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抗がん剤治療を受ける人のための新しい悪心・嘔吐対策
新しい制吐薬の登場で、悪心・嘔吐をこわがらなくてもいい時代に


発行:2012年8月
更新:2013年4月

  

参加者
がん研究会有明病院
花出正美 がん看護専門看護師
藤木由佳子 外来治療センター看護師長
横井麻珠美 がん化学療法看護認定看護師
花出正美さん 藤木由佳子さん 横井麻珠美さん
がん看護専門看護師の
花出正美さん
外来治療センター看護師長の
藤木由佳子さん
がん化学療法看護認定看護師の
横井麻珠美さん

抗がん剤治療というと、強い吐き気と嘔吐に苦しめられるイメージを持っている人が多い。しかし、それはすでに過去の話。
優れた制吐薬が登場した現在、実際に嘔吐することは大きく減っているという。現在の悪心・嘔吐対策について語り合ってもらった。

制吐剤の進歩で副作用が変わった

花出  抗がん剤治療の悪心・嘔吐対策について話し合っていこうと思います。抗がん剤治療による副作用発現数のデータを見ると、1位が便秘、2位が悪心・嘔吐、3位が疲労感となっていますね。

藤木  抗がん剤治療の内容にもよりますが、患者さんにとって、悪心・嘔吐が大きな問題なのは確かだと思います。もう1つ、5HT3受容体拮抗薬という制吐薬の発売前と発売後で、患者さんがどんな副作用に苦痛を感じているかを示したデータがあります。発売前は1位が嘔吐、2位が悪心、3位が脱毛ですが、発売後は1位が悪心、2位が脱毛、3位が嘔吐となっています。吐き気はあるけれど、吐いてしまうほどではない、という人が増えたわけですね。

花出  これは5HT3受容体拮抗薬の発売前後の比較で、この後、さらに新しい制吐薬が登場しています。現在は、悪心や嘔吐の順位がもっと下がっている可能性がありますね。

横井  制吐薬は大きく3種類に分けられます。最も古くから使われているのは副腎皮質ステロイドのデキサメタゾン()で、次に登場したのが5HT3受容体拮抗薬。最も新しいのがNK1受容体拮抗薬のアプレピタント()です。抗がん剤による悪心・嘔吐には、抗がん剤の影響が消化管粘膜から脳の嘔吐中枢に伝わって起こるものと、脳に直接刺激が行って起こるものがあります。主に前者を抑えるのが5HT3受容体拮抗薬、後者に効くのがアプレピタントです。

デキサメタゾン=商品名デカドロンなど
アプレピタント=商品名イメンド

催吐性リスクに応じて制吐薬を使い分ける

花出  悪心・嘔吐も、その現れ方によって、タイプ分けされているわけですね。

横井  抗がん剤を投与してから24時間以内に起こるのが急性、24時間以降に起こるのが遅発性です。もう1つが予測性の悪心・嘔吐。病院や治療室に入ったときなど、また起こるのではないかという不安から、起きてしまう悪心・嘔吐です。

花出  外来治療センターの看護師が教えてくれたのですが、「あなたの顔を見ただけで気持ちが悪くなる」と言われたことがあるそうです( 笑)。これも予測性ですね。
さて、悪心・嘔吐の治療ですが、日本では2010年に『制吐薬適正使用ガイドライン』が出ています。推奨されている治療をまとめるとどうなりますか。

横井  悪心・嘔吐の治療は予防が主体となります。また使う抗がん剤の催吐性リスクによって治療が異なります。悪心・嘔吐の発現率が90パーセントを超える高度催吐性抗がん剤に対しては3種類の薬を使って予防します。30~90パーセントの中等度の場合は、2種類か、抗がん剤によっては3種類。10~30パーセントの低度には1種類とされています。さらに、症状に応じて補助薬が追加されることもあります。

花出  抗がん剤治療を受けても、必ずしも悪心・嘔吐が出るとは限らないのですが、この点について誤解している人が多いですね。──ところで予測性悪心・嘔吐の治療は?

