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QOLを保ちながら、がんと付き合っていくことが大切
新たな抗がん剤の登場で変わるホルモン不応性前立腺がんの治療

監修:賀本敏行 宮崎大学医学部外科学講座泌尿器科学分野教授
取材・文:繁原稔弘
発行:2009年2月
更新:2013年4月

  
賀本敏行さん
宮崎大学医学部外科学講座
泌尿器科学分野教授の
賀本敏行さん

前立腺がんでは、がんを進行させる役割を担う男性ホルモンを抑えるホルモン療法が有効に働く。しかし、1度はおさまったと思われたがん細胞が、再び炎が燃え上がるように活発に働く「再燃」を繰り返したあと、「ホルモン不応性」状態になった場合の治療法はなかった。
2008年、日本でもタキソテール(一般名ドセタキセル)が承認されたことで、ホルモン不応性がんの治療が変わりつつある。

前立腺がんの特徴

[前立腺がん年齢調整罹患率(人口10万人あたり)の将来予測]
図:前立腺がん年齢調整罹患率(人口10万人あたり)の将来予測

男性だけにある前立腺は、膀胱の下、恥骨の裏側にある栗の実のような形をしている臓器で、膀胱頸部と尿道を輪状に取り囲むようにある。前立腺では、男性ホルモンが働いて精液の一部を作ったり、精巣で作られる精子に栄養を与えて活発化させたり、排尿をコントロールしたりしている。

この前立腺に発生するのが「前立腺がん」で、前立腺肥大症と同じく、年齢を重ねると罹患率が高くなることが知られている。これまで欧米に比べると、日本での前立腺がんの発生数は少ないといわれていたが、1975年以降増加しており、顕微鏡で調べると、70歳を超えると1~2割、80歳を超えると実に3~4割の男性に前立腺がんが発生しているといわれている。

日本人に前立腺がんが増えた理由について前 京都大学大学院医学研究科器官外科学泌尿器科学准教授の賀本敏行さんは、「前立腺がんにかかるのは高齢者が多いこともあって、他の要因で亡くなった方を調べてみて初めて前立腺がんになっていたことがわかることも少なくありません。つまり、がんはあったのですが、それが生命をおびやかすまでには至っていなかったわけです。

しかしながら、高齢化がすすみ、他の病気でなくならずに、前立腺がんが顕在化することがその要因の1つだと思われます。また食事や生活の欧米化も大きな要因と考えられています」と説明する。

さらに、前立腺から分泌されるタンパク成分であるPSA(前立腺特異抗原)と呼ばれる腫瘍マーカーによる診断方法が普及したことで、早期のがんが発見されるようになったことも1つと考えられている。

しかし、年齢調整死亡率は90年代後半からほとんど変わらないものの、死亡者数は少しずつ増え続けており、現在も年間約1万人が亡くなっている。賀本さんは、次のように言う。

「雑誌やインターネットなどで前立腺がんは、“進行が比較的遅いがん”などと書かれているのを見ますが、実際には他のがんと同じで、細胞の性質によって遅いものも早いものもあります。とくに転移したがんは、他のがんと何ら変わりはなく、根治するためには、早期発見・早期治療が原則になります」

PSAがマーカーとして有効に働く

前立腺がんは、他のがんに比べると、肺や肝臓・腎臓といった、すぐに命に関わるような臓器に転移する割合は低いが、進行すると骨に転移しやすいという特徴がある。

もともと前立腺自体にがんの自覚症状はほとんどなく、たとえば、たまたま腰痛などで骨の検査を受けた時に、前立腺がんが発見されたりすることもあり、そのようなときには、かなり進行している場合が多いのが実状だ。しかし前立腺がんは、他のがんと違い、PSAという血液検査の数値でスクリーニング検査(症状があらわれない段階でがんの可能性を調べるもの)ができる。

「PSAの値が高ければ、そのすべてががんだというわけではありません。また、PSAの値が基準値以下の場合でも前立腺がんが発生していることもあります。ですから、あくまで前立腺がんを発見するきっかけとなる1つの指標だと思ってください」と賀本さんは話す。

このPSAの測定法はいくつかあるが、いずれの方法でも、4ナノグラム/ミリリットル(以下、単位省略)が基準値になっている。そして4~10が“グレーゾーン”と呼ばれ、25~30パーセントの患者さんにがんが発見されることがある。

賀本さんは、「あくまで基準値の4は目安であって、それ以下の数値であっても前立腺がんが発見されることもあります」と言う。ただし、PSA値が10を超えると、かなりの確率でがんが発見され、100を超えると、転移の可能性も強く考えられる。

前立腺がんの治療

前立腺がんが発生していることがわかると、その病期(進行度)をきめて治療法が検討される。たとえば前立腺にとどまって転移のない限局性がんの場合には、外科療法(手術)や放射線療法などの根治療法も選択肢になるが、どのような治療が行われるのかは、個々の患者さんのがんの性質や進み具合(病期)や年齢などによって異なる。しかしながら、すでに転移を来した進行がんの場合には、基本的に手術などの局所療法の意味はなくホルモン療法(内分泌療法)が原則になる。

正常前立腺細胞の増殖と成長、そして機能の維持は男性ホルモンであるアンドロゲンに依存している。その前立腺から発生した前立腺がんの多くもまたアンドロゲンに依存している。

そこで血中のアンドロゲンを低下させたり、抗アンドロゲン剤を投与することによって、がんの活動を抑えるのがホルモン療法だ。 「実際に、前立腺がんに対してホルモン療法はよく効きます。とくに進行がんに対しては治療の基本になっています」と賀本さんは説明する。

前立腺がんの「再発」と「再燃」

限局性がんに対して根治療法の後である程度時間が経ってから、PSA値が再び上昇したり、リンパ節または他臓器に転移や新病変が見られたりする場合にこれを「再発」と呼ぶ。

一方で、転移を有する進行がんに対する場合のホルモン療法などで根治療法をしていない場合に、同じようにPSAが上昇した場合、抑えられていたがん細胞が活動を再開する。まるでもう1度燃え上がってくるような状態を「再燃」と呼ぶ。


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