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新規の併用療法による治療効果改善に期待 ステージⅢ胃がんにおける術後補助化学療法の現状

監修●東風 貢 日本大学医学部附属板橋病院消化器外科診療教授
取材・文●伊波達也
発行:2020年8月
更新:2020年8月

  

「胃がんは、まだ大腸がんのようにいろいろな薬剤が使えるという状況ではありませんが、進行再発胃がんでの臨床試験結果を参考に、新たな治療法を模索していくことになるでしょう」と述べる
東風 貢さん

進行胃がんではあるが、手術可能なのがステージ(病期)Ⅲの胃がんだ。ただし、目に見えない微小転移による再発の可能性もあるため、術後補助化学療法は必須だ。その治療において、従来のS-1単独と新規のS-1+ドセタキセル併用療法の治療効果を比較した無作為(ランダム)化比較第Ⅲ相試験(JACCRO GC-07)によって、2剤併用群の有効性が認められた。

同試験に関わってきた日本大学医学部附属板橋病院消化器外科診療教授の東風 貢さんに、ステージⅢ胃がんの治療の現状と今後の展望について伺った。

ステージ分類の変更に伴い慎重な診断が重要に

近年、胃がんは、検診の進歩などにより、比較的早期で発見されるケースが多いため、ステージⅢの患者はそれほど多くない。しかし、進行がんでありながら、根治が見込める点で、根治手術に加えての補助化学療法の進化が重要視されている。

ステージⅢ胃がんの補助化学療法に触れる前に、まず、ステージⅢの胃がんとはどのような進行度なのかについて説明しよう。

「ステージⅢ胃がんは、手術が可能な進行がんで、根治も見込めます。ただし、近年、ステージⅢは、欧米とのステージ分類の違いを解消するために、日本胃癌学会の『胃癌取扱規約』の中で、若干ステージ分類が変更されました。ステージⅣの一部が、ステージⅢに組み込まれましたので、非常に複雑な進行度での分類であり、慎重に診断しなければならないということが言えます」

そう話すのは、日本大学医学部附属板橋病院消化器外科診療教授の東風 貢さんだ。

ステージⅢはA、B、Cに分類され、その中でも、さらに細かく分類・規定されている。そして、変更された分類では、旧分類のステージⅢBの一部とⅣの一部が現行のⅢAに。旧分類のステージⅢAの一部とⅢBの一部とⅣの一部が現行のⅢBに。旧分類のステージⅣの一部が現行のステージⅢCに変更となった(表1、図2)。

「複雑ではありますが、TNM分類で、明確に数値として表現されていますので、ある意味シンプルになったと言うこともできます」

ステージⅢにステージⅣが入ってきたことで、5年生存率などの治療成績は若干悪化し、現在、ステージⅢ胃がんの5年生存率は47.2%となっている。

S-1の登場で術後化学療法が確立される

日本でステージⅢ胃がんに対する術後化学療法が確立したのは、S-1(TS-1:一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)という治療薬が登場してからだ。有効性が高く、経口投与できる点で画期的な薬剤であった。

ステージⅡ,Ⅲ胃がんを対象にした「ACTS-GC」と呼ばれる臨床試験(2007年)では、2001年10月から2004年12月にかけて、日本全国109施設から1,059例を登録し、手術単独群と手術+S-1群を比較した。

その結果、中間解析では、S-1群の有意な生存期間延長効果が認められた。さらに、その後5年生存率の優位性も認められ、術後1年のS-1投与が標準治療となった経緯がある。

そして、現在、ステージⅢ胃がんの治療については、S-1単独投与に代わり、新たな標準治療が生まれている。JACCRO(日本がん臨床試験推進機構)が実施した、「JACCRO GC-07」と呼ばれる臨床試験の結果(2019年)に基づくものだ。

「JACCRO GC-07」は、日本国内138施設、ステージⅢ胃がんの患者913例を対象に行った無作為化第Ⅲ相試験である。

ステージⅢでの有効性の高い治療法を模索

「従来、術後化学療法の標準治療として行われてきたS-1単独治療と、S-1とドセタキセル(商品名タキソテール)の2剤を併用した治療を比較しました。

その背景には、実臨床では、S-1単独治療はステージⅡについては良好な成績が出るのですが、ステージⅢについては力不足が否めなかったため、様々な薬剤で有効性の確立を模索していたのです」

通常、がんにおける術後補助化学療法の標準治療は、切除不能の進行再発がんに対する標準治療を踏襲して、取り入れているケースが多い。

ステージⅢ胃がんの術後補助化学療法でも、「SPIRITS試験(2008年)」の結果に基づき、S-1とシスプラチンの併用療法(CDDP療法)が、進行再発がんの一次治療として標準治療になっていた。

しかし、ある研究により、術後にS-1+シスプラチン治療を行うと有害事象が生じ、十分に薬剤が投与できないことが判明、忍容性において厳しいということになった。

そこで、「JACCRO GC-07」では、「START試験(2014年)」で進行再発がんへの有効性において、S-1単独投与との比較で勝ったS-1+ドセタキセルの併用療法を採用したのだ。

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