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がん治療と感染症

がん治療中は感染症のリスクが高い!日常的な注意を

監修●冲中敬二 国立がん研究センター中央病院総合内科・造血幹細胞移植科医員
取材・文●中田光孝
発行:2014年2月
更新:2019年7月

  

「日常的に気を付け、感染症を予防しましょう」と話す冲中敬二さん

がん患者さんでは一般的に抵抗力が低下しており、健康な人に比べて感染症にかかりやすい。抗がん薬自体も、免疫機構の重要な部分を担当する白血球やリンパ球を減らす副作用を持つものが多く、治療中に感染症を起こすリスクがある。

血液がん患者さんは感染症リスクが高い

一般にがん患者さんの感染症というと化学療法 (抗がん薬治療)により白血球やリンパ球が減って、感染症にかかりやすくなるというイメージがある。

国立がん研究センター中央病院総合内科・造血幹細胞移植科の冲中敬二さんは話す。

「がんの種類にもよりますが、一般的にがんは高齢者がかかることが多い疾患で、身体の抵抗力、例えば体内に入ってきた細菌を攻撃する白血球の働きなどが若い人に比べると低下しています。また、食べ物を飲み込む力(嚥下能)が低下するため、本来の食道ではなく、肺に通じている気管に食物が入って誤嚥性肺炎を起こしやすいなど、感染症にかかりやすい素地があります。

さらに高齢者では糖尿病、心臓病、脳梗塞など様々な合併症を持った人が多く、これらの合併症が感染症のリスクを高めることもあります」

さらに冲中さんは、血液関係のがんについて「例えば悪性リンパ腫や白血病は比較的若い人がかかることも多いがんですが、血液の細胞の1つである白血球(リンパ球や好中球)は免疫系で重要な働きをしている細胞なので、これらのがんにかかると、やはり抵抗力が落ちてしまい感染症にかかるリスクが高くなってしまいます」と話す。

症状緩和のステロイドも免疫低下の要因に

表1 感染症のリスクが高まる要因

冲中さんによれば、悪性リンパ腫などへの治療のほか、抗がん薬治療の副作用の吐き気の緩和などにも多く使われる副腎皮質ホルモン(ステロイド)も免疫系に及ぼす影響が強いという。

「ステロイドは主に細菌を攻撃する白血球よりは、ウイルスや真菌(カビ)を担当するリンパ球の働きを落としてしまいます」

また、がんによる解剖学的変化が感染を起こしやすくする場合もあるという。

「尿路感染症は、腎臓で作られた尿が尿管を通って膀胱、その先の尿道から排泄されるまでの経路のどこかに感染が起こる疾患ですが、例えば腹部に腫瘍ができて尿管を圧迫すると尿の流れが悪くなり、途中に淀みができて細菌が繁殖し、感染症が起こりやすくなるような場合もあります」

また、腸にできた腫瘍が原因で腸閉塞になると、閉塞によって腸内圧が上昇する結果、本来は無菌状態にある胆管に腸内細菌が入り込み、胆管炎を起こすこともあるという。

そのほかに冲中さんは、抗がん薬治療で点滴に使われるカテーテルの留置(針を刺したままにする)や、外科手術の傷口なども細菌の侵入口になる可能性があるとし、「抗がん薬でダメージを受けた口腔内や腸管の粘膜から細菌が直接血管内に入って、血液中に細菌が見つかる(菌血症)ことも珍しくない」と言う。

また、リンパ球の成熟に関与する脾臓は胃がんなどの手術で摘出されることがあり、摘出後に細菌性感染症、とくに肺炎球菌感染症にかかりやすくなることが知られている。

図2 感染にかかわる血液細胞

過去に感染した細菌やウイルスが再燃も

そのほかに、最近問題になっている事例として冲中さんが挙げたのは、過去に感染した病原体が、がん患者さんの免疫能低下に伴い、再び悪さをするようになる「再燃」だ。

例えば戦後を経験した高齢者の多くは既に体内に結核菌を持っており、とくに80代以降では50%を超える。

「結核菌を体内に持っていても実際に肺結核や腸結核を発症するのはその1/10程度に過ぎないため、多くの方は自分が結核菌に感染したと思っていません。そういう人が抗がん薬治療中に、体内に潜伏していた結核菌から肺結核などを発症する場合があります」

また、結核は抗リウマチ薬であるレミケードを使うと再燃しやすいことが知られているが、がん関係では赤血球や白血球の元になる細胞(造血幹細胞)の移植で起こる移植片対宿主病(GVHD)の治療にも使われており、投与前には必ず結核菌感染の有無がチェックされる。

とくに関節リウマチの治療でレミケードの使用後に結核が再燃するリスクのあることが有名であるが、抗がん薬のテモダールや分子標的薬のmTOR阻害薬なども同様に再燃の危険が疑われている。結核の罹患歴れきあるいは胸部X線で肺結核を疑う古い影(陳旧性陰影)がみられる患者さんには、化学療法開始前に結核予防薬の投与が行われることがある。

また、結核以外ではB型肝炎ウイルスに感染し、発病せずに過ごしてきた人が、抗がん薬治療を続けるうちに肝炎を発症、劇症化し亡くなる場合もある。

レミケード=一般名インフリキシマブ テモダール=一般名テモゾロミド mTOR阻害薬=mTOR(エムトール)は哺乳類ラパマイシン標的の略語。抗生物質の1種のラパマイシンが効果を発揮するカギになるタンパク質で細胞分裂や生存を調節している。ラパマイシンほかのmTOR阻害薬はこのタンパク質の働きを阻止することで免疫抑制、抗がん作用などを発揮する

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