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経口剤TS-1を用いるIRIS療法にFOLFIRI療法と同等の効果を証明
大腸がん化学療法の新時代が到来

監修:辻晃仁 高知医療センター腫瘍内科科長
取材・文:柄川昭彦
発行:2010年1月
更新:2013年4月

  
辻晃仁さん 高知医療センター
腫瘍内科科長の
辻晃仁さん

FOLFOX、FOLFIRIは、進行大腸がんに対する標準化学療法である。
どちらも5-FUの持続静注を伴うのが特徴だが、2日間にわたる持続静注は、患者さんにとって負担が大きい。
そこで、TS-1が5-FU持続静注の代わりになることを期待し、IRISとFOLFIRIの比較試験が行われた。
その結果、IRISはFOLFIRIに劣っていないことが証明され、FOLFIRIに変わり得る治療法であることがわかった。


2日間の持続静注から解放させるための経口剤

進行大腸がんの化学療法では、FOLFOX療法やFOLFIRI療法が標準治療として行われている。FOLFOXは、5-FU(一般名フルオロウラシル)、レボホリナート(商品名アイソボリン)、オキサリプラチン(商品名エルプラット)を併用する治療法。FOLFIRIは、5-FU、レボホリナート、イリノテカン(商品名トポテシン、カンプト)の併用療法である。

これらの治療では、2日間にわたる5-FUの持続静脈注射が必要となる。FOLFIRIの場合、レボホリナートとイリノテカンは2時間の点滴で投与し、その後46時間にわたって、5-FUの持続静注が行われる。持続的に薬を送り込むため、前腕や鎖骨付近に手術でポート(ポンプの取り付け口)を植え込んでおき、そこに小型の特殊なポンプを接続することで、静脈内に少しずつ薬を送り込むのである。

投与するのは2週間に1回だが、患者さんにとって負担が大きい治療であると、高知医療センターの辻晃仁さんは言う。

「病院で点滴を受けた後は帰宅できますが、2日間針が刺さり、さらにポンプも常時身につけた状態で過ごすのですから、患者さんにとってはなかなか大変な治療です。また、ポートの留置手術や管理など、医療側にとっても楽ではありません。ただ、効果がきわめて高いため、負担ではあるものの選択される治療法であるのです」

こうした問題を解決するため、FOLFOXの代わりとなるXELOXの効果が確認され、日本でもこの治療が行われるようになっている。XELOXは、5-FUの代わりに日本で開発されたカペシタビン(商品名ゼローダ)を使うカペシタビン+オキサリプラチン併用療法で、FOLFOXに匹敵する効果が確認されている。

「FOLFIRIの代用として、5-FUの代わりにカペシタビンを使う併用療法の臨床試験が海外で行われましたが、これは治療効果が劣るという結果でした。そこで、日本で開発されたもう1つの経口抗がん剤であるTS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)を使ってFOLFIRIの代用になる併用療法が検討されるようになったわけです」

こうして、IRIS(TS-1+イリノテカン併用療法)のFOLFIRIに対する非劣性(劣っていないこと)を証明するための臨床試験が行われたのである。

無増悪生存期間も奏効率も劣らないことを証明

この臨床試験には、国内の40施設が参加し、06年1月から08年1月までに426例が登録された。対象となったのは、イリノテカンの治療を受けたことがなく、1レジメンの化学療法を受けた経験のある大腸がんの患者さんである。

「進行大腸がんの第2次治療として、一方にはIRISが、もう一方にはFOLFIRIが行われたわけです。08年12月までに十分なデータが集まったため、09年2月に主な解析が行われました」

解析の結果、無増悪生存期間中央値は、FOLFIRI群の5.1カ月に対し、IRIS群は5.8カ月となっていた。全生存期間中央値は、FOLFIRI群の18.2カ月に対し、IRIS群は19.5カ月。奏効率は、FOLFIRI群の16.7パーセントに対し、IRIS群は18.8パーセントだった。

「これらのデータから、効果の点では、IRISはFOLFIRIに対して劣っていないことが証明されたのです」

[進行大腸がん患者さんのIRIS療法とFOLFIRI療法の無増悪生存期間比較]
図:進行大腸がん患者さんのIRIS療法とFOLFIRI療法の無増悪生存期間比較
[進行大腸がん患者さんのIRIS療法とFOLFIRI療法の生存率比較]
図:進行大腸がん患者さんのIRIS療法とFOLFIRI療法の生存率比較

有害事象も比較の対象となったが、好中球減少はFOLFIRI群で多く、IRIS群では下痢が起こりやすいことがわかった。好中球減少症(グレード3、4)は、FOLFIRI群の52.1パーセントに、IRIS群の36.2パーセント起きている。一方、下痢(グレード3)は、FOLFIRI群では4.7パーセントだが、IRIS群では20.5パーセントに起きているのだ。

「IRISにとって下痢は問題点ですが、薬の量を減らしたり、薬を休んだりすることで、コントロール可能な副作用だと考えられます」

好中球減少症と下痢以外の有害事象は、両者で大きな差は認められていない。

分子標的薬との併用の臨床試験も行われている

国内で行われた大規模臨床試験により、IRISのFOLFIRIに対する非劣性が認められたことで、進行大腸がんの化学療法には、選択肢が1つ増えることになった。

「FOLFIRIでは特殊なポンプを使用しますが、職業によっては使用できないことがありましたし、性格的な理由や、社会的な事情で無理な人もいます。また、血栓などが心配で血管内にカテーテルを留置できない人たちにとって、IRISという選択肢が増えたことは、大きな意味を持っています」

もちろん、FOLFIRIも受けられるが、持続静脈注射より内服薬のほうが簡単でいい、という人もいるだろう。こんな人たちにとっても、前述した比較試験の結果は朗報である。

この日本発の臨床試験データは、ヨーロッパ臨床腫瘍学会(ESMO)でも発表され、海外でも注目されている。ただ、日本人を対象にした試験なので、IRISを欧米で実用化するためには、欧米でも臨床試験が必要だと辻さんは言う。

「これからは分子標的薬との併用も重要なテーマになると思います。現在、FOLFOXもFOLFIRIも、分子標的薬と併用されるようになっているので、IRISと分子標的薬を併用した場合の効果と安全性について調べる必要があります」

現在、IRIS+ベバシズマブ(商品名アバスチン)の第2相試験なども進行中だという。こうした試験の結果次第では、IRISの重要度は更に高まることになるだろう。

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