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病院とメーカー共同で臭いの主要成分の解明と消臭効果のあるパッドを研究中 乳がんの皮膚潰瘍による臭いから患者さんを開放したい!

監修●名取由貴 順天堂大学医学部附属練馬病院乳がん看護認定看護師
取材・文●黒木 要
発行:2018年6月
更新:2019年7月

  

「臭いに困っている患者さんに対してケアの方法に悩むことがあります」と語る名取由貴さん

乳がんは進行・転移すると皮膚表面に露出し、潰瘍になることがある。がん性皮膚潰瘍だ。強い痛みが起こり、出血や滲出液に細菌が感染すると臭いを放つようになり、潰瘍が広がると滲出液も増え、1日に何度もガーゼやパッドを交換しなければならない。「臭いで周囲も自分もつらい……」という精神的苦痛も含めて、患者のQOLを著しく損なう要因となる。そこで、順天堂大学医学部附属練馬病院と生活用品メーカーによる臭いの主要成分の解明とその消臭方法に関する研究が行われている。患者の協力を得て消臭効果を検証し、臭いケア製品の実用化につなげようとしている。

がん性皮膚潰瘍の頻度、発生部位は?

がん性皮膚潰瘍(かいよう)は、転移性がんの5~10%で発生するとされている。女性では乳がん、男性では肺がんによるものが多く、その他に頭頸部(とうけいぶ)がん、食道がん、腎がん、卵巣がん、大腸がん、膀胱(ぼうこう)がん、性器がん、メラノーマ(悪性黒色腫)などさまざまながんでも発生する。

発生部位としては乳房と頭頸部が圧倒的に多く、体幹、大腿部・腋窩(えきか)、会陰部(えいんぶ)などは数パーセントと比較的少ない。

がん性皮膚潰瘍はなぜ臭うのか?

乳がんの皮膚潰瘍が形成されるまでには一定のプロセスがあるという。

順天堂大学医学部附属練馬病院乳がん看護認定看護師の名取由貴さんによると、「乳房の皮膚表面の発赤、腫瘤(しゅりゅう:しこり)として気づくことがあります。腫瘤は次第に大きくなり、腫瘍の壊死が進み、自壊後潰瘍を形成します。それに伴い、出血や滲出液(しんしゅつえき)、部分的には膿を持つこともあります」

この傷口が嫌気性菌などに感染すると、揮発性短鎖脂肪酸(きはつせいたんさしぼうさん)と、腫瘍組織の壊死過程で生成する臭気物質が産生され、悪臭を放つようになる。

「潰瘍深部に感染が及ぶと、とりわけ強い臭いを発するようになるようです」

と名取さんは言う。

臭いを抑える治療は手薄

乳がんの進行・再発治療は、ホルモン療法や抗がん薬による全身療法が基本だ。そのうえで皮膚潰瘍がある場合は、痛みや滲出液など個別の症状に対する治療を行う。

滲出液が多い場合は、放射線治療も選択肢の1つで、患部への照射により、滲出液の量が減少、漏出が軽減することもある。

しかし、これらの症状に対する治療は、症状を抑える対症療法であり、がんを根治(こんち)させる治療法ではない。

乳がんの皮膚潰瘍に伴う臭い対策は長年手薄な状態にあり、ケアが中心だった。臭いは、傷口に細菌が感染することで発生する。

「潰瘍部のケアには、ガーゼや尿取りパッドや生理用ナプキンなどのパッドを被せて滲出液を吸収し、なるべく臭いが漏れないようにする、あるいは脱臭効果のある活性炭入りの脱臭シート使ったりするなど、医療施設ごとに工夫をしていました」

と名取さんは言う。

海外では治療薬に、古くからメトロニダゾールという抗菌薬が使用されていた。しかし、日本ではメトロニダゾールはトリコモナスなどの感染症に処方される経口薬しかなく、外用薬は承認されていなかった。

そこでがん性皮膚潰瘍に対しては、薬剤師がこれを砕いて粉末にしてワセリンなどの基材を混ぜて院内製剤としてメトロニダゾール外用製剤を作って患者に提供していた。施設によっては月に何10キロも必要で、院内製剤を作れる施設は限られていた。

やっと臭いに対する外用薬が保険適用に

2014年12月、日本でもがん性皮膚潰瘍に対するメトロニダゾールの外用薬(商品名ロゼックスゲル)がやっと承認を得て、2015年2月保険適用になり、どの施設においても使えるようになった。

「使用開始から数日間で、臭いが軽減した、という例も珍しくはありません」

と、名取さんもその効果を実感したそうだ。ただし、メトロニダゾール外用薬を塗布し、ガーゼで押さえるだけでは不十分な例もある。

「とくに潰瘍が大きく、滲出液の量が多いような例です。潰瘍の大きさや形、凹凸は患者さんそれぞれ違います。それでガーゼやパッドの隙間から滲出液が漏れてしまうような場合があります。滲出液は体の後ろ側に漏れることが多く、患者さんは臭いももちろんですが、液漏れも怖いのです。また、高齢の方などケアの継続が困難な場合もあり、メトロニダゾール外用薬で100%問題の解決ということはないですね」(名取さん)

そのような患者でも安心して装着でき、しかも消臭と吸収もできるパッドがあれば、多くの患者のQOL(生活の質)維持につながるのではないかとの思いが生まれた。

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