治療法の選択で迷っている

回答者●古賀文隆
がん・感染症センター都立駒込病院腎泌尿器外科部長
発行:2023年5月
更新:2023年5月

  

2022年8月に受けた検査は、PSA値が12.8でした。2023年1月、大学病院の精密検査ではグリソンスコアは3+4=7で、悪性度は中程度。針生検の結果は、14本のうち11本からがん細胞が検出されました。MRI検査の結果、骨やリンパ節への転移はなく、TNM分類はT2N0M0でステージⅡと診断されました。主治医からは手術か放射線治療を勧められたのですが、どちらを選択すべきか迷っています。

(71歳 男性 埼玉県)

治療法を理解したうえで判断を

がん・感染症センター都立駒込病院
腎泌尿器外科部長の古賀文隆さん

相談者は中リスクの限局がんの診断であり、手術療法でも放射線療法でも10年後に前立腺がんで亡くなる可能性は極めて低いと報告されている病状です。

「前立腺がんで亡くならない」ことを目的に治療法を選択するならば、手術療法でも放射線療法(ホルモン療法併用)でも目的は達成できると言えます。どちらの治療を選択するかは患者さん個々の判断に委ねられ、以下に記載するそれぞれの治療の特徴を理解したうえで選択して頂くことになります。

●手術療法(前立腺全摘除):全身麻酔をかけて前立腺を摘除します。大部分の限局がん症例で、手術療法のみで完治を期待できます。

術後は尿が漏れやすくなりますが、漏れの程度は病状や施設や術者の経験や技量によりさまざまですが、一般的に1年程度で、大多数の方は生活に支障が出ない程度まで回復すると報告されています。

前立腺が精液の液体成分を作るので、術後射精はできなくなります。勃起機能は低下しますが、勃起神経温存手術により早期回復を期待できます。現在、本邦の多くの施設では手術支援ロボットを用いた腹腔鏡下前立腺全摘除が行われています。開腹手術と比較して体への負担が軽く、出血量が少なく入院期間が短いことが利点です。

都立駒込病院のロボット支援手術の場合、入院期間は6~7日、輸血を必要としたケースはこれまでなく、尿漏れは、術後3カ月で殆どの患者さんが日常生活に支障がない程度(尿漏れパッド不要または念のため1日1枚使用)に回復しています。

●放射線療法(強度変調放射線治療):放射線療法で最も多く行われているのは強度変調放射線治療で、中リスクがんでは6カ月間ホルモン療法を併用します。入院を必要とせず、1~2カ月弱の間、毎日通院して放射線治療を行います。

手術療法と異なり、放射線療法では尿漏れが起きにくいことが利点です。性機能も比較的温存されますが、ホルモン療法により性欲や勃起機能は低下します。放射線治療による副作用で、照射期間中の頻尿や頻便、治療後の血尿や血便が発生することがあります。

手術療法と放射線療法では治療後再発した場合の治療法が異なります。いずれの治療を受けた場合も、中リスクがんの場合、5年後で10~30%程度の患者さんがPSA再発(基準値を超えたPSAの再上昇)します。

手術療法と放射線療法でPSA再発の定義が異なるため、治療効果の優劣を単純に比較することはできませんが、手術療法後は放射線治療で根治を期待できるのに対し、放射線療法後は一般的にホルモン療法で病勢をコントロールすることになります。

ホルモン療法は男性ホルモンを体から取り除く治療です。男性ホルモンは男性の健康の下支えをしているため、長期のホルモン療法は、男性の健康度を低下させます。具体的にはメタボの傾向が強くなり、心筋梗塞や脳梗塞のリスク上昇が知られています。再発した場合の治療も考慮して納得のいく選択をしてください。

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