横井  予測性には抗不安薬が推奨されています。ただ、予測性は予防が重要です。初回治療で嘔吐してしまうと、その体験が予測性につながりやすいので、最初から吐かないように予防することが大切です。

[制吐薬適正使用ガイドライン]
制吐薬適正使用ガイドライン

第1版2010年5月日本癌治療学会より

嘔吐する患者さんはとても少なくなった

藤木  制吐薬が進歩したことで、「吐き気はあったけれど吐かなかった」という患者さんが多いようです。現在はアプレピタントのように遅発性にも効く薬があり、遅発性に対する治療や、予測性に対する治療も行われています。それで吐かない人が増えているのだと思います。以前は催吐性の高い抗がん剤を投与した患者さんには、ガーグルベースン(寝たまま吐くための洗面器のような器具)を設置するのが通常のケアでしたけど、最近は使いませんね。

花出  確かにそうですね。薬は進歩していますが、制吐薬を使用しても悪心・嘔吐がある場合、患者さんはどうすればいいですか。

藤木  大切なのは医師や看護師に伝えることです。悪心・嘔吐の状況に応じて、制吐薬が追加されることがあるので、我慢せずに、どのくらいつらいのかを伝えてください。

食事は無理して食べずリラックスできる工夫を

花出  悪心・嘔吐対策として、お薬以外に、どのようなことを勧めていますか。

藤木  しっかり食べて栄養をとらなければ、と思っている人がいますが、吐き気があるときは無理しないほうがいいですね。のどごしのよい食べ物や果物など、食べやすい物を少しで十分です。ただ、脱水を防ぐため、水分はしっかりとる必要があります。

横井  吐き気に効く内ないかん関というツボがあります。手首の付け根の中央から、指の幅2~3本分離れたところにあり、そこを押すといいのです。比較試験も行われていて、内関を押した人は、他のツボを押した人より吐き気が軽くなったという結果が出ています。

花出  リラックスすることも大切だと思いますが、そのためにできることは?

藤木  外来治療センターでは、リラックスできる環境づくりを心がけています。アロマテラピーを提供したり、音楽を流したりしているのも、少しでもリラックスできるようにと考えてのことです。

花出  自分が好きな曲を音楽プレーヤーに入れて持ってくるのもいいですね。

藤木  自分なりの工夫は大事だと思います。飲み物も、水がいい人もいれば、スポーツドリンクがいい人も、果汁が合う人もいます。いろいろ試してみて、みなさん自分に合うものを選んでいます。

何度も吐くような場合は病院に連絡する

花出  外来で抗がん剤治療を受けると、自宅で悪心・嘔吐に苦しめられることもあります。病院に連絡する必要があるのは、どのようなときですか。

藤木  水分がとれないときは脱水の心配があるので、連絡してほしいですね。何度も吐くようなときも同じです。

花出  最近は化学療法が入院から外来に移っているので、セルフケアがますます大切になっているといえます。患者さんもご家族も不安を抱えているでしょうね。

藤木  テレビドラマなどで、抗がん剤治療というと、必ず激しく嘔吐している映像が入ります。そういうイメージから、必要以上に不安を抱いている人が多いようです。

藤木  必要以上に不安を抱かなくていいように、何が起こるのかを説明しています。1日目はこんな感じで、3日目にはこんなふうになって、通常なら何日後には気分がよくなってきますよ、という目安を伝えておくのです。

花出  苦しい状態がいつまで続くかわからないと不安ですが、見通しが立てば、ずいぶん楽になりそうですね。

──今日は悪心・嘔吐対策に関するいろいろなお話、ありがとうございました。新しい制吐薬の登場で、抗がん剤治療に伴う悪心・嘔吐は、以前に比べてはるかに楽になっています。怖がらずに抗がん剤治療を受けていただき、もし不安があるとき、具合が悪いときはためらわずに看護師や医師に相談してほしいですね。

(構成/柄川昭彦)

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