日常生活に注意して、リンパ浮腫や腸閉塞を防ごう!
リンパ節を広く郭清することの意義と合併症対策
国立がん研究センター中央病院
婦人科医長の
加藤友康さん
卵巣がんと子宮体がんでは、近くの骨盤リンパ節だけでなく、もっと広く郭清(切除)することがあります。このリンパ節拡大郭清は手技が難しく、しかもリンパ浮腫や腸閉塞などの合併症が起こりやすいともいわれます。リンパ節の拡大郭清の意義と合併症対策を考えます。
大動脈周囲リンパ節への転移
子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんなどの婦人科がんは、「血行性転移」「リンパ行性転移」「播種性転移」などの転移様式のうち、リンパ液の流れにのってリンパ節に転移しやすいがんです。リンパ液は、体中にはりめぐらされたリンパ管の中を流れ、体内の不要なタンパク質や水分を回収しながら静脈に注ぎ、体液を心臓に戻す働きをしています。リンパ管のところどころにある「リンパ節」は、細菌などの物質を血液循環に入れないよう関所のような働きをしていて、原発巣から流れてきたがん細胞も、リンパ節で転移巣をつくることがあります。そこで、このようなリンパ節転移、さらにもっと遠くの臓器への転移を防ぐために、リンパ節の郭清(切除)を行います。
婦人科がん手術に伴うリンパ節郭清に詳しい国立がん研究センター中央病院婦人科医長の加藤友康さんは、こう説明します。
「子宮頸がんと、子宮体がん、卵巣がんでは、転移しやすい所属リンパ節が異なります。子宮頸がんの1b1期~2期では、広汎子宮全摘術などの手術と併せて、骨盤リンパ節(下肢または骨盤内臓器に向かう動脈を脂肪組織とともに取り囲む)を郭清するのが一般的です。これは、子宮頸部(子宮の入り口)のリンパ流が、子宮動脈(子宮を養うただ1本の動脈)と平行して走る静脈に沿って骨盤に向かうため、骨盤リンパ節に転移しやすいからです。
一方、卵巣がんと子宮体がんでは、骨盤リンパ節だけでなく、へそより上に位置する大動脈周囲リンパ節(注1)にも転移しやすいため、1980年代後半以降、大動脈周囲リンパ節から骨盤リンパ節まで含めた拡大郭清(注2)が行われる症例が増えてきました」
大動脈周囲リンパ節とは、背骨の前を走行する腹部大動脈や、それに沿って走る太い下大静脈、腎臓周辺を走行する腎静脈など、へそ上からみぞおちくらいの範囲の主要な血管の周囲にあるリンパ節のことです。
注1:以前、婦人科では「傍大動脈リンパ節」と呼ばれていたが、癌治療学会にて「大動脈周囲リンパ節」の呼称で外科と統一
注2:骨盤リンパ節と大動脈周囲リンパ節は腸の裏側にあるので、合わせて後腹膜リンパ節郭清とも呼ばれる
10センチ以上離れていても転移しやすい
「卵巣がんの場合、大動脈周囲リンパ節は卵巣と10センチ以上も距離が離れているにもかかわらず、非常に転移しやすいところです(注3)。というのは、左の卵巣静脈は左腎静脈に、右卵巣静脈は下大静脈に合流し、卵巣のリンパ流もこれらの卵巣静脈に沿って、左は腎静脈と下腸間膜動脈の間、右は下大静脈と腹部大動脈の間(大血管間)に注ぐため、その領域のリンパ節に転移しやすいのです。
また、子宮体がんでは、子宮体部から子宮頸部に向かうリンパ流のほかに、卵巣に向かうリンパ流もあるので、骨盤リンパ節、大動脈周囲リンパ節の両方に転移する可能性があります。したがって、卵巣がん、子宮体がんでは大動脈周囲リンパ節と骨盤リンパ節を含めた広い範囲を郭清する必要性が出てくるのです」
なお、子宮頸がんの手術では「骨盤リンパ節郭清」はよく行われますが、大動脈周囲リンパ節への転移は遠隔転移とみなされ、病期はステージ4となり、手術の適応からはずれます。
「私たちはCT画像で大動脈周囲リンパ節の腫れを確認した場合は、手術以外の方法を選択します。ただ、微小転移を判断するのは難しく、海外では腹腔鏡でリンパ節をサンプリング(生検)して転移の有無を確認し、治療方針を切り替えているところもあります」
注3:胃がんや大腸がんなどの消化器外科手術の場合、大動脈周囲リンパ節は4群(外科ではリンパ節を転移ルート順に1~4群に分類)にあたり、そこまで転移が及んでいたら全身転移の可能性があり、郭清しても意味がないとの考え方から、最近、拡大郭清はほとんど行われていない
正確なステージ分類に意義
加藤さんは、以前所属していた癌研究会付属病院(現癌研有明病院)で1995年から4年間系統的郭清を行った卵巣がん146例と、子宮体がん217例を対象として、リンパ節郭清の安全性とリンパ節転移の有無を調べました。リンパ節転移が1個のみであった卵巣がん12例のうち10例、子宮体がん13例のうち6例が大動脈周囲のリンパ節へ転移していました。
「解剖学的には予想されていたことが臨床的にも裏づけられ、診断的にも有意義であることが示されました」
大動脈周囲リンパ節郭清をすることの大きな意義の1つは、正確な病期(ステージ)の確定診断ができ、化学療法を追加するなど術後の治療の指針になることです。卵巣がんや子宮体がんで、大動脈周囲リンパ節の郭清を行わなかった場合は、上部のリンパ節転移を見逃して病期の判断を誤り、必要な追加治療が受けられない可能性があります。たとえば卵巣がんで、骨盤リンパ節郭清のみ行った場合、腫瘍が卵巣内に限局していてリンパ節転移がない場合の病期は1期で経過観察になりますが、もし大動脈周囲リンパ節転移があったとすると3c期で、術後化学療法の追加が必要です。子宮体がんでも、リンパ節転移があると3c期になります。
日本の「卵巣がん治療ガイドライン」(2004年)では、「大動脈周囲リンパ節郭清は、卵巣がん、子宮体がんの正確な進行期を知る上での診断的な意義は確立されている」とする一方で、「治療に貢献するかどうかいまだ一定の見解に達していない」としています。
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