直径1センチ未満の乳頭がん。経過観察だけでよいか
健康診断の超音波検査で甲状腺に異常が見つかり、細胞診で直径1センチ未満の甲状腺乳頭がんと診断されました。病院からは、経過観察だけでとくに治療は必要ないと言われました。お伺いしたいことは2つあります。1つは、甲状腺乳頭がんは、超音波検査と細胞診で簡単に診断できるのかどうかということ。もう1つは、このまま経過観察だけでよいのかどうかということです。
(秋田県 55歳 女性)
A 転移や組織外への浸潤がなければ、1つの選択
甲状腺にできるがんには、いくつかの種類がありますが、乳頭がんはその中で最も多く、甲状腺がん全体の90パーセント以上を占めます。予後のよいがんとして知られており、10年生存率は95パーセント程度です。特徴的な細胞形態を示すため、ほとんどの場合、超音波検査と細胞診で診断がつきます。
いろいろな理由で亡くなった人の甲状腺を徹底的に調べてみると、ごく小さな乳頭がんは10人に1人以上の確率で存在することが知られています。甲状腺がんを発症する人はせいぜい1000人に1人なので、がんが「存在」する確率とそれが「発症」する確率との間には大きな格差があることがわかります。
最近は、超音波検査などによる検診の普及と、超音波ガイド下細胞診などの診断技術の進歩によって、腫瘍径1センチ以下の微小乳頭がんが発見されやすくなっています。米国での報告によると、この30年間で甲状腺がんの発症の頻度は、10万人当たり3.6人から8.7人と2.4倍に増加しています。これは、以前は小さすぎて見つからなかった微小乳頭がんの発見が増えたためと解釈されています。
微小乳頭がんの治療成績は非常によいため、微小乳頭がんに対して、すぐには手術を行わず、経過観察をする試みも行われるようになっています。
当院では、これまで366の微小乳頭がんを1~18年経過観察していますが、腫瘍径が大きくなったのは7パーセント、経過観察中にリンパ節転移をしたのは1パーセントでした。
後で手術した患者さんの術後経過も良好です。今のところ、こうした臨床試験の報告は限られた施設からにとどまっており、今後、さらなる症例数と観察期間の蓄積が必要です。
しかし、触診や超音波検査、肺のCTなどの術前診断で、リンパ節転移や遠隔転移、甲状腺外への浸潤がないことが確認でき、十分な説明のもとで患者さんが希望した場合には、経過観察という治療の選択肢も考えてよいと思います。ただし、その場合、6~12カ月ごとに超音波検査などで病状を確認することを怠ってはなりません。
一方、術前診断によって、明らかなリンパ節転移や肺などへの遠隔転移、甲状腺外への浸潤をともなうときは、手術を行います。