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3年ぶりに新薬が登場

悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)の治療薬 アドリアシン(一般名ドキソルビシン)+イホマイド(一般名イホスファミド)/ヴォトリエント(一般名パゾパニブ)/ヨンデリス(一般名トラベクテジン)

監修●松本誠一 がん研有明病院副院長/整形外科部長
取材・文●星野美穂
発行:2016年3月
更新:2016年6月

  

悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)は、悪性腫瘍全体の1%、国内での患者数は5,000~6,000人ほどの希少がんです。これまで、アドリアシンとイホマイドが治療の中心でしたが、ここ数年で新薬が保険で認められるようになりました。悪性軟部腫瘍の治療における、新薬の位置づけ、従来の薬剤との違いについて、さらに、全身の様々な部位に生じるという、肉腫に特徴的な病態の中で、新薬を安全に効果的に使用するためのポイントを紹介します。

悪性軟部腫瘍の治療

■悪性軟部腫瘍とは

図1 悪性軟部腫瘍の発生部位(がん研有明2013年)

筋肉や脂肪、血管、リンパ管など軟らかい組織にできる悪性腫瘍のこと。皮膚や胃、腸の粘膜といった上皮性細胞に由来する「癌」と区別して、「肉腫」と呼ばれます。

悪性軟部腫瘍は体の様々な場所に発生します(図1)。発生年齢や組織型も様々です。悪性度や予後は種類によって大きく異なります。

■悪性軟部腫瘍の治療の考え方

治療の第一選択は、手術による腫瘍の切除です。腫瘍が完全に取り切れているかどうかが予後に最も影響します。切除できない部位に生じた場合には、放射線治療と化学療法の併用が行われますが、完全に切除できた場合に比較して、明らかに予後は不良です。

悪性軟部腫瘍は、発育様式から2種類に分けられます。1つは腫瘍と周囲正常組織との境目が明瞭な発育を示す非浸潤性腫瘍とインクがにじむように周囲組織との境目が不明瞭な浸潤性腫瘍です。浸潤性腫瘍では、腫瘍切除に際して、非浸潤性腫瘍よりも周囲正常組織を広範囲に切除する必要があります。

切除範囲が広ければ、広いだけ再発のリスクは下がりますが、その分、身体機能が失われます。よりよい身体機能を残しつつ、再発を防ぐように、悪性腫瘍を切除する必要があります。

悪性軟部腫瘍は体の四肢や体表ばかりでなく、腹部など様々な場所に発生します。悪性軟部腫瘍の約半数は、整形外科医が手術できる場所に発生します。その他の部位については、頭頸部にできた腫瘍なら頭頸部専門医、腹部なら消化器外科医、子宮であれば婦人科医、腎臓周囲なら泌尿器科医と、各領域の専門医が手術を行う必要があり、また複数の科が連携して手術を行わなければならない場合もあります。

従って、そうした連携ができているかどうかが、病院を選ぶ際の目安となるでしょう。

■悪性軟部腫瘍の化学療法

図2 肉腫細胞の形態分類

悪性軟部腫瘍は細胞の形から、便宜上大きく2種類に分けられます(図2)。1つは未熟で特徴に乏しい細胞で構成される「円形細胞肉腫」、もう1つが、紡錘形の細胞や多形型と呼ばれる大きくて不整な形で構成される「非円形細胞肉腫」です。

さらに、化学療法は目的別に2つに分類されます。❶補助化学療法(アジュバント療法)と❷進行例に対する化学療法です。

補助化学療法は、転移の予防のために行う化学療法です。円形細胞肉腫は、転移しやすいが、化学療法や放射線療法が効果的なことが多いという特徴があります。そのため、補助化学療法は必須です。

一方、非円形細胞肉腫は、その種類(組織型)により化学療法の効き目が異なり、また同じ組織型でも個々の症例により転移しやすさが異なります。そのため、転移しやすさを組織像から予測する組織学的悪性度が重要となります。

現在、組織学的悪性度の判定には、FNCLCC(Fédération Nationale des Centres de Lutte Contre le Cancer)分類と呼ばれる尺度が使用されます。これは、腫瘍分化度、核分裂像、壊死の程度を参考に、3段階に悪性度を分類する方法です。

悪性度が高い(グレード3)場合は、補助化学療法の対象となります。

術前より補助化学療法を行うことがあります(術前補助化学療法)。その目的は、「原発の腫瘍を縮小させることにより、より安全に機能的な手足を残す」、「画像で判らないような小さな転移巣を早期から治療する」、「どの薬剤が有効かの判定に利用する」などです。

肺やリンパ節に転移が見つかった(進行例)場合には、化学療法は必須です。この場合は、転移巣を小さくさせることや、新たな転移を起こさないなど病勢のコントロールを目的として治療を行います。

どんな薬?――アドリアシン、イホマイド

悪性軟部肉腫の第一選択は、抗がん薬のアドリアシン単剤投与、もしくはアドリアシンとイホマイドの併用療法です(図3)。補助化学療法としても転移巣の治療として使用されます。

図3 アドリアシン+イホマイド併用療法の投与法

アドリアシン単剤とイホマイド併用の場合とで、その効果に大きな差はありません。

ただし、アドリアシンは一定量以上を使用すると心毒性(心臓に悪影響を及ぼす毒性)が出る可能性があります。イホマイドと併用することで、効果を変えずにアドリアシンの使用量を抑えることができます。また、滑膜肉腫にはイホマイドの大量投与が用いられることがあります。

アドリアシン=一般名ドキソルビシン イホマイド=一般名イホスファミド

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