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化学療法の3次治療までの想定で生存期間が延長 切除不能進行・再発胃がんの化学療法最前線 広がる選択肢─分子標的薬の適応症例も

監修●山田康秀 国立がん研究センター中央病院消化管内科外来医長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2014年8月
更新:2019年8月

  

「日本を始め、世界で新薬開発に取り組んでいます」と話す
山田康秀さん

かつて、胃がんは抗がん薬が効きにくいがんの1つと言われた。しかし、1980年代から新しい抗がん薬が使用されるようになったり、近年では分子標的薬も適応となり、生存期間も延びている。切除不能進行・再発胃がんにおける化学療法の最新事情をまとめた。

進歩する胃がん化学療法

胃がんの治療は基本的には外科手術による切除が選択されるが、進行していて切除が不能な胃がんや手術後に再発したがんはステージⅣに分類され、抗がん薬による化学療法が施される(図1)。

図1 胃がんの病期(ステージ)分類

日本胃癌学会編「胃癌取扱い規約第14版(2010年3月)」(金原出版)より作成

「1980年代まで、全生存率(OS)の中央値は7~9カ月でしたが、現在は1年を超えるところまで進歩しています。大腸がんなどの治療進歩と比べると延び幅はまだ小さいのですが、TS-1の登場に加え、2次治療にタキソール、タキソテール、アブラキサン、イリノテカンを使うようになったことが大きな理由です」

胃がんに対する化学療法の最前線で研究・治療を続ける国立がん研究センター中央病院消化管内科外来医長の山田康秀さんは、最近の臨床現場について話した。

山田さんのところを訪れる患者さんのうち、再発は4割で、最初の診断時から切除できないケースが6割だという。

「初めから切除が選べないのは、進行しすぎて、がんが腹膜や遠くのリンパ節、肝臓などに広がっている(転移している)場合です。スピードが速い性質のがんの可能性があります。がんは転移しても症状が出ないことも多く、発見が遅れてしまうこともあるのです。ある意味でやむを得ないとも言えますが、検診を受けていないということも理由の1つになりえます。むかつきや食欲不振という症状が出るころには、がんがそれなりの大きさになっています」

化学療法が選択されると、主要臓器の機能や全身状態(PS)のチェックを経て、抗がん薬による治療に入る。

TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム タキソール=一般名パクリタキセル タキソテール=一般名ドセタキセル アブラキサン=一般名パクリタキセル(アルブミン懸濁型) イリノテカン=商品名カンプト/トポテシン

1次標準治療は TS-1+シスプラチン

化学療法は1次から3次までが想定されている。胃がん治療ガイドラインでは、1次治療としての化学療法は、TS-1+シスプラチンの併用療法が推奨されている。国内で行われた臨床試験の結果、TS-1単独に対する優位性がみられた。

2次治療については、現時点では推奨できるレジメンは示されていないが、冒頭で山田さんが話したように、タキソール、タキソテール、アブラキサン、イリノテカンの単剤での投与が行われている。

「近く起こる胃がんの化学療法の一番大きな変化は、2014年中に大腸がん治療薬だったエルプラットが使えるようになることです。今まではTS-1とシスプラチンの併用が標準治療でしたが、シスプラチンは腎毒性が強く、排泄のために大量の水を摂取する必要がありますが、どうしても大量に飲めない人もいます。そのような場合は入院して点滴で補液しなければなりません。

エルプラットが使えれば、吐き気の副作用が少なく、補液の必要もなくなるので、外来だけで化学療法を受けることができるようになります」

シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ エルプラット=一般名オキサリプラチン

分子標的薬ハーセプチンも適応に

分子標的薬も使われるようになった。すでに、乳がんの分子標的薬として承認されていたハーセプチンが、「HER2過剰発現が確認された切除不能な進行・再発の胃がん」にも適応拡大されたのは2011年。ハーセプチンはがん細胞の表面に出ているHER2タンパクを標的とし、がん細胞を増殖させようとするHER2の働きを妨げる働きをする(図2)。

図2 胃がんと乳がんHER2の特徴の相違

IHC:免疫組織化学染色法 FISH:蛍光 in situ ハイブリダイゼーション法

山田さんは、「胃がんでもHER2陽性のケースが15%くらいあります。その患者さんに抗がん薬と併用でハーセプチンを用いると、抗がん薬単独よりも効果があるという臨床試験結果が報告されました」と、新薬の登場は評価する一方で、開発を巡る厳しい状況も話した。

「しかし、胃がん治療におけるその後の分子標的薬の臨床試験では、良い結果が得られないという試行錯誤が続きました」

大腸がんで有効だったアバスチンやアービタックス、ベクティビックスが試されたが、従来の抗がん薬治療への上乗せ効果は示されなかった。また、乳がんでタイケルブによる効果が得られたため、HER2陽性の胃がんでも有効では、ということで臨床試験が行われたが、こちらもよい結果は得られなかった。

ハーセプチン=一般名トラスツズマブ アバスチン=一般名ベバシズマブ アービタックス=一般名セツキシマブ ベクティビックス=一般名パニツムマブ タイケルブ=一般名ラパチニブ

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