肺がんの免疫療法 期待される結果が次々と報告される
今、最もホットな話題――開発が進む3つのタイプの抗体薬
がん免疫療法は、第4のがん治療として長年期待されてきたが、これまでなかなか良い結果を得ることができなかった。しかし、最近になってその状況が変わりつつある。これまでの免疫療法とは全く異なる発想に基づいて開発された薬剤で、次々と良い結果が得られているのだ。
新しいメカニズムの免疫療法の開発が進められている
がんに対する新しい治療薬の開発が進められている。免疫療法の一種だが、これまでのものとは異なり、全く新しい発想に基づく治療法である。複数の臨床試験が進められており、非小細胞肺がんに対しても、期待が持てるデータが出ているという。果たしてどのような治療薬なのだろうか。国立がん研究センター中央病院早期・探索臨床研究センター先端医療科医長の田村研治さんは、次のように説明してくれた。
「従来の免疫療法では、ワクチンで免疫を活性化させたり、リンパ球などを体外で活性化して体に戻したりする治療が、主として行われてきました。ところが、免疫応答を抑制する自己調節機能が働いてしまい、なかなか期待したほどの効果が得られないという問題がありました」
がんを攻撃するリンパ球の代表的なものの中にT細胞があるが、T細胞が十分に活性化されなかったり、活性化しても細胞を殺すまでには至らないことも多い。免疫応答を抑制する自己調節機能が、免疫療法の壁となっていた。
「現在開発が進められている治療薬の作用機序は、免疫応答に関する自己調節機能に関わる分子を阻害し、免疫力を高め、抗腫瘍効果を発揮するものです」現在、3タイプの薬の研究開発が進められているという。
異なる作用を持つ3タイプの抗体薬
3つのタイプの薬は、それぞれどのような働きをするのだろうか。
「T細胞は樹状細胞と結合することで活性化し、急激にその数を増やします。樹状細胞のB7という受容体と、T細胞のCD28という*リガンドがつながることで、このような現象が起こるのです。ところが、樹状細胞のB7受容体が、T細胞のCTLA-4とつながると、T細胞の活性が抑制されてしまいます。そこで、CTLA-4を働かせないために、これと結合する抗体が作られました」
これが抗CTLA-4抗体として開発された薬で、一般名はipilimumab(イピリムマブ)。アメリカではメラノーマ(悪性黒色腫)の治療薬として、すでに認可されている。肺がんに対する効果は、現在臨床試験が進行中である。
残りの2つは、T細胞ががん細胞に働きかける局面で作用する(図1)。
「T細胞にはPD-1という受容体があり、がん細胞のPD-L1とつながると、T細胞の攻撃力が抑制されてしまいます。そこで、こうした事態を防ぐために、PD-1と結合する抗体や、PD-L1と結合する抗体がそれぞれ作られています。これらの抗体が結合してしまえば、PD-1とPD-L1が結合できないため、免疫力が低下しないのです」
抗PD-1抗体も抗PD-L1抗体も、臨床試験が進められている段階で、海外でもまだ承認されていない。ただ、肺がんに対しては、将来に期待が持てるデータが出ているという。
*リガンド=特定の受容体に特異的に結合する物質のこと
抗がん薬との併用で有効性を示したipilimumab(イピリムマブ)
抗CTLA-4抗体のipilimumab(イピリムマブ)は、非小細胞肺がんに対して、次のような臨床試験が行われている。非小細胞肺がんの初回治療で、標準治療である*タキソール+*パラプラチン群(化学療法単独群)と、これにipilimumab(イピリムマブ)を加えたipilimumab(イピリムマブ)併用群の治療成績を比較する試験である(図2)。
「有効性を調べる第Ⅱ相試験として行われた試験です。無増悪生存期間(PFS:がんが増悪するまでの期間)を比べていますが、ipilimumab(イピリムマブ)併用群のほうが長くなっています」
つまり、タキソール+パラプラチンの標準治療にipilimumab(イピリムマブ)を併用することで、がんが増悪するまでの期間を、標準治療より延ばせることが示唆されたのだ。
ただし、第Ⅱ相試験のため、対象とした人数(被験者数)は多くない。現在は、第Ⅲ相試験として、人数を増やした大規模臨床試験が進行しているという。
*タキソール=一般名パクリタキセル *パラプラチン=一般名カルボプラチン
同じカテゴリーの最新記事
- 1人ひとりの遺伝子と免疫環境で治癒を目指す! がん免疫治療が進んでいる
- 自分の免疫細胞も活用してがんを攻撃 PRIME CAR-T細胞療法は固形がんに効く!
- 光免疫療法が踏み出した第一歩、膨らむ期待値 世界初、頭頸部がんにアキャルックス承認!
- 頭頸部がんに対する「光免疫療法」の第Ⅲ相試験開始 第Ⅱ相試験の好結果を受け、早期承認への期待高まる!
- 白血病に対する新しい薬物・免疫細胞療法 がん治療の画期的な治療法として注目を集めるCAR-T細胞療法
- 進行膵がんに対する TS-1+WT1ペプチドパルス樹状細胞ワクチン併用療法の医師主導治験開始
- がん患者を対象とした臨床試験で証明された、米ぬか多糖体(RBS)の免疫賦活作用
- 先進医療の結果次第で、大きく進展する可能性も! 進行・再発非小細胞肺がんに対するNKT細胞療法
- 現在3つのがん種で臨床試験を実施中 がんペプチドワクチン療法最前線
- 免疫力アップで照射部位から離れた病巣でもがんが縮小 アブスコパル効果が期待される免疫放射線療法