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局所再発を抑えるだけでなく、排便・排尿障害や性機能障害など重い術後障害を回避できる可能性も!
人工肛門よ、さよなら! 直腸がんの術前化学放射線療法

監修:渡邉聡明 帝京大学医学部外科教授
取材・文:斉藤勝司
発行:2011年1月
更新:2013年4月

  
渡邉聡明さん 帝京大学医学部外科教授の
渡邉聡明さん

直腸がんの手術後、一定頻度で起こる局所再発を抑えるため、日本では手術に伴う直腸周辺のリンパ節切除(専門的に側方リンパ節郭清と呼ばれる)が行われてきた。しかし、この治療法では、排尿障害や性機能障害といったQOL(生活の質)の著しい低下を来す可能性がある。そこで、これらの障害を回避するために、欧米で実施されている術前化学放射線療法が日本でも注目されつつある。

直腸がんは局所再発しやすい

大腸がんのうち、直腸がんは局所再発しやすく、結腸がんの局所再発率が1.9パーセントなのに対して、直腸がんのそれは7.6パーセントと高くなっている。局所再発を起こすと、予後の悪化ばかりでなく、下肢にむくみや痛みを生じるなどQOL(生活の質)の低下にもつながる。

[直腸と肛門]
図:直腸と肛門

日本では伝統的に直腸がんを切除すると同時に、直腸周囲のリンパ節も摘出する側方リンパ節郭清が行われてきた。周辺組織にがんが広がっている可能性があることから、リンパ節を含めて大きく切除することにより、局所再発を抑えようというわけだが、リンパ節の周囲には神経が密集しており、これを傷つけると排尿障害、排便障害、性機能障害などの重篤な術後障害が起こることがあった。

[側方リンパ節郭清と術後障害]
図:側方リンパ節郭清と術後障害

一方、欧米では局所再発を抑えるために、術前の化学放射線療法が広く実施されてきた。正常組織のダメージなどが一定頻度で現れるものの、側方郭清で見られた術後障害は起こらないため、日本でも側方郭清に代わって術前化学放射線療法を取り入れる動きがある。術前化学放射線療法を先駆的に取り入れてきた帝京大学医学部外科教授の渡邉聡明さんは次のように説明する。

「まず、術前の放射線照射が直腸がんの局所再発を抑えられるかどうかを確かめるため、スウェーデンとオランダで大規模な無作為化比較試験が行われています。スウェーデンでの試験では、患者さんを手術+放射線併用群と手術単独群に分け、長期追跡調査を実施した結果、手術+放射線併用群は有意に局所再発を抑えられることが確かめられました。オランダでの試験でも同様の結果が得られています」

[術前放射線療法の効果(スウェーデンで行われた臨床試験:1997年)] 図:術前放射線療法の効果(スウェーデンで行われた臨床試験:1997年)

化学放射線療法で局所再発率が低下

[化学放射線療法の有効性(フランスの比較試験)]
図:化学放射線療法の有効性(フランスの比較試験)

Fédération Francophone de Cancerologie Digestive(FFCD)9203 trial

直腸がんは、術前の放射線療法により局所再発が抑えられることが、すでに国際的なコンセンサスを得ているようだ。ならば、術前の放射線照射が生存率の向上にも貢献するのではないかと期待したくなるが、この点については論議があるようだ。

「スウェーデンの試験では生存率も向上したと報告されていますが、オランダの試験では有意差はありませんでした。ただし、オランダの試験では、摘出したがんを詳しく調べたところ、放射線がよく効いた患者さんだけを見ると、生存率が向上していたとも報告されています」

患者の体質により放射線の感受性が異なるため、同様に照射していても、効き目に違いが現れることがある。そのため、放射線の感受性が高い患者に限れば、生存率の向上が認められたのだ。

ただし、そもそも放射線照射は局所療法であるため、遠隔転移に対しては有効ではない。そのため、欧米では全身療法となる化学療法を放射線療法と組み合わせた化学放射線療法が普及している。渡邉さんによれば、国内の化学放射線療法では5-FU(一般名フルオロウラシル)の経口抗がん剤がよく使われるという。欧米では、すでに化学放射線療法の有効性についても検討されてきた。

「直腸がんの術前に化学放射線療法を行う群と放射線療法のみを行う群を比べた試験がありますが、生存率では両群に有意差がなかったものの、局所再発率では化学放射線療法群が有意に低下しました」


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