T細胞急性リンパ性白血病。すぐに新薬に切り替えられないか

回答者:牧本 敦
国立がん研究センター中央病院 小児腫瘍科長
発行:2011年6月
更新:2013年12月

  

12歳の娘がT細胞急性リンパ性白血病と診断され、3週間前から化学療法による治療を行っています。あまり治療の効果が出ていないようで、主治医からアラノンジーという薬を使うことになるかもしれないと説明されました。インターネットで調べると、とても期待のできる薬のようですが、そうであればすぐにアラノンジーに切り替えられないのでしょうか。また、「神経毒性」という副作用が起こる可能性があるそうですが、どのくらいの頻度で出て、また具体的にはどのような症状なのでしょうか。

(福井県 男性 43歳)

A 化学療法を開始して1カ月後の骨髄検査の結果が出てから検討

まず、「あまり効果が出ていない」とはどういう意味なのかをはっきりさせなければいけません。

通常、急性リンパ性白血病の場合は、標準治療の化学療法を行えば、98パーセント以上の子どもが寛解(通常の検査でがん細胞の残存がほとんど認められなくなった状態)に入るといわれています。

化学療法を始めて約1カ月後に骨髄にがん細胞があるかどうか、はっきりと判定が出ます。つまり、寛解に入ったのか、顕微鏡で見える範囲で骨髄のなかにまだがん細胞が残っている「寛解導入不良」の状態になったのか、あるいは一応は寛解だけれど、ほかのもっと精度の高い検査で悪い徴候が出ているという程度なのか、の3つのパターンに分かれるわけです。

化学療法を始めて1カ月後の骨髄検査で、残存病変がある「寛解導入不良」と確認できたら、アラノンジーに切り替えるのも1つの方法かもしれません。しかし、より精度の高い検査で多少残っているという程度であれば、現在の治療方針でも一定の効果があるものと判断して、即座にはアラノンジーは適用とはなりません。

日本で行われている標準治療では、最初の1週間、プレドニンというステロイド剤だけを飲みます。1週間後に血液中のがん細胞が減っていないと、「減りが悪い=予後*が悪く、再発してしまう=移植をしないとダメ」と断定してしまう先生もいらっしゃいます。確かに「予後が悪い」という言い方は学問的に正しいのですが、しかし再発する子どもが多いというだけで、娘さんが必ず再発するという意味ではありません。がん細胞が減っていない子どもが10人いるとすると、5人以上は再発するというデータがありますが、3~4人は再発しないかもしれないのです。 ですから、治療開始1カ月後にはっきりと寛解できなかったとわかるまで、あるいは寛解したとしてもいずれ再発が確定するまでは、ほかの薬に切り替えるべきではありません。化学療法を開始して3週間という今の段階では、現在の治療を続けていただくのがよいと思います。

また、アラノンジーは「再発または難治性のT細胞急性リンパ性白血病およびT細胞リンパ芽球性リンパ腫」に対して保険適用になる薬です。つまり、再発したか、明らかに骨髄内にがん細胞が残っている患者さんに対してのみ使える薬であって、ご相談者の娘さんのように、まだ寛解したのか、寛解していないのかはっきりしていない状態の患者さんに対しては保険上使えないのです。それ以外の使われ方は、臨床試験中の段階であって、世界的にもまだ結果が出ていないのが現状です。また、新薬とは標準薬を上回るものではないことを申し添えましょう。

ご心配されているアラノンジーの神経毒性の副作用は、頭痛が全体で17パーセント、眠気に襲われる「傾眠」が7パーセント、末梢神経障害が6パーセントと報告されています。副作用の程度が重いグレード3~4では、頭痛2~4パーセント、傾眠1パーセント、グレード3の末梢神経障害で6パーセントですから、あまり心配することはないでしょう。

アラノンジー=一般名ネララビン プレドニン=一般名プレドニゾロン

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