでる場合があり、AIが広く異常領域を判定してしまうことがあるのです。そうしたことから異常な領域をしっかりと検出しようとすると特異度が少し下がる傾向があります」

また、コルポ診で異常度の強い所見を抽出する目的で作り出されたソフトウェアですが、結果的に異常度が高くない、軽度、中等度の異形成についても、かなり高い精度で同定できることがわかったそうです。

「軽度異形成においては異常所見を検出する感度87%、特異度70%、AUC 0.81。中等度異形成においても異常所見を検出する感度86%、特異度67%、AUC 0.81という結果でした」と植田さんは説明します。

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