従来のサルベージ療法に比べ、穏和で優れた効果を持つフルダラとゼヴァリン
2つの新薬で大きく変わる悪性リンパ腫
九州がんセンター
血液内科部長の
鵜池直邦さん
悪性リンパ腫の中で最も患者さん数の多いB細胞腫瘍の治療は最近、大きな進歩を見せている。再発した場合に使用できる薬として、2007年にフルダラ(一般名フルダラビン)、2008年にゼヴァリン(一般名イブリツモマブチウキセタン)が承認されたからである。
この2つの新薬の治療開始から約1年が経過した今、どのように救いの道が開かれてきたのだろうか。
日本人に最も多いのはB細胞腫瘍
悪性リンパ腫は、リンパ球が悪性化する病気である。日本では高齢化に伴って増加する傾向にあり、現在、1年間に1万人ほどが発病している。
悪性リンパ腫には、いろいろなタイプがある。
九州がんセンター血液内科部長の鵜池直邦さんによれば、WHO(世界保健機関)分類では、悪性リンパ腫は大きく次のように分けられているという。
●B細胞腫瘍……リンパ球の中のB細胞が悪性化するもので、分化(骨髄にある未熟な細胞が成長)段階に応じて、前駆B細胞腫瘍、成熟B細胞腫瘍がある
●T細胞/NK細胞腫瘍……T細胞やNK細胞が悪性化するもので、前駆T細胞腫瘍、成熟T細胞/NK細胞腫瘍がある
●ホジキンリンパ腫……かつてイギリスのホジキン医師が報告した特殊なリンパ腫
では、前記の3つのタイプの悪性リンパ腫は、どのような割合になっているのだろうか。
「ホジキンリンパ腫以外のB細胞腫瘍とT/NK細胞腫瘍を総称して、非ホジキンリンパ腫と言います。日本は欧米よりも非ホジキンリンパ腫の割合が多く、悪性リンパ腫全体の約9割を占めています。B細胞腫瘍とT/NK細胞腫瘍では、B細胞腫瘍のほうが多く、非ホジキンリンパ腫の6~7割を占めています。つまり、悪性リンパ腫の中で最も多いのがB細胞腫瘍ということになります」(鵜池さん)
悪性リンパ腫の治療は、がんの悪性度も治療法選択のために重要になる。
その悪性度は進行の速さによって、低悪性度(年単位でゆっくりと進行)と中高悪性度(月単位、週単位で進行)に分けて考えられる。
非ホジキンリンパ腫 | 低悪性度 | 中高悪性度 |
---|---|---|
B細胞腫瘍 | リンパ形質細胞性リンパ腫* 辺縁帯リンパ腫* MALTリンパ腫* 濾胞性リンパ腫* | マントル細胞リンパ腫* びまん性大細胞型リンパ腫 |
T/NK細胞腫瘍 | 菌状息肉症 | 末梢T細胞性リンパ腫 血管免疫芽球性リンパ腫 未分化大細胞型リンパ腫 節外性NK/T細胞リンパ腫 |
リツキサンの登場で治療成績が向上したB細胞型
B細胞型の非ホジキンリンパ腫の治療は、分子標的薬のリツキサン(一般名リツキシマブ)の登場によって大きく変わった。
リツキサンが日本で承認されたのは、2001年である。
「リツキサンは、B細胞腫瘍が特異的に持っているCD20という抗原に対する抗体です。体内のB細胞腫瘍を探し出して結合し、免疫の力で死滅させる働きをします。そのため、悪性リンパ腫の中でもB細胞腫瘍に対してしか効かないのです」(鵜池さん)
リツキサンが登場する以前は、化学療法のCHOP療法が行われていた。CHOP療法とは、エンドキサン(一般名シクロホスファミド)、アドリアシン(一般名ドキソルビシン)、オンコビン(一般名ビンクリスチン)、プレドニン(一般名プレドニゾロン)を併用する多剤併用療法である。
「リツキサンの登場で、B細胞腫瘍の治療はリツキサンとCHOP療法を併用するR-CHOP療法が標準治療となりました。それによって、治療成績は明らかに向上しました。ところが、リツキサンはT細胞腫瘍にもNK細胞腫瘍にも効果がないので、これらのタイプに対する治療は、現在でもCHOP療法が用いられることが多いのです」(鵜池さん)
B細胞腫瘍とT/NK細胞腫瘍の治療成績を比較すると、もともとT/NK細胞腫瘍のほうが治療成績はよくなかったが、リツキサンが登場することで、さらに差が開いたことになる。
T/NK細胞腫瘍、ホジキンリンパ腫の治療は、リツキサンが使えないという点で一致している。
そのため、リツキサンが登場する以前と、治療法はあまり変わっていないそうだ。
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